夏合宿と風物詩


毎年恒例の夏の合宿が始まったとは言え、マネージャーがやることに変わりはない。食事は施設の人が用意してくれるし(私立最高!)、シーツを変えるのも一年生がやってくれるので、私はいつも通りのマネ業務と洗濯が少し増えるくらいだ。
朝皆がロードワークに勤しんでいる間に、私は洗濯物と格闘していた。












「毎年恒例だし、もうなんとも思わなくなっちゃったけど、部員のパンツを真顔で干し続ける栞ちゃんってすごいよね」

ロードワーク中、外周のコースから見える洗濯場に天童は視線を向けた。

「今年は工が恥ずかしがってたな」

そう言って笑う山形にほかのメンバーも釣られるように笑った。五色は顔を赤くしてはためくパンツから目を逸らしてペースを上げた。












ロードワークから戻った部員にドリンクを渡しつつ、もう次のドリンクを用意している。暖かい季節の合宿中はどんなに用意してもドリンクがすぐに底をついてしまう。運ぶのは重労働だし同じことの繰り返しでもこれが彼らの役に立つなら何の問題もない。ドリンクを渡したり、ビブスを畳んだりしていると誰かしらが声をかけてくるのでその対応にも追われていた。

「栞」
「牛島くん、タオル?」
「ああ」
「あそこのベンチの上にあるよ」
「すまない」
「はーい」
「春原さん!」
「どうしたの?五色くん」
「一年でゲームをしたいのでビブスを、」
「ああ、そっちのコートの得点板のところに置いてあるよ」
「ありがとうございます!」
「あの春原さん」
「なあに、白布くん」
「テーピング終わっちゃったんですけど、ストックってどこに、」
「部室のベンチにカゴが置いてあるんだけど、その中にあるよ」
「春原さーん!」
「はーい?」

作業をしながらもテキパキと部員たちを捌く栞を見て、山形が呟くように言った。

「……白鳥沢の母だな」
「隼人くん、それ本人に言うと怒られるよ」
「春原がいなくなった後は大変だろうな」

山形と天童の隣にいた川西は、天を仰ぎながら口を開いた。

「…想像したくないですね……」










部員たちの休憩時間に洗濯物を取り込もうとカゴを持って体育館の隣の物干しスペースに来ていた。誰のかわからなくならないようにカゴに入れていきパンツに手をかけたその時、五色くんの声が響いた。

「あー!春原さんっ!!」
「どうしたの?五色くん」
「あの、その、畳むのはっ、自分で!自分でやります!!」

顔を真っ赤にした五色くんが背後に立っていた。

「え、でももうすぐ休憩終わるでしょ」
「いや、でも春原さんに下着を畳ませるのは……!」
「慣れてるし大丈夫だよ?現に私が干したんだし、ちゃんと畳んで部屋に届けるから」
「そういうことではなく!」
「あ、ちゃんと個人でネットに分けて洗濯して干す時も気をつけてるから五色くんのを誰かのと間違えちゃうとかはないから安心して!」
「そういうことでもなく……!」

恥ずかしそうにしている五色くんの後ろにニッコニコの天童くんが見えた。

「つーとーむー!白鳥沢の母の言うことは聞いておきな」
「ええ……」
「栞ちゃんにパンツ洗ってもらうの今年だけなんだからさ」
「…………」
「栞ちゃん?」

なるほど、そういうことだったのか。

「思春期の息子をもつ母の気持ちがわかったかもしれない」
「「「ブフッ」」」

五色くんの大きな声を聞き付けた三年が体育館からこちらの話を聞いていたのか思い切り吹き出している。

「春原さん!!!!」
「ごめん五色くん」

顔を真っ赤にしていた五色くんがさらに真っ赤にしていて少し申し訳なくなった。












夕飯を食べ終わり、食器を片付けてからそのまま食堂で明日のスケジュールを確認していたが、私は眉間に皺を寄せた。

「げ、明日午後から体育館三つ使うの……?」

試合形式の練習がメインになるとコートの数が必要になり、施設にある複数の体育館を借りて行うことになる。つまり、マネージャーとしては準備が大変だ。やることは同じだが三箇所に分散してしまう。

「なになに?どったの??」

背後からスケジュール表を覗き込むように天童くんが話しかけてきた。

「いや、明日の午後大変そうだなって」
「ふーん」
「他人事だと思って……ま、明日頑張るだけだけどね!」

そう言って気合を入れれば、天童がにこりと笑った。え、何。嫌な予感しかしない。

「そんな栞ちゃんに朗報!」
「……なに?」
「いまから!」
「うん?」
「肝試しするよ!」
「お断りします」

食い気味にそう返事をした私がおかしかったのか天童くんは笑っている。

「それをお断り!」
「断固拒否します!!!」

この間話したこと覚えてたのか……!不覚……!

「夏っぽいことしようよ〜!」
「そんなのはインハイの後に勝手にやって」
「強制参加だからネ」
「いや!ぜっっったい無理!」

ギャーギャー騒いでいると、後ろからぽんと肩を叩かれた。

「栞」
「う、牛島くん……」

嫌な予感がする。その目やめて。

「天童たちが思い出を作ろうと企画してくれたんだ。行こう」
「ねえそれ絶対都合よく並べ立てられた言葉を信じたんでしょ」

真顔で頭の上にクエスチョンマークを浮かべた彼にため息をつく。

「ほらほら若利くんもこういってる事だし行くよ〜!」

無理矢理立たされ背中を押されながら私は天童くんを三日は許さないと心に決めた。


夏合宿と風物詩
「天童くんのこと末代まで祟るからね」
「せめて本人で止めておいてほしいな〜〜」
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