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ごめん、大好き



随分前に焦凍に言われたことがある。私は笑った方が良いって。その言葉が嬉しくて、鏡の前で一人笑顔の練習をしたこともあった。
焦凍の好きな笑顔のままで、焦凍の全てを支えてあげたい。そう思っていたことは事実だし、今も昔も変わらない私の考えでもある。その思いが例え事実を塗りつぶして他の色へ変化しようとしても、彼の色は目映くて、私はまた彼の色を求めていた。

私の瞳から流れ落ちるそれは、彼の頬を伝うものと全く同じものなんだ。そう思えるほどに彼は私の鏡であり、同じように私も彼の鏡でもあった。

そんな法則に気付けた私達はもうこれ以上、苦しむことなんてないんだ。自分が苦しくて痛いほどに、相手の苦しみが分かるから。


「…焦凍、泣かないで」
「なまえこそ…泣き止めよ」
「無理だよ…焦凍のこと好きだから。だからこの涙はきっと、止まることを知らないの」
「…何言ってんだ。そんなわけねぇだろ」
「どうして、そう言えるの?」
「…鏡、」
「鏡?」
「あぁ。俺らはお互いの鏡…だとすればもう、泣く必要は何処にもねぇはずだ」
「……じゃあ、なんで焦凍は泣いてるの?」
「そんなの…分かるだろ」
「…まぁ、痛いほどに分かるかな」
「なら、もう一人で抱えこむんじゃねぇ。一人で泣いてんじゃねぇ。泣くときはちゃんと俺の前で、俺の胸ん中で泣けばいい。…俺はもう、これ以上。なまえのことを傷つけたくねぇ。もうこれ以上、苦しむ心を見たくねぇ…だから、」
「…もういいよ、焦凍。ありがとう。焦凍も辛かったよね、ごめんね」


左右の色が異なるオッドアイから流れ落ちる涙は同じ色を映していた。彼の頬にそっと触れて、涙の跡を優しくなぞる。苦しさと、愛しさが溢れ出して私の心は大きく揺れた。
私のために涙を流す焦凍の姿がいつにも増して、愛おしいと思えてしまう。


「…焦凍」
「…ん、」
「私、焦凍のこと嫌いになろうとした。忘れようとした。自分の中から記憶を全て消しさろうと必死だった。あんなにも必死にもがき苦しんで出した結果だったのに…なんでかな。焦凍のことを忘れる方がもっともっと苦しかったんだっ…」
「…」
「やっぱりね、私…どんなになろうとも、私はもう既に焦凍がいなきゃ駄目みたい。自分勝手なことを言ってることは分かってる。焦凍を散々傷つけてこんなことを言える立場じゃないことも分かってる。…分かってるけど、どうしても。私は焦凍じゃなきゃ駄目みたい。自分勝手でごめんなさい。だけど、私…やっぱり焦凍が好きだから…」


震える私の肩を優しく抱いて、もう何も話すなと、そんな焦凍が聞こえてきそうだ。私の言葉を遮るように、私の口を凍焦の愛が優しく塞ぐ。久方ぶりに感じた温もりは、少しだけ震えていた。壊れ物に触れるような、そんな彼からの愛情が痛いほどに伝わってくる。

ごめんね、焦凍。本当にごめんなさい。
だけど私は貴方のことが好きで好きで大好きで、苦しいほどに愛おしい。


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