6話








「……赤葦」
「……はい」
「お前の予想が当たったみたいだな」
「…当たってほしくなかったんですけど」

見るからに集中力のない木兎に梟谷学園男子バレーボール部員は、マネージャーを含め頭を抱えていた。このタイミングでの下手な刺激は彼の調子に対して致命的になる可能性もある。

「…誰がいく?」
「そりゃ赤葦だろ」
「えっ」
「副主将だしな」
「それ関係ありますか?」
「「「ある」」」
「……じゃあ行ってきます」

三年の面々にじっと見つめられた赤葦は、溜息をつくと木兎に向かって歩き出した。

「木兎さん」
「んー??」

アンダーでボールを捉え真上にあげて練習しているように見えてはいるが、完全に心ここに在らず、といった様子だ。

「木兎さん、今日あまり調子が良くないようですが、」
「うん……」

木兎は上げていたボールをキャッチして腕に抱えた。

「何かありました?」
「……あかーしぃ…」
「はい」
「どうしよう」
「何したんですか」
「…絶対にやっちゃいけないことやっちゃったっぽい」
「……は?」

赤葦は眉間に皺を寄せた。

「なあどうしよう赤葦ぃ!」
「ちょ、木兎さん落ち着いてください」
「無理!!」
「……で、春原先輩に何したんですか?」
「あれっ俺栞の話だって言ったっけ?」
「言われなくてもわかります」
「赤葦すげえ…」
「で、何をしたんですか」

木兎が眉を寄せ唇をぎゅっと噛んだ。


「木兎さん」
「……その、」
「はい」
「あの、」
「はい」
「…………、した」
「え?」
「ちゅーした……」
「「「…………は?」」」

遠くで聞き耳を立てていた三年生と赤葦の声が被った。

「いや、あの、木兎さ」
「俺も何であの時やっちゃったのかわかんねーの!思わず、その、思わずな!?」
「待ってください。告白したんですか?」
「いや、してない」
「お前っ、ばっかじゃねえの!?」

木葉が半ば叫ぶように言った。

「だって、あの、……」
「その言い方だと合意の上ではないようだな」
「いやー、流石に庇いきれん」
「サイテー」
「ないわ」
ッ、」
「マネ二人にゴミを見るような目で見られているな」
「木兎さん、それはいつですか」
「き、昨日の放課後……」
「どこでですか」
「栞が練習してた空き教室」
「……他の部員は?」
「いない。栞ひとりで練習してて、歌ってってお願いしたら歌ってくれて、やっぱりめちゃめちゃ上手くて、その、めっちゃ可愛くて、見てたらつい……」
「はあ、」

木兎の肩がびくっと跳ねた。

「で、どうしたんですか」
「謝った」
「栞さんはなんて?」
「何も言わずに教室を出てった」
「それは……よくないですね」
「そんで今日も謝ろうとしたんだけど…」

何かを思い出したかのように落ち込む木兎。

「全然会えなくて、昼休みすれ違ったから声かけようとしたんだけど、…目を逸らされて、逃げるみたいにどっか行っちゃって……」
「それは……」
「うん……」
「そうだな……」
「嫌われちゃったねー」
「白福!」
「えー、だって本当のことじゃん」
「ま、自業自得よね」
「マネズがキツい」
「そりゃ突然そんなことされたらな」
「でも、木兎のことは嫌いじゃないとおもうんだけどな」
「まあ向こうに興味があればワンチャン…」
「えっ本当!?」
「……木兎さん、確認なんですが他には何もしてないですよね?」
「え?」
「キスを一回した“だけ”ですよね」
「あ、え、あ、その、」
「…木兎さん」
「いや、そのちゅーをする時に、ちょっと調子乗って、その、舌を、」
「した?」
「舌を、入れようとしました」
「……終わったな」
「い、入れようとしただけ!入れる前に突き飛ばされたから」
「そういうことじゃねェよ」
「木兎さん」
「わ、わかってる!反省してる!」
「はあ、」
「見ろ、マネ二人の引き具合を」
「え、そんなに!?」
「好きでもない男にそんなことをされたら吐く」
「吐くね
「うう……」
「でもそうする?このままだと、謝罪すら受け入れてくんねえだろ」
「俺が一旦春原さんと話してみます」
「赤葦……!」
「期待はしないでくださいね」
「うん!」
「あと、きちんと反省してくださいね」
「う、うん……」



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