パープルハート
惜しげもなくさらけ出された肌は、淡く桃色に上気している。ベッドヘッドのスタンドランプが放つオレンジ色の光の効果も相まって、匂いたつような色香に頭の芯がくらくらと揺れた気がした。
彼の裸体を目にするのは何もこれが初めてというわけではないが、何度目の当たりにしたとしても、俺にとっては目に毒な光景なことに変わりはないのだ。
「――シズちゃん、……シズちゃん、平気…?」
返事はないが、すう、と眇められた目は俺に「手を止めるな」と促しているようだった。そのくせ無意識に逃げ出そうと、不自由な身体はわずかに左右に揺れる。
太めのロープでがんじ絡めに緊縛された姿に、不本意ながらごくりと喉が鳴った。あまり日に焼けていないしなやかな肌と、毒々しい赤いロープとのコントラストは酷く劣情を煽る。両手は後ろ手に纏め、幾重にも巻きつけられたロープでがっちりと固定されている。二の腕を巻き込む形で胸の上下に置かれた紐に挟まれ、触ってもいない乳首はピンと隆起していた。実質上、上半身の動きをほとんど制限された窮屈な格好で、シズちゃんは今この行為に及ぼうとしているのだ。
SM嗜好のカップル達が用いる、所謂"プレイ用”の物とは違い、工事現場で鉄骨をひとまとめに括るために使用される類の物のようで、強度もそれなりにある。それでも彼が本気をふるえば、決して千切れぬ代物ではないのだろうが。当の本人にその気がないので、時折乾いた音を立てて軋みはするものの、シズちゃんの両手が自由になる気配はなかった。
「……っ、ぅあ、……は、んッ、んく、」
たっぷりとローションを絡めた人差し指を長いストロークで抜き差しするたび、白い太ももはびくびくと跳ねる。顰められた眉と苦し気に息を喘がせる様から、それが純粋な快感からくるものでは無いという事が伺い知れた。
「……痛い?」
「ッぃ…たく、は……ねぇ、」
はくはくと開閉された唇からやっとの事でそれだけ絞り出すと、沸き上がる矯声を飲み込むように、真一文字に口を引き結んだ。その言葉に後押しされるようにもう一本。わずかな隙間をこじ開けて中指を追加すると、シズちゃんの背中がひくりと反り返った。
奥のほうに押し込めた人差し指で内壁を擦り上げ、もう一本は軽く折り曲げて入り口を寛げるようにゆっくりと動かす。たっぷりと纏ったローションがくちゅくちゅと粘ついた音を立て、俺の腰にも疼くような熱が溜まっていく。
「ん…っ、ふ……!」
普段から痛点が鈍感な彼の事だ。その言葉が意味する通り、痛みなどさほど感じてはいないだろう。抗い難い羞恥と違和感。そして、己の理性とのせめぎ合いの中で、懸命に己を抑制しようと葛藤している。
言い換えるならば、今の彼の中にあるのは極限にまで高められた自制心。ただそれだけなのだ。この行為がもたらす快感も、その意味も。もしかしたら、こうして向かい合っている相手が俺だという事実すら、どこか遠く彼方に押しやられてしまっているのかもしれない。
「あ、ッんん……!」
一旦引き抜いた指を二本揃えてじりじりと時間をかけながら奥の奥まで挿入する。圧迫感が強まったのか、彼は身体を捻って芋虫のようにベッドマットの上を背中で這った。
力なくシーツを蹴る足首を掴んで動きを封じ、指の付け根ギリギリまでを一気に捻り込む。シズちゃんの意識を苛むかのように、金属を擦り合わせたような音を立ててロープが悲鳴を上げた。
「……シズちゃん」
一切の動きを止め、耳にかかった金髪をそっと掻き揚げてやる。
少しでも俺を感じて欲しくて、俺を見て欲しくて。汗で束になった毛先を指先で梳いて、赤く色づいた耳元にキスを落とす。
けれど、彼は黙って首を横に振るだけだった。依然として固く閉ざされたままの瞳は、目の前の俺の顔を見ようともしない。
どうしてこんな事になってしまったのか――。俺はシズちゃんに気取られぬようにそっと溜息を吐いた。






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