04:よこしまな純粋
目覚ましがなることもなく、ザンザスは自然と目を覚ました。日が昇るにはまだ早く、夜にしては明るい時間だった。ソファーでは満足に寝るには足りない気もしたが、まあいいかとシャワーを浴び任務へ向かう準備をした。

膝の上に乗せた柔らかなきらの体を思い出すとくすぐったい気持ちになった。今までの自分なら手篭めにしていたかもしれない。
それでも何もしなかったのは傷つけたくないという気持ちがあるからだろうか、と考えを巡らせた。
シャワーから上がるといつもなら聞こえないはずの寝息が聞こえ、きらの方へ視線をやった。支度をすませてネクタイをゆるく締め、自分のベットで気持ち良さそうに眠る婚約者の頬へ口づけを落とし、屋敷から出た。


日差しがまぶたの裏に差し込む気がして、きらは窓に背を向ける様に寝返りを打った。眠っている時に口づけを送られるのは至上の幸福であるのに、彼女は目覚めるには惜しいほど心地よく眠れていた。もっともっと眠りたいと布団を胸元まであげた所で疑問が浮かんだ。
窓が自分の背にある?その違和感が気になりゆっくりと目を開ける。
すると自分は1人で眠るには大き過ぎるベッドにいた。真っ白な寝具にはあまり覚えはなかった。彼女の部屋の寝具はもう少し明るい色だったし、窓には足を向けて寝る間取りを取っていた。

体を起こし部屋を見渡し理解した。ザンザスのベッドで寝てしまったことを。静かな空から雹が降ってきたようだった。
戸惑いながらも泥棒の様にしてきらはザンザスの自室から抜け出した。彼が任務に出かけたのがきらにとっては幸いだった。

空っぽのお腹をさすりながら夜の自分は結構大胆だったのもかも、と回顧した。
膝の上に座っていたのは覚えている。ザンザスの肩口に頭をもたれている時にはとても安心感を覚えた。だとしてもいつの間に私は眠ってしまったのか彼女は全く覚えていなかった。
ただ、とてもよく眠れた事に喜んでいた。あの青年も出てこなかったし、変な夢などどこにもなかった。

「きらちゃん!大丈夫?!」

「なっなにが?」

体が怠くないのも久しぶりだった。空は曇りがかっているが、きらは心も足取りも軽やかだった。淡く明るいワンピースでも着たいと思うほどに軽やかだった。
だが、顔を洗わねばと急ぎ足で部屋に向かう彼女を捕まえたのはルッスーリアだった。

「ボス、優しくしてくれた?」

「・・・優しく・・・?」

彼の質問の意図が読めず、聞き返すとルッスーリアの顔には不安の色が濃くでた。口元を両手で抑えて、お願いよ優しかったといって頂戴、と囁いている。
ただ一緒に過ごしただけなのに、何を大げさにときらは思ったが心配している彼が可哀想だったので答えた。

「優しかったよ」

「まあ!良かった!」

ルッスーリアは胸に手を当て顔を綻んでいる。きらの二の腕をさすり、感無量と言った表情をした。
何が嬉しいのかきらには全くわからなかったが、久しぶりによく眠れたし、彼も安心してくれたので気にするのをやめた。
ルッスーリアと歩きながら、屋敷の外に植えてある木々が緑に染まり始めたのに気付いた。

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木々が緑色に染まり始めている。
牧場が左右に見える幹線道路に黒塗りの車が走っていた。他にも黒い車が走っているが、運転席の窓までもがスモーク貼りでどことなく異質さを醸し出していた。

ハンドルを握る銀髪の剣士は、ザンザスが寝不足である事に気付いていた。
昨日の任務はわりと神経を使ったのに、寝てなかったのだろうかと疑問だった。
なにせザンザスは移動中の車の中ではずっと眠っていたからだ。

「昨日夜は何してたんだぁ?」

「任務だろ、馬鹿か」

「終わった後だぁ!!」

叫ぶと同時に前を走っていた車がウィンカーなしに車が曲がったので、スクアーロはクラクションを強く鳴らした。
鳴り終わりの最後に、聞き取るには小さくて低いザンザスの声が聞こえる。

「あ゛ぁ゛?経済番組?」

聞き覚えるのある番組名はイタリアで有名な経済番組だった。そんな深夜にテレビを観るとは珍しいと思ったが、自分の斜め右においたスマートフォンが光り、スクアーロを驚かせた。

「きらと観たのかぁ...?」

「だとしたら何かあんのかよ」

ルッスーリアのメッセージにはボスときらちゃんはお部屋デートしたみたい!というものだった。

ミラー越しに見る彼の上司はまた眠り始めた。
部屋でデート?部屋で一緒にいたって事か?それで寝不足というのは、とスクアーロは考えた。
ある程度の大人になれば思う様な事だった。
もし、自分の事を考えているがあったならば、きらは傷ついてないだろかと思った。
それでも自分のただの妄想かもしれないし、とスクアーロは運転に集中することにした。



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