同志が出来ました


これは、私と宮地くんの出会いのお話。




「お前さあ、」
「…………」
「なあ、お前なんだけど」
「…………」

急に机の角をコンコンと叩かれた。そちらに視線を向ければ到底私の友達ではなさそうなゴツゴツとした大きな手が目に映る。え、と顔を上げるとそこにはハニーブラウンのイケメンが立っていました。

「え、私、ですか……?」

恐る恐る返事をすると彼は少し眉を寄せた。
高三で初めて同じクラスになった宮地くんはバスケ部に所属していると聞いたことがある。しかも今は昼休みで、教室内はガヤガヤと賑やかだ。いつも宮地くんが一緒にいるクラスメイトたちも近くにいるのに。私のような帰宅部陰キャに何の用だろう。

「そう、お前」
「あ、はい」
「……それ、なんだけど」

彼がそう言って指さしたのは私のペンケースだった。

「ペンケース?」
「違う、そのキーホルダー」

私のペンケースには私の人生の推しである“みゆみゆ”の今年のライブ限定トレーディングキーホルダーがついている。トレーディングだから推し以外が出る確率が高いのに神の導きで一発で引くことが出来たお気に入りだ。

「これ?これはアイドルの…」
「お前“みゆみゆ”好きなのか?」

イケメンの口から“みゆみゆ”という言葉が出てきたことに驚きつつも返事をした。

「うん…、みゆみゆが好きで、結構ライブとかも行ってる…」
「マジか!?そのキーホルダー地方公演のカラーだろ!?」

急にテンションが上がった宮地くんに驚いた。

「う、うん……チケット当たったからバイト代貯めて行ったの」
「同担とか他推しの友達とかいんのか?」

陽キャでも“同担”とかオタク用語を使うんだなあと頭の隅で思った。

「ううん、ひとりです」
「一人!?お前それガチじゃねえか…」

えっこれは引かれている、のだろうか。オタクは結構単独行動多いからなんちゃって陽キャオタクには理解されないのかな。

「えっと……、宮地、くんは誰推しなの?」

結構詳しそうだから同じユニットの別の子を推しているのだろう、と思った。あれかな、ミーハーっぽいから去年ナンバーワンだった子かな。

「俺もみゆみゆ」
「………………え?」
「お前と同担。みゆみゆ推し」

しばらくポカンとしてしまったが、嬉しさと喜びがぶわっと溢れた。

「ほんとっ!?」
「お、おう……」

少し身を乗り出した私に宮地くんは少し退いた。でも許して欲しい。あとミーハーとか思ってごめん。私の周りにはアイドル好きな友人もおらず、まして同担の知り合いなど皆無だったため思わず食いついてしまった。

「あ、ご、ごめんなさい……現場では同担って見かけるけど知ってる人で同担っていないから……」
「俺も知り合いが同担って初めてだわ」
「だよね!?SNSでは沢山見かけるのにどうして近くにいないんだろうって思ってた!」
「だよな、他推しなら結構いるんだけど」
「そうなんだ、やっぱり男の人のファンが多いから私は同性のアイドル好きな人探すのも大変だよ」

えっ何この人、話しやすい。陽キャ差別(?)して本当に申し訳なかった。

「あ、待って」
「あ?」
「今更だけど宮地くん同担拒否とかある…?一応確認させて」

そう真剣に聞いた私に宮地くんは吹き出した。

「ないない。しかもお前みゆみゆと同性なわけだろ。同士だ同士」
「良かったー。これからはみゆみゆ情報とか共有しようね!」
「おー。あ、連絡先交換しねえ?」
「もちろん!」

勢いで了承してしまったが、イケメンの連絡先をこんなに簡単にゲットしてもいいものなのだろうか。そう思いながら、差し出されたバーコードを読み込んだ。そして友達申請をした。その場で承認してくれたので、私の画面にも宮地くんのアカウントが表示された。

「このアイコンの写真ってお前…?」

宮地くんは私のアイコンを指さしてそう聞いてきた。

「うん、私だよ。地方現場の会場でライブTシャツ着てタオル持って撮ったんだよ〜」
「これ後ろ姿だけど、誰かに撮ってもらったのか?」

私のアイコンはライブTシャツを着て、みゆみゆと書かれたタオルを両手で掲げている後ろ姿の写真だ。背景にはその時の会場のドームの部分が写っている。

「ううん。一人で行ったからね、近くのベンチにスマホ置いて撮ったの」
「努力だな」

よく分からないけど認めてくれた宮地くんを見上げる。私は椅子に座っているので宮地くんを下から見上げることになるが、フェイスラインに無駄な肉がなくてシュッとしている。羨ましいことこの上ない。

「同じ現場になったら俺が撮ってやるよ」
「……おお、イケメンすごい……」
「なんだそれ」

そう言って宮地くんは苦笑した。

「まあオレは部活があるから近場しか行けねえけどな」
「首都圏はチケット取るの大変だから私は地方に行きがちなんだよね」

次のライブツアーも千秋楽は難しいよね、と言う私に宮地くんは少し悩んで口を開いた。

「……俺らチケット協力すればいいんじゃね?」
「え?」
「お前いつも一人なのか?」
「うん」
「俺も基本一人だし、チケット二枠で申し込めば当たりやすくなるだろ」
「たしかに!天才じゃん!それいいね!」

即答した私に宮地くんは眉を寄せた。

「……そんなにすぐ返事していいのか?趣味とはいえ男と出掛けるわけじゃん。お前彼氏とか、」
「…………カレシ?」

こんな帰宅部陰キャに彼氏がいるとお思いで?と目で伝えると宮地くんは少しだけど申し訳なさそうな顔をした。いやいいんだよ、私の全てはみゆみゆだから。

「……なんか、その、悪い」
「いやいや宮地くんこそいいの?彼女さんは?」
「俺も問題ない」

それはいないって意味なのか、いるけど理解ある彼女って意味なのか判断がつかない。いやでもこの顔面で女がいないってありえないよな…。

「お前何か失礼なこと考えてるだろ」
「そ、んなことないよ!私同担と連番って憧れだったの嬉しいなあ」

睨まれたせいで一息で言ってしまった。私悪くない。

「ま、お互いに運を高めていこうぜ」
「そうだね、日々徳を積まないと」
「次のライブの東京公演、絶対当てるぞ」
「うん!!」


同志が出来ました
「みゆみゆはダンスがいいんだよな」
「わかる……!!!!!」

prev / next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -