黒バス | ナノ




「そんなにしたいなら一人ですればいいじゃないですか」


 連日のハードすぎる練習で身体はもう限界を迎えていた。毎日帰って来てすぐにベッドに倒れこんで、お風呂にも入らずに寝ることがほとんどだったのだが、それでも朝は朝で朝練があるのでゆっくりも寝ていられない。今日も今日とて、制服のままベッドに倒れこんで、黒子は下がる瞼に逆らわずにそのまま目を閉じる。そうすればすぐに思考が薄らと遠のいて、身体が布団に沈んでいく。明日は土曜日、午前中だけの練習だ。でもきっと、練習終わりにも自主的に練習する相棒に付き合うことになるのだろう。そう考えれば、疲れてはいても自然と頬が緩んだ。
 ふわふわとホワイトアウトする思考の片隅で、電子音が鳴る。うるさい、動きたくない。無視しようと決め込んで意識を手放そうとするが、電子音は鳴りやまない。
 軽く舌打ちをして制服のポケットから携帯を取り出すと、ディスプレイには想像通りの名前が表示されていて、それは黒子をより一層疲れさせるのだった。

「もしもし、」
「っ、……くろこっち、」
「……もう、いい加減にして下さい」

 黄瀬君、と続ければ、手の中の彼の声は切羽詰まった声色で黒子の名前を呼び続ける。電話越しに聞こえる甘ったるい声と荒くなる吐息に、最初こそ戸惑い、羞恥を感じていたものの、こう何回も続いてはもう呆れることしかできなくなった。





 好きだ、愛してると直情的に黒子を求め続ける黄瀬に根負けして、二人が性別の壁を越えて「恋人同士」になったのは4か月前のこと。口では冷たくあしらいながらも、中学からの付き合いの黄瀬に対してどうしても甘い面がある黒子が、黄瀬の願いを拒みながらも受け入れ続ける関係が続いていた。
 付き合いが始まる前はスキンシップ過多だった黄瀬が、恋人になってからは黒子に触れてこなかったし、それを求める様子もなかった。恋人としての関係性を受け入れはしたものの、黄瀬に抱く感情は付き合いの長い友人への情の域を出ないと考えていた黒子は、それに拍子抜けしたのだった。残念だとか、そんなことを思ったのではない。ただ単に、構えていただけに肩透かしを食らったと言うだけで。
 そんな二人の関係に変化が訪れたのが1か月前の話。3回目の黄瀬家への訪問の際、それまでそんな様子を全く見せなかった黄瀬のタガが、何かの弾みで外れた。結果、泣いて縋る黄瀬を無碍に拒むことが出来なかった黒子が、身体を繋げたこともないのに足でしてあげる、と言う変態行為に及んだ。
 中学時代のチームメイトの性器を自分の足で踏みつけて、しかもそれを相手が泣いて喜んでいると言う異常な状況の黒子にパニックに陥りそうになった。必死で足を動かして、黄瀬が乞うままに力を込めて、一刻も早く終わらせようと努めた結果、勢いが付いた黄瀬にそのまま押し倒されて、判断力の弱まった黒子のおざなりな拒否は盛りの付いた彼の前では無意味で。全く以て不本意ながら、黒子はその日、恋人と初めて身体を繋げることになったのだった。
 同じ男同士、性欲に脳みそが支配されている間はただただ快楽を求めるだけで真っ当な思考が出来ないことは分かっている。だがしかし、拒絶の言葉ばかりを吐く黒子の身体を自分本位に抱いた黄瀬が、行為の後に取り戻した理性と共に見事な土下座を見せても、そう易々と許すことは出来なかった。

「ごめん、ごめんね、黒子っち、本当にごめん」
「……ボク、嫌だって言いましたよね」
「はい……」
「嫌だからって言ったら、じゃあ足でって言うからしてあげたのに、この仕打ちですか」
「ごめんなさい、オレ、本当に黒子っちのことが好きで、」
「好きなら何をしても許されると思ったら大間違いですよ」

 力の入らない身体に鞭打って、赤い痣があちこちに散らばる身体をタオルケットで隠しながら上半身を起こす。ベッドの下で土下座してつむじを見せる黄瀬を、黒子は最大限の恨みを込めて睨みつけた。
 腰が鈍く痛む。明日は土曜で、試験期間の為にしばらくは部活に出なくて良いのが不幸中の幸いだ。こんな状況では、激しい動きなど出来る筈がない。
 顔をあげて涙目で見つめてくる明るい琥珀に、うっかり絆されそうになるが、それでは今までの二の舞だ。ぐっと言葉を飲み込んで、黒子はため息を吐いた。

「黒子っち、お願い、嫌いにならないで」

 はらはらと涙を流す様の何と美しいことか。黙っていれば冷たい印象を与える程の美貌が、今は所在なさげに幼子の様に黒子を求めてただ涙を流している。
 彼のしたことは許されることではない。いくら恋人同士とは言っても、こう言った行為は両人の同意を経て行われるべきである。決して許され得ない。許され得ない、のだが。

「……嫌いにはなりません。呆れて怒っているだけです」
「本当!?」

 途端に表情を明るくして身体をこちらに向けて動かそうとする現金な彼を視線だけで去なせば、しゅんっとあからさまに落ち込む。なんと分かりやすいことか。

「ただ、また同じことがあったら今度こそ嫌いになります」

 黒子とて思春期の男子だ。性欲だって、勿論ある。だがしかし、性欲があるからと言って同性に抱かれたいとは思わない。抱かれるのではなくて抱きたいし、相手はもちろん女の子の方がいい。それをしないのは、バスケに専念する黒子にその余裕がないことと、それをした時の黄瀬のことを考えるとどうにも気が進まないからなのである。慕情はないが、情はある。黄瀬が落ち込む様は、出来れば見たくない。
 だから、今後黒子には性的な意図をもって触るな、そう言えば黄瀬は綺麗な眉尻を下げて、また涙を零した。性的な接触ばかりを望むのであれば、相手は黒子ではなくても良い筈だ。そう言えば、それは違う、と鋭い物言いで返された。

「オレは黒子っちだから触りたいんス。他の人なんて、いらない」

 なんでわかってくれないの、と言外に含みながら尚も泣き続ける黄瀬に根負けするのは、今回も黒子の様である。普段は冷たくあしらえるのに、どうしていざという時にこの男に強く出られないのか。はぁっと深いため息を吐いて、黒子は譲歩案を提案した。
 黄瀬の言い分はわかった、だがセックスだけはもうしたくはない。身体への負担が半端ではないのだ。こんな行為を繰り返していたら、間違いなく部活に支障をきたす。
 だが、黄瀬の言うこともわからないではない。好きな相手に触りたいと言う気持ちは理解できる。健全な男子高校生だ、我慢ばかりは身体にも良くない。

「だから、一人でして下さい」

 黒子の提案が想定外だったのであろう、黄瀬はぽかんと口を開けて呆けたまま黒子の顔を見た。
 相手をすることは出来ない。だけど、我慢をしろとも言えない。だから、一人でする分には文句は言わない。
 黄瀬は不満を残した顔のままだが、現状で立場が弱いことは否定できない。これ以上ない譲歩をした黒子に、頷くことしか選択肢はなかったのだった。





 だがしかし、黒子の「これで平穏な日々が戻るだろう」と言う目論見は見事に外れた。
 この日から三日後、いつもの様に黄瀬からの電話に出た黒子の耳に届いたのは、三日前に嫌と言うほど聞いたあの切羽詰まった色を含んだ声であった。
 苦しそうに黒子の名前を呼ぶ声にすぐに通話を切ったのだが、再度しつこく鳴る電話を取れば、一人でするのは良いんでしょ? と言われて唖然とした。

「相手をすることは出来ない。だけど、我慢をしろとも言えない。だから、一人でする分には文句は言わない」

 言った、確かに言った。だけど、何も黒子を巻き込んですることではない。それでも、お願い、もう触らないから、と切に言われればまた断ることが出来ない。
 結果、耳元で黒子の名前を呼びながら彼が達するまでの10分間、黒子は黄瀬に付き合うことになった。黙ってその場を遣り過ごそうとすれば、名前を呼んでと懇願される。名前を呼べば、愛してると返される。熱っぽい声と微かにだが確かに聞こえる水音に、嫌が応でもあの時の場面がプレイバックされる。うっと小さく呻いてどうやら達したらしい彼が黒子の名前を呼んだのを聞いてから、黒子は無言で電話を切った。
 それからという物、日を1日と開けずにその電話が続いた。大体、黄瀬とて強豪校のエースだ。練習で疲れていると思うのだが、それでも毎日電話をかけてくるあたり、彼の考えることは本当にわからない。その僅かな時間でも睡眠に当てれば、どれほど有意義だろうか。

「くろこっちには、はっ……わかんっ、ないかもね」

 荒い呼吸を繰り返しながら、彼は電話越しにそう言った。わからないし、正直わかりたくない。黒子の声を聞いて、自分を慰めて、何が楽しいのだろうか。
 今日も今日とて、名前を呼びながら好きだ好きだと連呼する彼にはい、と返した瞬間、彼は小さく呻いて達していた。





 夢を見るようになってしまった。
 疲れて泥の様に眠るのだが、寝る間際にかかってくる黄瀬からの電話のインパクトが強すぎるのだ。明け方、薄らと意識が浮上する時間に決まって出てくるのは、1か月前のあの光景。何故だか縋る様に腰を動かす黄瀬と、その下で痛みに顔を歪ませる自分自身を見下ろすアングルからだったりもするが、大抵があの時の視界のまま、見上げる黄瀬から滴り落ちる汗の感覚だとか、肩に着くまで足を持ち上げられた時の関節の痛みとか、自分を呼ぶ甘い声とか息遣いとか、鮮明に夢に見てしまう。耳元で囁かれる自分の名前だけは、あの時の物なのか、眠りに落ちる直前のものだったのか、その判断だけは付きかねたが。
 初めてキスをした直後の、伝う唾液を恍惚と眺める表情とか、黒子の素足の下で質量を増して、吐精して、質量を失っていく彼自身だとか、脇腹をくすぐる彼の体温だとか、痛みに息を止める黒子の頭を撫でる掌とか、喉仏をなぞる舌のざらついた表面とか、とか、とか。
 あまりにも生々しいその夢に、目覚めた時に下半身を確認した黒子は絶望した。しっかりと反応したそこを放置するわけにもいかず、自分で慰めれば更に夢を思い出してしまう。悪循環だ。最悪だ。黄瀬の性欲が電話越しにうつってしまったのではないか、そんなバカなことを考えている自分に自嘲気味に笑った。





「黒子っち、今日うち来ない?」

 いつもの様に唐突に校門に立っていた彼にいつもの様に誘われて、だがしかし、黒子の内心だけはいつも通りではなかった。黄瀬の顔を見れば、声を聞けば、嫌でもあのことを思い出してしまう。
 毎晩毎晩、電話で黒子を求めて狂ったように一人でシている彼が、今は制服を着て笑顔で微笑んで、一般観衆の視線を一身に集めている。そのギャップを厭らしく感じている自分自身に気が付いて、いよいよ毒されているな、と黒子は落ち込んだ。
 とにかく、こんな状態で彼と密室に二人きりになるわけにはいかない。お断りします、とにべもなく告げれば、黒子の苦手なあの表情で落ち込んで見せる。もしかして黒子が自分に甘いとわかっていてやっているのだろうか、それならば性質が悪い。

「ボク、最近あまり寝れてないんです。今日はゆっくり寝ます」
「オレの家で寝ればいいじゃないっスか」
「……身の危険しか感じないので嫌です」
「身の危険はないっスよ」

 嫌にはっきりと言い切る彼に視線を遣ると、にっこりと慈愛に満ちた表情でこう言い切られた。

「だってオレ、黒子っちには触れないから」

 だから安心してよ、と言われて、黒子は返す言葉がなかった。





 部屋についてしばらくは雑誌を見たり、最近の部活の状況を報告し合ったりしていたのだが、その内自然と会話が途切れた。無言で雑誌のページを繰る音だけが部屋に響く。この部屋はやはり黄瀬の匂いがして、それが何ともむず痒い。目を閉じれば黄瀬に抱きしめられている様な錯覚を起こしてしまいそうで、黒子は極力瞬きをしないように努めた。
 文字列に意識を集中させていると、テーブルを挟んで向かい合って座る黄瀬がそわそわと落ち着きなく揺れていることに気付いてしまった。見れば、目元が薄らと赤くなっている。もうそう言う反応には慣れてしまったものの、電話越しではない、今目の前にいる彼と言う存在感にどうしたものかと躊躇っていると、先に黄瀬が口を開いた。

「黒子っち、あの、」
「……勝手にすればいいでしょう」

 極力冷静を装ってそう答えると、黄瀬は視線を泳がせた後にもぞもぞと動き出した。かちゃかちゃと言う金属音と、ジッパーの音、それに混じって黄瀬の熱いと息が聞こえて、黒子は顔に血がのぼって行くのを感じた。
 電話越しで1日と開けずに聞いていた声と音だったが、電波を通すのとそうでないのとではその印象が大分違った。その場にいる黄瀬涼太と言う男の存在が、現実感を強くしていく。見ないようにと視線を雑誌に固定するのだが、視界の端で動く黄色にばかり気が取られる。次第に早くなる彼の腕の動きに、活字を追うことを忘れていると、苦しそうに名前を呼ばれた。

「はっ……くろこっち、」
「……なんですか」
「好き、だいすき」
「知ってます、」

 そう答えれば、黄瀬はぼろぼろと大粒の涙を流した。気が付けば好きだ、好きだと言いながら必死で自分自身を追い詰めて行く彼を見つめていた。
 泣きながら右手で自分自身を慰める姿は一層、祈っている様であった。名前を呼ばれる度に背中が粟立つ。何でこの人は、こんなにも自分の名前を呼ぶのだろうか。求めても繋がる意志のない、この自分を。黄瀬はモテる。相手なんて選り取り見取りだ。それを何故、全てにおいて平均並みの黒子を選んだのか。軽くあしらわれて、冷たくいなされて、それでも黒子の名前を呼び続ける。黒子を好きだと言いながら欲望を高めて黒子の目の前でそれを処理する。
 黄瀬の動きに比例して、粘着質な音が大きくなっていく。あの時、黒子の足の裏で感じたそれが、今は黄瀬自身の手の中で質量を増して行っているのだと思うと、胸の奥が締め付けられるようだった。黒子の動き一つで高度を増したそれが、今は一人で形を変えている。黒子の一挙一動を見逃すまいと動き続ける視線が、今は固く閉ざされた瞼の所為で感じられない。
 好きだ好きだと言いながら、結局求めているのは快楽だけで、ボクのことなんて見ていないじゃないか。

「ん…、くろこっち?」

 考えて動いたのではなかった。気が付けばテーブルを挟んで向かい合っていた黄瀬の隣に移動して、その手元に視線を落とした。4か月ぶりに見るそこは赤黒くて、やっぱりいくらモデルのものだと言ってもそこは見目麗しいとは言えないな、とどこか他人事の様に考えた。
 黄瀬の手元を見つめる黒子を不審に思ったのか、黄瀬は目元に涙を溜めたまま手を止めて黒子を見遣る。涙の膜には、確かに黒子が映っている。

(なんだか、すごく甘そうだ)

 冷静に考えればそんな筈はないのだが。爽やかで甘いにおいがして、べっこう飴色した目の黄瀬の涙ならばもしかしたら甘いかもしれない、と半ば本気で黒子は思ったのだ。
 ゆっくりと近付くと、その動きに合わせて黄瀬は視線だけを動かす。べろりと目元を舐めると、反射的に閉じられた瞼から大粒の涙がこぼれてきたので、再度それを舌で掬った。塩っ辛い。そりゃそうだ。
 黒子の行動に驚いたのだろう、大きく目を見開いた黄瀬戸至近距離で目が合う。口の形だけでくろこっち、と呼んだのを見て、また息が苦しくなる。

「二人でいるのに、何一人で気持ち良くなってるんですか」

 相手をすることは出来ない。だけど、我慢をしろとも言えない。だから、一人でする分には文句は言わない。
 そう言ったのは確かに黒子自身だ。今の黒子の発言は、それに矛盾している。この件に関して、黄瀬に非はない。だけど、言わずにはいられなかった。ああ、やっぱりバカは電話越しでも感染るんだなぁと思いながら、黒子は動きを止めたままの黄瀬の手を彼自身から払いのけた。
 呆気にとられてただただ黒子を見つめる彼に、悪戯心が芽生える。より強い快楽を刻みつければ、黒子を前にして一人でなんてしなくなるのではないか。より強いイメージを植え付ければ、快楽ばかりを追うことをやめるのではないか。しばしの逡巡の後、黒子は黄瀬の股間に顔を埋めた。

「はっ!? え、黒子っち、何して……!」
「らまってくらひゃい」

 銜えたまま喋れば、頭上で黄瀬が息を呑んだのが分かった。喉から伝わる振動を直に感じたのだろう。べろり、と表面を舐めてから、てっぺんに軽く口付ける。間近で見ると、やはりグロい。黒子は小さな口を限界まで開けて、根元までそれを銜える。勢いをつけすぎて喉に当たってしまい、大きくせき込むと黄瀬が背中を撫でてくれた。

「黒子っち、大丈夫? 無理しなくてもオレ、」
「黄瀬君、気持ち良いこと好きなんですよね」
「え、まぁ」
「ボクのことも好きなんですよね」
「うん、大好きっス」

 じゃあ大人しく気持ち良くなってて下さい。そう言って黒子はまた口の中に意識を集中させる。
 先ほどまで黄瀬自身でしごいていた為に起立しきったそこは、黒子の口に収めるには質量がありすぎた。ハーモニカを吹く要領で、凹凸のある表面をなぞると、熱い息がこぼれる。先端から半透明の汁が溢れて来て、それを舐めとると苦さで舌がびりびりと痺れた。青臭さと苦さに生理的に零れる涙を無視して、今度は先端だけを口に含む。括れを舌で舐めると、断続的に名前を呼んでいた声が詰まった。

「んん、っは、やば……もう無理かも」
「案外早いれふね」
「は……っ、好きな子にこんなことされてるんだから、しょうがないっしょ」

 そんなもんか、と尚も口を動かす。必死で動く頭を黄瀬は愛しげに撫でる。柔らかい髪を掬いあげると、するすると指の間から逃げて行く。口いっぱいに含んだものを扱く要領で口をすぼめて吸いながら上下させると、黄瀬は小さく呻いて黒子の口の中で果てた。

「うわ、ごめん黒子っち、大丈夫!?」
「にが……うぇ」
「うわー! 吐かないでちょっと待って!」

 口元に差し出されたティッシュに、黒子は口の中の精を吐き出した。何と言うか、もう二度と味わいたくない味だ。喉の奥に絡む後味に咳払いをした。これから、バニラシェイクを飲む度に、出来ることなら一生知りたくなかった他人の精液の味を思い出すんじゃないかという考えに至り、その考えに至った自分を呪った。とりあえずうがいがしたい。洗面所を借りようと顔をあげたところに影が落ちる。あ、と気付いた時にはもう、黄瀬に口を塞がれていた。
 口に残る精液のカスを全て拭う様に、丹念に口の中をこねて行く舌の動きに黒子は目を閉じた。自分の精液が残る口にキスするなんて、本当にこの人の考えることは分からないと思いながら、黒子は黄瀬の背中に遠慮がちに手をまわした。



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