軽率で慎重な青春








「最近、木兎の調子が安定しすぎている気がする」

そう言った木葉に、皆静かに頷いた。

「こう、プレーに無駄がないというか」
「それな」
「アイツ何かあったのか?」
「赤葦知ってる?」
「いえ、特には……」
「赤葦も知らないのか」
「何だろうなー」

ベンチの側でドリンクをがぶ飲みしている木兎を皆でじっと見つめながら、ここ最近の木兎に思いを馳せた。

「………あ、」
「どうした?鷲尾」
「いや、もしかしたら、ということがあってな」
「なになに?」

木兎に気づかれないように皆鷲尾の方に耳を寄せた。

「春原かもしれない」

鷲尾のその言葉に反応したのは赤葦だった。

「……それって演劇部の春原先輩、ですか」
「おっ、思い当たる節があるみたいだな」

興味津々、と言った様子で自分を囲んだ三年に赤葦はいつもの如く真顔を貫いた。

「……一度木兎さんに相談されて」
「相談?」
「春原先輩のことが好きかもしれない、と」
「「「ああ……」」」

その瞬間、天を仰ぐかのように上を向いた三年に赤葦は苦笑した。

「でも木兎さんのことなので本気かどうか分からなくて軽く止めておいたんですけど」
「まあ、正解だな」
「でも、鷲尾さんがそう言うなら、確定かもしれません」
「鷲尾は何見たの?」
「ああ、この間話しているのを見かけたんだ」
「へえ」
「放課後の教室で」

その言葉を聞いて皆一瞬黙ったため、静寂が訪れた。

「……二人きりだった」
「「二人きり!?」」

周りに人は!?という問いに鷲尾は首を振った。

「それって放課後の教室に二人きりで、って意味か!?」
「ああ」

皆口をぽかんと開けて、ストレッチをしている木兎に視線を移した。

「いつの間にそんな仲に…」
「たまたま、とかじゃないんですかね」
「それいつ頃?」
「三日前だな」
「つまり今週に入ってから」
「辻褄は合うな」

木葉はそう言うと木兎の方を向いて大きく口を開けた。

「木兎ー!」
「なにー?」

勢いよく向かってきた木兎に皆苦笑した。木葉は木兎の肩に腕を回し、口を開いた。

「お前、春原となんかあったの?」
「エッ!」

ビクッと反応した木兎に赤葦がため息をついた。

「木兎さん、何かしたんですか……」
「まだ何もしてない!」
「おい今コイツ“まだ”って言ったぞ」
「本当に何もしていないんですね?」
「うん、だって赤葦がもっと仲良くなれって言うから」
「え!?覚えてたんですか!」

目を丸くする赤葦に木兎は頬をふくらませた。

「当たり前だろ!俺のことなんだと思って、」
「で、何したの?」

木兎の台詞を遮ってそう聞いた猿杙に、木兎は食ってかかるように身を乗り出した。

「だから!何もしてないってば!最近ちょっと話してるだけ!」
「いつ?」
「……たまたま会った時?」
「へえ」
「最近廊下ですれ違ったりすると小さく手を振ってくれたりすんだよ!めっちゃ可愛い」

体育館がシン、と静まった。

「え、なに」
「いや、木兎さんがちゃんとしてると思って」
「あかーしそれどう言う意味!?」
「それで調子がいいのか」
「えっ俺調子いいの?」
「派手にいい、って感じじゃなくてすげー安定してる」
「マジ!?」
「…………」
「どうした?赤葦」
「いえ、今はいいんですけど…」

首を傾げる三年の、赤葦は木兎に聞こえないよう小声で囁いた。

「もし春原さんとの関係がうまくいかなくなった時が怖いな、と」
「「「ああ……」」」

落ち込んだ時の木兎の面倒くささを思い出し皆頭を抱えた。

「なになに?何の話?」
「いえ、なんでもないです」

真顔でサラリとそう言った赤葦に木兎は口を開いた。

「でさ!赤葦はどう思う?」

赤葦は嫌な予感がしたが、大人しく聞き返した。

「……何がですか?」
「そろそろ告っていいと思う?」
「「「は!?」」」

三年の大きな声が体育館にこだました。

「ん?もう結構仲良くなったと思うんだよな」
「「「いやいや待て待て」」」
「えー……いつまで待てばいいんだよー」

口を尖らせる木兎。

「お前、春原のことまだ何も知らねえだろ?」
「え?五組で演劇部のレギュラー!」
「その言い方は合ってんのか?」
「だって栞がレギュラーみたいなものって言ってた!」

にこにこと嬉しそうな木兎に赤葦は口開いた。

「……木兎さん的にはどうなんですか?」
「何が?」
「その、手応えというか。春原さんは、木兎さんのこと好きだと思います?」
「んー、手を振ってくれるから嫌いではなくない?」
「まあ、そうですね」

木兎の顔がパッと明るくなったところで木葉が口を開いた。

「恋愛感情なくても友達ならするんじゃね?」
「そうですね」
「どっちだよあかーし!」

憤っている木兎に赤葦は口を開いた。

「だってきちんと知り合ってまだ二週間も経ってないじゃないですか」
「それは……そうだけど」
「多分、今木兎さんの思いを伝えられても春原さんはびっくりするだけじゃないでしょうか」

うんうんと頷く三年に木兎は不満げに口を尖らせた。


軽率で慎重な青春
「じゃあもうちょっと待つ……」
「はい、それがいいと思います」



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