錯綜する思い








「「あ」」

昼休み、購買近くの自販機の前。賑やかな声の中で二人の声が重なった。

「栞じゃん!」
「木兎くん、こんにちは」

昔からの知り合いのように話しかけてきた木兎に栞は驚きながらも挨拶を返した。

「俺ら全然会わねーな!」
「そうですね」

そう笑顔で言う木兎に栞は苦笑した。

「五組つってたよな!…ってことは鷲尾と一緒?」
「はい」
「いーなー鷲尾!あ、飲み物買いに来たの?」
「はい」
「何にすんの?」
「りんごジュースにします」
「そっか!」

木兎は自販機の前に立ち、小銭を入れてりんごジュースのボタンを押した。

「はい!」
「え、」

栞は差し出されたりんごジュースと木兎の顔を交互に見ながら困惑した。

「これお祝い!」
「おいわい……?」
「演劇部の!レギュラー入りの!」

栞はポカン、とした顔を正して笑顔を向け、りんごジュースを受け取った。

「……ふふ、ありがとうございます」
「どーいたしまして!」
「あの、でも本当にいいんですか?」

木兎は満面の笑みで大きく頷いた。

「うん!俺がお祝いしたかったし!てかそれやめね?」
「……はい?」

話の展開についていけなかった栞はそう返すのがやっとだった。

「敬語!俺ら同い年じゃん!」
「は、……うん、わかった」
「よし!俺今から部活のミーティングだから!」

そう言って自分の分の飲み物を買った木兎を栞は呼び止めた。

「木兎くん」
「なーに?」
「えっと、……頑張ってね!」
「おう!」


栞は、木兎の後ろ姿を見つめながら後ろ姿でも輝いているな、とこっそり思った。
木兎と分かれた栞は、渡り廊下の窓から外を見る。そして窓枠にりんごジュースを置くと、少し屈んでそれを眺めた。スカイブルーにりんごジュースの赤いパッケージが映える。スマートフォンをポケットから取りだし、青空を背景にりんごジュースを写真に収めた。

「これで、よし」

その写真を待ち受けに設定して、栞は教室に戻った。
















「……ってことで、次の合宿は生川でやるから……って、木兎!聞いてる?」
「…………」
「木兎ー?」
「…………」

合宿の打ち合わせ中に、心ここに在らずな木兎に白福が呼びかけても反応がない。赤葦は少し大きめな声で木兎の名前を呼んだ。

「木兎さん」
「え、あ、何?」
「もーちゃんと聞いてよー!」
「ご、ごめん雪っぺ!合宿な!聞いてる聞いてる!」
「ほんとに〜?まあいいや。で、生川でやるから学校からバスが出るので皆乗り遅れないようにね〜」

各々返事をしてミーティングが終了した。









「木兎さん」
「ん?なんだ赤葦」
「……何かありましたか」

しょぼくれモードとは違う、しかしいつもとは異なる雰囲気に赤葦は木兎に声をかけた。

「……栞いるじゃん」

木兎のその言葉に赤葦は自分の記憶を手繰り寄せた。

「栞?……ああ、演劇部の」
「そーそー!」
「……それで?」
「うん、俺好きかもしんない」
「は?」
「いや違うな、好きかも、じゃなくて普通に好き」

赤葦は自分の知る限り、二人の接点はあの時だけだったと記憶していた。けれど、二人は同学年なのだ。選択授業が同じだったり、廊下ですれ違ったり、何かしらの接触があってもおかしくはない。

「……あれからよく会うんですか?」
「いや、ぜーんぜん」
「え」
「クラス遠いから全然会わない。さっきあの日ぶりに会って少し話した」
「はあ、」
「なー、告ったら上手くいくと思う?」
「は?えっと、いや、早くないですか?」

ジェットコースターよりも早いのではないかと思う展開に、それが勇み足にならないようにするためにはどう動くべきなのか、と赤葦は頭を抱えたくなった。

「鉄は熱いうちにナンタラって言うじゃん!」
「間違ってはいないですが、この場合に限っては間違ってます」
「そーなの?じゃあどのくらい待てばいい?」
「ええ……」
「だって付き合ったら会う理由になるじゃん」

会いてー、という木兎に赤葦は額に手を当てた。木兎の辞書に、こと恋愛においては“慎重”という文字はない。

「木兎さん」
「ん?」
「そもそも、……えーっと栞さんって苗字なんて言うんですか?」
「みょーじ?春原!」
「ありがとうございます。で、本題なんですが、春原先輩って付き合ってる人はいないんですよね?」
「…………え?」

赤葦の言葉にポカンとする木兎に、赤葦はため息をついた。

「彼氏が既にいるかもしれません」
「そんな……俺聞いてくる!!」

ガタガタと椅子から立ち上がった木兎を赤葦はすんでのところで何とか止めた。

「ま、待ってください」
「なんで!善は急げって言うじゃん!」
「今木兎さんがしようとしている事が善とは限りません。落ち着きましょう」
「お、おう」
「木兎さん、下手に嫌われたくなかったら、ゆっくりと、もう少し仲を深めてからにしましょう。その方が絶対いいです」
「まー、赤葦がそう言うなら……」

納得はしていない、ただ過去の経験からここは言うことを聞いておいた方がいい。木兎はそう思った。


錯綜する思い
交わったり、すれ違ったり



[*前] | [次#]
main

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -