×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

笑顔溢れる愛しさを




涙が止まった。それと同時に感じたのは懐かしい温もりと、規則正しい焦凍の寝息の音だった。身体を少し動かそうと力を入れるのに、動かないのはきっと、焦凍が抱きしめてくれているからだろう。
少しだけ肌寒く感じる早朝に、暖を取り合うように私は焦凍の素肌へ身体を寄せた。相変わらず鍛え上げられた焦凍の身体には、いつになくかすり傷が沢山あった。以前感じていた弾力も、跡形もなく消え去っていた。その原因を作ってしまっていたのも自分かと思うと、どうしようもない程の罪悪感に包まれてしまう。涙が止まったはずなのにまた瞳に集まるこの熱は果たして何を訴えているんだろうか。


「焦凍…」


ごめんね。そんな言葉を囁くように傷口へ優しく口付けた。痛々しい傷口が、少しでも早く治るように。今の私にはこれくらいのことしかしてあげれないけど、彼にはもうこれ以上、要らぬ心労をかけたくないんだ。


「…くすぐってぇ」
「起きてたの?」
「いや…今目ェ覚ましたとこだ」
「…おはよ」
「ん、…少し肌寒いな。大丈夫か?」
「うん。焦凍がいるから寒くないよ」
「…肩冷えてんじゃねぇか。もっとこっちこい」
「…うん」


嬉しくて、ちょっぴり照れ臭くて。素直に焦凍に抱きつけば、優しく肩を抱いてくれた。素肌と素肌が触れ合って心地良い一時が嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまう。


「…なまえ」
「何?」
「もう泣かせたりしねぇから。笑ってるその顔が俺は何よりも好きだ」
「…なんだか照れるよ」
「だからもう、一人で抱えて泣いてんなよ。そうさせねぇように俺ももう少し大人になる」
「焦凍は十分大人だよ、昔から。昔から私の方が子供っぽくて呆れちゃうけどね」
「呆れてねぇよ。なまえはなまえでそれでいい」


直球すぎる直球な言葉に、毎度ながら私の心臓は乱れまくっていた。素直すぎる焦凍だからこそ、こんな言葉をすらすらと口にできるのだろう。

嬉しさと幸せに酔いしれて、彼の胸へと耳を当てた。ドクドクと脈を打つ心音が私の心を和ませる。彼と笑い合えるこの日々が、私達の何よりもの幸福論とも言えるだろう。

互いの心に向き合って喧嘩しながらも気づけたこの感情に、感謝の気持ちを添えながら、優しく微笑む彼の口元に自分の唇をそっと静かに宛がった。

prev next