01.待つと決める覚悟もない


「   」


私を呼ぶ声が頭に響く。


「   」


音として認識はできるが、その声はもう思い出せない。抱きしめられた感触はまだなんとなく覚えているが、鼻を掠めた香りは全く覚えていない。あんなに沢山の時間を隣で過ごしたというのに。彼と過ごした年月は、当時の私にとっても今の私にとってもすべてなのに。
百年経った今でも、こうして夢に見てしまう。私の前から突然消えてしまった彼のことを。

百年という時間は残酷だ。





「中央四十六室から処分命令…?」

当時、五番隊の七席だった私は、情報が錯綜していた中、それを聞きつけた。彼が、彼らが、処分される。実際に処分されたのかは把握できなかったが、翌日から姿を見せなかったことを考えるとそういうことなのだろう。悲しみに打ちひしがれるとか、泣くとか、そんな感情が湧くことは暫く無く、ただただ信じられないだけだった。彼がいない毎日を、彼がいた時と変わりないように過ごそうとした。暫くして、風の噂で彼らは逃げのびたと聞いた。詳しい事情は知らない。彼は生きている。私の知らないどこかで。それだけでも救われた気がした。
ただ、私は彼を待つべきなのだろうか。待っていてもいいのだろうか。
私は、彼がいなくなったあの日から、なにも進めていない。
彼は、新しい世界で生きているというのに。
彼を待つか否か、そんなことを決めかねている内に、百年の時が過ぎた。
どんな事情があったとはいえ、私がいない世界を選んだのは、彼なのだ。


私は、置いて行かれた。



つと決める勇気もない
時間は待ってはくれない
ひたすら純粋に私を蝕む


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