名にし負はば 逢坂山の さねかづら




恋人が、インペルダウンに収容された。

そう聞けば、どんな悪党と付き合っていたのか、と聞かれるだろう。彼が“砂漠の王”と呼ばれ、民衆から讃えられていた時、私は彼が純粋な“王”だとは思っていなかった。裏がある人だと分かっていた。

それでも、彼のことが好きだった。

初めて迎えた夜は、本当に素敵で。あの瞬間、彼の胸に抱かれて「このまま死んでもいい」って思わず口から出ていた。それを聞いた彼はあの悪そうな顔で笑った。

「それは俺が許さねェ」

そう言って、私の髪を掬った。
私は貴方と一緒にいて幸せだった。貴方との将来を考えていた。それは、今も。
でも、貴方は今、インペルダウンで私のことを一度でも思ってくれただろうか。私は貴方と離れてから、ずっと考えているというのに。

「ソフィア」

また名前を呼んでほしい。抱きしめて欲しい。あの大きな手で包んでほしい。

貴方が捕まった時、私もただでは済まなかった。貴方と関係があった人は徹底的に取り調べを受けたし、私も捕まるのかな、なんて思っていた。それはそれでいいと思った。貴方を愛して捕まるなんて、私にはぴったりだ。罪状は共謀罪とかそんなのになるのだろう、と留置所で考えていた。そうすれば、私の愛は公的に認められたことになる。ただ離れ離れになるよりよっぽど幸せだ。私の罪は、貴方との“繋がったこと”なのだから。

しかし私は無罪放免、釈放された。

理由は彼が囲っていた女のひとり、そう思われたからだった。彼が、囲っていた、女。その内の、ひとり。
私にとってはあんまりだった。彼との関係を、私の彼への思いを否定されたと思った。確かに彼の周りにはたくさんの女性がいた。でも。それでも。私たちはあんなにも愛し合っていたのに。私は彼の声を忘れていないし、彼の体温もまだ覚えてる。彼が愛していたのは、私だけ。本当に、本当にそうだったの。

面会に行けるほどの軽犯罪でもなく、パーッと放免祝いを出来るほどの罪でもない。彼が放免されることはないのだから。彼はもう、私のもとに戻ってくることはないのだから。私はもう、彼に触れることはできないのだから。

一晩でもいい。
貴方を連れ出す方法があるなら、私はこの命だって惜しくない。


人に知られで くるよしもがな
また 貴方に会いたいの


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