審神者の自室の調査も済み、一度外の空気を吸おうと庭へ出ようとした桔梗達は、庭から何か香りが漂ってくることに気がついた。
「いい香りだね、中の血なまぐさとは大違いだ」
「ふむ、柊さんがなにかやっているのか」
建物の角を曲がり、庭へ出る。庭の中央あたりには、刀剣を連れた梅と柊が立っていた。
梅は幾らか顔色が悪いように見えるが、柊は変わらぬポーカーフェイスだ。
長谷部は梅を心配するように寄り添い、歌仙は静かに柊の傍に控えている。
「二人とも、どうかしたのか? 梅さんの方は、顔色が悪いように見えるが」
「主は血に酔ってしまわれたのだ」
桔梗の質問に、梅の本丸の長谷部が答えた。確かに、普段審神者をして傷ついた刀剣も見てきているが、この本丸の血の量は普通ではなかった。
長谷部の言葉に続けるように、柊が口を開く。
「梅さんの所の長谷部の言った通りだ。俺も少し酔ってしまった。だから香を焚いている」
「香か」
「ああ。白檀という香だ。邪気をはらうのにも適している」
「そうなのか。すごいな、貴方は……私も学ばせて貰いたいくらいだ」
「……これは一般的によく知られていることだ。そう褒められることでもない」
香について知識の薄い桔梗は素直に関心したのだが、対して彼は低い声で答えるとすぐに背を向けてしまった。
失礼なことでも言ったのかと思った桔梗を察し、燭台切が彼女に耳打ちをする。
「多分、照れてるんだと思うけど」
「……そうか? 」
耳打ちの内容が読めたのであろうか、柊のそばに控える歌仙がわずかに苦笑した。どうやら、当たりらしい。
「……僕の主は、結構照れ性なんだ。褒められたりすると、すぐにこうだよ」
「柊さん、照れ性なんですか」
「…………否定は出来ない」
からかいの意味が含まれない、真面目に確かめる梅の質問に柊は小さく返答する。本人にも自覚はあるらしかった。
「それはそうと、調査中の話だが……。梅さん、話しても大丈夫だろうか」
「構いません」
香を炊き暫くたった頃、桔梗は調査について切り出した。自分の見てきた審神者の私室と二人の見てきた場所、それぞれの情報を伝え合う。
「私は審神者の私室を調べてきた。わかったことは、敵が審神者の個人情報を狙ってきた訳ではないということ。そして、ここの審神者が水無月家の人間だったということだ」
水無月家の人間、と聞いた柊と梅が驚いたように目を見開いた。
「水無月家か……」
「まだ確証は持てないが、殺された他の審神者も十二月家の人間なら……敵の狙いは十二月家ということになる」
「ちょっと、待ってください」
話を続ける桔梗を遮るように、梅が声を上げた。いつになく深刻な顔で、彼女は確かめるように繰り返す。
「十二月家の人間が、狙われるのですか? 」
「他の二人の審神者もそうであったならな」
「つまり……私も……」
「……もしかして、梅さん。あなたは十二月家の? 」
梅は小さく頷き「睦月家です」と続けた。
「俺は霜月家だ」
梅の後ろに立っていた柊が、眉を寄せながら声をかける。
「霜月家……」
恐らく今回の調査には、ある程度優秀な審神者が集められている。それが十二月家の人間であるということに関しては、さほど不自然はない。
ただ、もし桔梗のたてた仮説が本当であった場合、二人にはあまり良くない事態となる。
桔梗は黙り込んでしまった二人に話す。
「そうと決まった訳では無いから、あまり気負わない方が良い」
「ああ……そうだな」
「少し、早とちりでしたね」
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