秘密の花園



朝から少しだけ雲がかかっていて時々日が差す最高の読書日和。私は甲板に大きなクッションを置き、本を読んでいた。
裸足で足を投げ出し、一人の時間を満喫する。

「あー……、最高に幸せ…」

よく冷えたスパイスティーに手を伸ばすと、遠くから声が聞こえてきた。

「おーい!ソフィアー!」

遠くの船からこちらに手を振るのは紛れもなくジュエリー・ボニーその人だ。あっという間に横に船を着け、勢いよく甲板に降り立った。

「……ボニーちゃん」
「ソフィア!久しぶりだな!メシ食いに来た!」
「うちご飯屋さんじゃないんだけど」
「なんだよ、いいだろ?」
「いいけど……、まずは?」
「料理長ー!」

そう、まずは仕入れを済ませてもらわないといけない。仕入れが済むと船員たちは直ぐに自分の船に戻ってしまう。お茶を振る舞う時間もないくらい早く。ボニーちゃんの目的を知っているからこそ、だろう。

「メシー!!」

そう叫んだ彼女は私の背中を押しキッチンへと押し込んだ。そして近くにあるダイニングの椅子に勢いよく腰掛けた。

「さて、何食べたい?あ、でも今この船にあんまり食材ないからね」

あまりない、と言っても私の二週間分はある。けれど目の前にいるこの人にかかってしまえば一時間ももたない。

「それは大丈夫だ!こっちの料理長に言えばなんとかなる!」
「そう」
「えーっとまずはタンドリーチキンな!」
「はいはい」
「あといつものペッパーたっぷりのハンバーグと魚の香草焼きな!魚は三種類くらいだな!あとハーブたっぷりのフライドチキン!あとはジェノベーゼと、海老のフリッターだろ。それから、」
「待って待って、分かってるでしょ?私の腕は二本なの」
「んなことは分かってるよ」
「とりあえず今のメニューで足りないものメモしたからこれ料理長さんに渡してきて」
「分かった!」

元気よく飛び出していったボニーちゃんを見送りながらエプロンに袖を通した。









鶏肉に下味をつけたり魚の下ごしらえをしたりスパイスの調合をしている私の周りをうろうろと歩くボニーちゃんのお腹がぐうぐうと鳴っている。

「さっき出したスパイスティーは?」
「もう飲んじまった」
「一緒に出したパウンドケーキは?」
「あんなの一口だ」

相変わらずの食事スタイルとその食欲に苦笑しながらパウンドケーキをもう一切れお皿に乗せた。手で掴もうとする彼女を一瞥し、その手をパシンと叩いた。

「そこに座って、フォークを使って、ゆっっっくり食べてね」
「……おう」

仕方なく、と言った様子でパウンドケーキを二つに切り、一口には大きなそれを口に運んだ。
ボニーちゃんのおかげでオーブンもコンロもフル稼働だ。その間にドレッシングを作り、野菜を切る。少し黙っていたボニーちゃんが声をかけてきた。

「……なあ、」
「んー?」
「ソフィアはひとりで大丈夫なのか?」
「……なにがー?」

思わず包丁を握っていた手を止める。

「……いろいろ」
「ふふ、なにそれ」

私は、手元のキュウリをザクザクと切った。

「何とかやれてるし、大丈夫だと思うけど」
「どっかの島で店開くとかじゃダメなのか?」
「うーん、海が好きだからねえ」

私がそう言えばボニーちゃんはパウンドケーキの残りの一切れを口に含み、モグモグと噛みながら口を開いた。

「男作ったりしねえの」
「……珍しいね、そういうこと言うの」

そう言ってボニーちゃんを見れば、なんとなく気まずそうな顔をしてこちらを見ていた。

「やっぱり女が一人で商売すんのは、その、」
「心配してくれてるの?」
「べ、つに、そんなんじゃねえけど!まあソフィアは強いって聞くし…」

声が小さくなるボニーちゃんに苦笑しながらとりあえずサラダとスープをテーブルに並べた。

「私が強いって噂本当にあるの?」
「じゃなかったらお前なんてすぐに襲われておしまいだ」
「そうかなー」
「だってお前は女一人なんだぞ。で、海賊相手の商売だ。普通にやべえことも起きるだろ」

そう言ってサラダに手を伸ばしたボニーちゃんに、小皿を渡した。あんまり意味ないけど。

「うーん、まあ無きにしも非ず?だけど私逃げ足は早いから」
「逃げ足って……」
「ボニーちゃんもさ、海で生きてる理由があるでしょう?」

そう微笑めば、一瞬で言葉に詰まったようだった。

「……ああ」
「私も同じだよ」
「……」
「そりゃあね、好きな人と結ばれて、結婚して、子供をもうけて幸せなママになるって選択肢を完全に捨てたわけじゃないよ?でもまあ、縁がないと言いますか」

大きな口でサラダを頬張っているボニーちゃんにそう言うと彼女は目を大きく開いた。

「それマジで言ってんの?色んな男がお前に執心してるって聞くけどな」
「そんなことないって。みんなリップサービスで口説いてくれてるだけだよ」
「海軍将校から四皇まで手玉にとってるって聞いたぞ」
「ふふ、海の噂は怖いねえ」

そんな話をしているとオーブンのタイマーが鳴った。ボニーちゃんの前に出来上がった料理をこれでもかと敷き詰める。でもこれもきっと一瞬で終わってしまうのだろう。

「はい、サラダとスープのお皿下げるね。で、タンドリーチキンとハンバーグ」
「おお!うまそー!」
「あとこれ昨日の残りだけどローストビーフもあるよ。食べる?」
「食う!」

笑顔のボニーちゃんを見ながら私もフォークに手を伸ばした。


密の花園
「おかわり!」
「……ボニーちゃんが来ると大家族のママになった気になるよ」


  

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