縋り付く関係



人を好きになる。
それはこの世に生を受けていれば、一般的に、ごく当たり前に、自分の身に起こる現象だと思う。
でも。


好きになってしまったが故に、死んでしまうかもしれない。


そんな風に思う恋を、したことがあるだろうか。そんな風に自分を乱され、身を焦がすような恋を、したことがあるだろうか。

わたしは、ある。








「はじめ!」
「ああ、なんだお前か」
「今度の試合また応援に行くね!」
「また来んのか?」
「だってはじめのバレー見たいもん」
「気をつけて来いよ」
「うん!」

私の幼馴染は、バレーが大好きだ。
あと、徹のことも好きなんだと思う。勿論、友人として。選手として。
私のことは、多分、幼馴染としか、思っていない。




「栞また来てたの」
「徹か……はじめは?」
「本当に岩ちゃん大好きだよね」
「ちゃんと徹の活躍も見てあげるから安心して」
「はいはいそれはどーも」

キョロキョロとはじめを探せば花巻くんや松川くんと喋っていた。

「私も男の子だったらなあ」
「は?気持ち悪いこと言わないでよ」
「私もはじめとあんな風にお話ししたい」
「何言ってんの。いつも話してるじゃん」
「違うんだよー」

どうでも良さそうな顔でへえ、と返事をした徹に頬を膨らます。

「呼んできてあげるから、待ってて」
「わーい!ありがと徹!」

はじめのもとに駆け寄っていく徹を見ながらソワソワする。何か言ってはじめに殴られてる。すぐにこちらを向いたはじめはこちらに向かって歩いてきた。

「よ」
「はじめ!お疲れさま!」
「試合今からだけどな」
「いーのいーの、はいこれ差し入れ」

保冷バッグを差し出す。

「いつも悪ぃな」
「んーん、いいの。今日はね、ムースゼリーだよ!保冷剤いっぱい入れておいたから試合後でも大丈夫!」
「さんきゅ」
「ううん、レギュラー分しか作って来れなくてごめんね」
「いやすげえ助かる」

アイツらのモチベ上がるし、と微笑むはじめにドキッとする。私の顔は赤くなっていないだろうか。

「じゃあ私は観覧スペースに行くから」
「おう」
「頑張って!」
「ああ」

手をグーにして突き出せば、はじめはいつものようにゴツンと拳骨をぶつけてきた。
ああ、私は幸せ者だ。








観覧席に上がれば、人は疎らだけど徹のファンだけは密集しているからよく分かる。そこを避けて後ろの方を陣取った。
アップをしているはじめを見て少し胸がモヤモヤする。これをこんなに近くで見られるのは今年までだろう。来年になって、はじめがバレーを続けているとも限らない。徹は絶対続けると思うけど。
私の中で、はじめは絶対的なエースだった。
小さい頃からずっとずっとはじめのことが好きだ。幼なじみという肩書きに甘えてずっと傍にいたけれど、それも難しくなる日はそう遠くはないだろう。“彼女”が出来てしまえば、その人からしたら私は良くない存在だ。彼氏の近くにいる女。私のポジションはそんなところだ。

「及川くんは勿論だけど、岩泉くんもかっこいいよね」
「隠れファン多いもんね」
「このあいだ一年の子が告ったって聞いた」
「まじ!?」

はじめも告白されるんだな、と他人事のように思う。私が知らないところではじめの世界は回る。私がいなくても、彼の世界は回る。

私の世界は、はじめがいないと回らない。

十年以上前続くこの片思いに終止符をつける時がこんなにすぐに来るなんて、私はこの時思いもしなかった。


縋り付く関係
今一瞬のこの幸せを
私は手放すことが出来ない

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