あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の

夜。
濃淡の闇が訪れ、それに伴い海も黒くなる。空には惜しげも無く輝く星が散り、しっとりとした空気が肌を撫でる。

しかし、ここはそうではない。

重いカーテンの向こう側では、ネオンが燦々と輝き、上がる花火の光で海もオレンジに照らされる。星の輝きはそれらのせいで劣り、喧騒が街を覆う。
でもこの部屋は、喧騒とはかけ離れた静けさが部屋を満たす。湿度が高く少ししっとりとしたシーツ。

それに、あの人は来ない。




ここはグラン・テゾーロ。夢の街。
私は客としてここに来て、彼と恋に落ち、THE REOROのスイートルームを与えられ、ここに住んでいる。元々お金には困っていないし、夢の街を一望出来る部屋は本当に素敵だし、幸せなはずだ。そう、幸せなはず。
いつものように電話をかけようとすれば、電伝虫がまたか、というような顔をする。表情はあまり分からないけれど私にはそう見える。私だって恐らく同じ顔をしている。生産性のない同じやりとりを繰り返さねばならないのだから。

「あ、もしもし?バカラさん?何度もごめんなさい、テゾーロは………そう、わかったわ。私から電話があったことだけ伝えてくれる?ええ、ありがとう。それじゃ」

やっぱり。電伝虫がそう目で訴えかけている気がする。私だってそんなのはわかっている。
彼はとても忙しい。私に電話すらかけてくれないほどに。前までは少しの時間でも会いに来てくれたのに。もう何日言葉を交わしてないだろう。

秋の夜は長い。
ここは、季節を目で見て楽しめるような場所は限られている。私の部屋だってそう。でもいつまでも夜が明けないのではないか、と不安に思う程に長いのだ。ここ最近は、毎日この秋の夜長に最後に会いに来てくれた日を繰り返し思い出す。




「ソフィア」

彼は、私をこの世で一番愛でるべきものであるかのように優しく呼び、体に触れた。背中に触れたその指は、私の肌に熱を持たせた。私に触れる彼は、その表情も、体も、その身に余らせた熱も、かぶりつく様に喰らいついた唇も、その声も。全てが完璧だった。あの時間は、世界が私のために用意してくれたような時間だった。あんなにも夜が明けて欲しくないと思った夜はなかった。

そんな幸せは本当に一瞬だった。

もう私には飽きてしまったのだろうか。彼は、私以外にも囲っている女性がいるのだろう。私はもう彼のルーティーンから外れてしまったのだろうか。なのに、ここから追い出しもしない彼が憎い。いっそ離してくれれば、捨ててくれればここで待ち続ける必要なんてないのに。

貴方は今この長い夜に、誰と同じ時を過ごしているのだろう。


長々し夜を ひとりかも寝む
私は今夜もひとり、
この冷たいベッドで眠らなければならないのね


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