残酷な告白





愛だの恋だの、そんなものは全て薄汚れている。100%の愛情なんて、どこにもない。
穢らわしくて、醜くて、酷く自分よがりだ。
私には欠片も必要がない。
そう、思っていた。








「自主練もここまでや。そろそろ片付けや」
「「「はい!」」」

キュ、キュ、とシューズが床に擦れる音がする。稲荷崎高校男子バレーボール部は、今日も元気だ。調子が悪い人もいないようだし、私もネットの片付けを手伝いながらみんなに声をかける。

「ビブス、明日の朝洗うからみんなカゴに入れてから帰ってなー」
「おー」
「はーい」

適当な返事を聞いて、カゴに入れられていくビブスを見た。
全員がカゴに入れたのを確認してからカゴを持ち、女子更衣室へ向かった。ビブスの入ったカゴを自分のロッカーの上に置き、着替えた。他の部活の女子マネたちは既にみんな帰ったようだった。朝一で学校唯一の洗濯機の使用権を確保するために明日の朝は少し早めに登校しなければならない。早起きしないと、と思いながらバッグを持って靴を履き替え更衣室を出た。

「お疲れさん」
「うわビックリした…北か。お疲れ」

校門に向かって歩いていると背後から声をかけられた。振り返ればそこにいたのは北だった。彼も荷物を持って帰るところのようだった。

「どうしたの?」
「送ってく」
「ああ、ありがとう」

遅くなってしまった日はこうして誰かしらが駅まで送ってくれるのが習慣だった。

「みんなは?」
「今日は用があるんやて」
「そっか、じゃあ駅までよろしく」

みんな揃って用事やなんて珍しいな、とは思いつつも北の横に並んだ。

「今日な角名がな、めっちゃ不味い飴くれてん。もう死ぬかと思たわ」
「なんでそんな不味い飴持ってたん」
「クラスの子の海外のお土産なんや言うてた」

そんなたわいも無い会話をしながら駅に向かっていた。駅前の開けたロータリーに着いたところで足を留めた。

「送ってくれてありがとう。ここで、」

ええよ、と言おうと北を見たら何だかいつもと違っていて思わず首を傾げた。

「北?私、もう帰るよ?じゃあまた明日、」
「待って」
「え、何?」
「……話が、あんねん」
「話?今度の大会のこと?」
「ちゃう」
「……なんか変やない?大丈夫?」
「……」

目を合わせた瞬間、嫌な予感がした。


「春原のこと、好きや」


駅前にいるのに、聞こえるはずの音が全部聞こえなくて、北の声だけやたらクリアに聞こえた。こんなん、逃げられへんやん。
ああ、この人だけは違うと思うてた。

「一年の時から、マネージャーの仕事頑張ってるやろ。だからって勉強怠ったりせえへんし、後輩の面倒見もええ。部活中は俺らの精神的な支えとしても心強い。好きやって自覚したのは二年のときやってんけど、ずっと春原のことええなあ思うててん」
――栞ちゃんのこといいなって思ってたんだよね

ああ、だめだ。

「俺と、」

やめて。だめなんだってば。

「付き合うてください」
――俺と付き合おうよ

全てが音を立てて崩れていくようだった。
北は、仲良い友人で。同じ部活の部長とマネージャーで。
それ以上でも、それ以下でもない。
それだけや。お互いそれだけのはずだった。私はこの関係を永遠に守りたかった。

「春原……?」

私は北から視線を外すことも出来ず、かと言ってなにか言葉を返すことも出来ず、ただただ立ち尽くしていた。

「すまん、何やその、驚かせてしもたな」

ちゃうねん。驚いたけど、そういうことやないねん。

「でも俺は、本気やから」
――俺、本気だからね

過去が一気に蘇る。私のことを好きだと言いながら、嫌がる私を無視して触れる手。嫌やって言うても触れた唇。正直、今吐きそうだ。

「春原、」

そう言ってこちらに一歩踏み出した北に、私は退いてしまった。ざりっ、と靴が地面に擦れる音がした。少しだけ驚いた顔をする北に申し訳なくなる。私は今、どんな顔で彼を見ているのだろう。

「……あの、」

やっと出た声は掠れていて、とてもじゃないけれど普段北を応援している女の子とたちとは全然違った。

「私、……女の子らしくないし、北には、その、似合わんと思うねん。それに、北が思うてくれとるほど、人間できとらん」
「そんなことあらへん。春原は十分可愛えよ」
――栞ちゃんは可愛いね

ぞわり、と身体中に鳥肌が立った。どうして男の人は、みんな似たような言葉を並べるのだろう。私が嫌悪している“男”の中に、北をカテゴライズするのはすごく嫌だった。

「そ、んなことない。私に北は勿体ないよ」

すぐにでもこの話を終わらせて、少しでも私が北を嫌いになる可能性を消したかった。北を傷つけないように、私が傷つかないように、言葉を選んだ。

「……俺のこと、好きやない?」

好きだよ。どちらかと言わなくても大好きだ。でもそれは、部長として、友人として、の好きだ。
そのままでおりたいねん。

「北が嫌とかやないねん。私は誰かと付き合うとか、そういう気がそもそもないんよ」

本当のことは言えない。また、“あの時”みたいな苦しみを味わいたくないし、“男の人”にそういう対象として見られることが耐えられない。

「北の気持ちは、本当に嬉しいねんで?ほんまにありがとう。でもその、付き合う、とかそういうんは出来ひん」
「……ほんまか?」
「え?」
「全然嬉しそうちゃうやん」
「そ、んなことない」

そんなこと、ある。正直、全然嬉しくない。私が欲しいのは、そういう好意ちゃうもん。でもそれを正直に言えるわけないやん。最後の可能性に縋り付く。

「なあ、聞いてもええ?」
「なんや」
「北が、その、私のこと好き、言うんは友達として、やないん?」

最後だ。これが、最後のチャンス。北が何かを察して、引いてくれれば御の字だ。

「友達としても好きや。でもそれだけとちゃう。二人きりになりたいと思うし、春原に触れたいと思う」

あかん。これはほんまにあかんやつや。

「そ、っか……わかった」

自分で聞いておいてショックを受けるなんて何様だ。最低や。でも、そうやねんな。北やって“男の人”やもんな。そんなのは、分かりきっていたことやのに。

「気持ち、伝えてくれてありがとう。でも悪いねんけど、付き合うとかはごめんなさい。北とは、友達でおりたいねん」


残酷な告白
好き、なんて私に向けないで
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