「ジェイドの拾い癖」といえば、ここらの通りでは有名な話だった。



国一番の魔道剣士、ジェイド・サブルール。
短く柔らかい栗色の髪と、翡翠色の目をした長身の青年がジェイドである。

彼には、見つけたものをなんでも拾ってきてしまう奇妙な癖があった。これには困ったもので、捨てられたガラクタにとどまらず、犬猫まで拾ってきてしまう。
しかし、今回ばかりは度が過ぎた。




「ジェイド……その、手に抱えてんのはなんだい? 」


「人だ」



「今すぐ返してきなさい!!! 」



+−+




「ぷはぁ〜っ、ごちそうさまでした! 」



鈴の音のような可愛らしい声が、フォール「カセータ・デ・ペーロ」の木造りの天井に響いた。
彼女の前に置かれた古いテーブルの上には、綺麗に空になった椀が山のように置かれている。


「いやあ、旅の途中行き倒れて……ちょうど食料なしの一文無しだったので助かりました! 」



「いや、助かったのはいいんだけど、キミ食べすぎじゃ……」


フォール「カセータ・デ・ペーロ」ーー通称「犬小屋」に所属する魔道士ジャックは、苦笑いで目の前の行き倒れていた少女を見た。

歳は、十代前半あたりだろうか。幼い顔つきで、丸い琥珀色の瞳は生気を取り戻したようにキラキラと輝いている。グレーの髪は、長い前髪を片方丸い髪留めで縛っており、短い後ろ髪はぴょこぴょこあちこちにはねていた。
彼女の背負っていた、擦り切れて古い大きい背負い袋がテーブルの横に置かれている。彼女の服装も国の旅人のもので、おそらく本当に旅をしていたのだろう。


少女はジャックの引き具合など全く気にもしない様子で、周りにいた人々ーージェイドとジャックのみだがーーをぐるりと見渡す。そして、行儀よく頭を下げた。


「私、クロワと申します! 職業は画家ですけど、訳あって今旅をしてます。行き倒れたところを、この度は美味しいご飯をありがとうございました」


クロワの近くの壁に寄りかかっていた、クロワを拾ってきた張本人ーージェイドは目を開くと小さく「ああ」とだけ答え、それからまた瞳を閉じた。



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