ターメリックのフリル


気候のいいとある島にいると聞いたので、その島に向かった。風を避けながら船を進めると、小さな島の小さな港に赤髪海賊団の船がとまっている。その隣にゆっくりと船を着けた。ロープをビットにかけ、船を固定していると、上から大きな声が降ってきた。

「ようソフィア!」
「ヤソップさん!お久しぶりです」
「おいみんな!ソフィアが来たぞー!」

ヤソップさんのその声に甲板が一段と賑やかになるのが分かった。

「お届けです」

そう言ってスパイスの入った箱を移動させようとすると、船からスルスルと若い船員が降りてきて何人かで全て運んでくれた。
彼らに続き、甲板に上がる。ふちに足を掛け、甲板に着地しようとしたところで大きな手が目の前に差し出された。

「ベンさん」
「よう、ご苦労だったな」
「ありがとうございます」

彼の手を取り、レッドフォース号へと足を踏み入れた。

「調子はどうだ?」
「お陰様で、元気にやってます」

そう彼に微笑めば、彼の後ろから太陽みたいな笑顔が近づいてきた。

「おう!ソフィア!今回も来てもらって悪いな」
「船長さん。いえ、いつもご贔屓にありがとうございます」

笑顔は眩しいがいつもより少しテンションが低い気がする。また二日酔いだろうか。

「料理長がお前のスパイスじゃなきゃ嫌だって言うからよ」
「ふふ、嬉しいです」
「昨日はどこにいたんだ?」
「サンディ島です」
「前半の海にいたのか。まあお前の能力なら関係ないか」
「ええ、ログもためる必要ないですし。でもそうは言っても大変なんですからね」
「わかってるわかってる」

そう言って私の頭を無遠慮に掻き回す彼の左手にゆっくりと目をつぶった。

「とりあえず厨房の奴らを連れてくる」
「はい。今回は縁あってアラバスタの最高級スパイスが手に入ったからおすすめです」
「サンディ島にいたんだったな」

厨房から顔を出した料理長たちに定期的に届けているスパイスを確認してもらった後、新商品を勧めた。一緒になって船長さんもスパイスの吟味をしていた。

「アラバスタの中でも人気のスパイスなんです。なかなか国外に出回らないのでおすすめですよ」
「確かに香りが強くて良いな。ただこれは……」
「そうなんですよ、収穫するとそこからどんどん香りが落ちてしまってクセだけ強くなってしまうんです。なので収穫してからすぐ使わないと本来の味を楽しめないんです。もって三日ですね」
「乾燥させてもダメなのか?」
「本来の味は損ないますが、スパイスとしては使えますよ。魚や肉の長期保存には向いています」
「なるほどな。味を楽しむのと用途とがアンマッチだから流通しないのか。でもこんな一級品をこんなに沢山、それもこんな低価格で……」

驚いたようにスパイスを眺める料理長に微笑み返した。

「まあちょっとしたツテがありまして。私が生産元から直接仕入れてるのでマージンもかからないですし」
「怖いくらいの人脈だな」
「船長さんほどではないですって。で、どうされます?」

視線を料理長に向ければ待つ間もなく口を開いた。

「勿論買うよ。あと、多分船長が……」
「ソフィア!今日はこいつも使ってカレー作ってくれ!」
「……って言うと思うって言おうとしたんだ」
「ふふ、相変わらずですね」
「まあな」
「料理長も手伝ってくれますよね?」
「ああ、勿論だ」
「よし!じゃあ今日はソフィア特製カレーだな!」

子供のようにはしゃぐ船長さんに苦笑していると、彼はどこかから丁寧に包装された箱を取りだした。

「これを使ってくれ!」
「私に?いただいていいんですか?」

箱を受け取ると船長さんがソワソワし始めたため、包装を解いて蓋を開けた。

「これは……」
「いいだろ!お前に似合うと思ったんだ」

箱の中には少しくすんだ黄色のエプロンが入っていた。MARINE MASARAの旗と同じ色。ただ、少しフリルが多めな気がする。

「マリンマサラと同じ色なんて、よく見つけましたね」

そう微笑めば船長さんは子供のような笑顔を浮かべて私の肩をガシガシと叩いた。

「そうだろ!?見つけた瞬間“ソフィア”に着てもらわなきゃと思ってな!」
「ありがとうございます……ってこれ、本当にターメリックで染めてますね?」
「俺にはよく分からんがそうらしい」
「ターメリックで染めると、防虫効果も上がるしもってこいなんですよ」

箱からエプロンを取り出し首にかけ腰で紐を縛った。

「おお、よく似合ってる」
「ふふ、ありがとうございます。大切に使いますね」
「おう!」

そんな会話をしていると料理長に肩を叩かれた。

「悪いが早くしないとカレーの出来上がりが遅くなっちまう」
「あ、ごめんなさい。行きましょう」
「じゃあソフィア頼んだぜ!」

船長さんを残し、私はこれから戦場になるであろうレッドフォース号の厨房に足を踏み入れた。


ーメリックのフリル
「「「おかわりー!」」」
「料理長、私そろそろ腕がもげそうです……」


  

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