有明の つれなく見えし 別れより

「シャワー先浴びるか?」
「……後でいい」
「じゃあ先入るわ」

彼は気だるそうにベッドから抜け出した。何も纏っていない彼の背中には、私がつけた爪の跡が綺麗に赤く残っていて、少し嬉しい。私のしるしを彼に刻めるのはこの瞬間だけなのだから。

でも、事が済めば彼は私を抱いている時とは別人のように冷めてしまう。
つれない人。
私はいつものようにもやもやしたまま彼のベッドに蹲る。意識しなくても胸いっぱいに彼の香りが入ってくる。この瞬間、私は彼の一部であるかのように錯覚する。彼のつれなさに嘆きながらも、彼の残り香を堪能するのだ。満たされた時間。それは長くは続かない。

「ほら、上がったで。お前もはよ入り」

腰にタオルを巻いただけの真子が布団をめくった。

「いや」
「いや、やないわ。はよせェって」
「だってそしたらもう家に帰らなくちゃいけないじゃない」
「当たり前やろ、明日も朝から仕事や。お互いな」

彼の濡れた髪から雫が落ちるのを見る。

「泊まってっちゃだめ……?」
「アカン。お前寝起き悪いし、それに平日は家に帰るって決めたやろ」
「……うん」
「ほら、はよしィや」

真子はそう言いながら、床に散らばったパンツやブラジャーを私に向かって放り投げた。

「もう、やめてよ」

頭の上に乗ったパンツを手に取る。

「お前がはよォせんからやろ」
「んー、わかったって」

私はそう言いながらのそのそとベッドから降り、下着を掴んでシャワーへと向かった。




私は夜の道を歩いていた。シャワーから出ると真子は寝てしまっていた。蹴られていた布団をかけ直し、戸締りをして彼の家を後にした。
少し肌寒い。夜明け前の白い月が私を見下ろしている。なんとも無表情で、素っ気ない月だ。ほんと、彼みたい。


暁ばかり 憂きものはなし
だから私は、この時間が嫌いなの



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