スミレが荷物の片付けを終えた頃には、茜の空は黒く塗りつぶされ、白の星が光る夜に変わっていた。

しばらくぼーっとしていると、「ごめんね、遅くなって」とサツキがスミレを呼びにくる。
夕飯の知らせだ。



一階の台所の横にある、洋室のダイニングルームが食事所らしい。木目の目立つ古いテーブルの上には、ソースのたっぷりかかった丸いハンバーグと、青々しい野菜のサラダが並んでいた。サツキお手製である。


サツキと祖母とスミレの三人での食事。
一人きりではない食事は、スミレにとって久しぶりだった。



「きょうは来たばっかりで落ち着かないかもしれないけど、段々と慣れてくるから大丈夫だよ」

「はい、ありがとうございます」



サツキは気の利く女性で、子供の扱いにも手馴れている。まだ緊張ぎみのスミレに、サツキは名案を思いついたというような顔で話を持ちかけた。




「そうだ! 明日、ちょっとこの辺りを散歩しといでよ」


「散歩……」



不意の言葉に、首を傾げるスミレ。
彼女の祖母は「あら、いいじゃない」と笑う。



「ここは空気も景色もいいから、きっと気持ちいいわよ」

「あ……」


慣れない土地を歩く事には抵抗があるのだろう。少し不安そうな面持ちのスミレに、サツキが笑いかける。



「大丈夫。近所はみんな知り合いだから、道に迷っても聞いたらいいよ」




しかし、その後「あ、でもね」と、しかめ面をした彼女が途端に声を低くする。



「あんまり森の奥には入らないようにね。
あそこは、あんまりいい噂がないから」

「は、はい」



明るく笑っていた女性がいきなりぐんとこわくなるのだから、スミレは驚いて肩を縮こまらせる。


ーーーー森の、奥。
心の奥が疼くような、なぜかその言葉をを聞くと、そのような感覚が胸をくすぐった。



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