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SIDE:梓


「……梓?」

 情事の後の甘ったるい気怠さの中で、しかし城戸の意識は全く別の場所に飛んでいた。

『好きな人としかしたくないって思うことが子供なの?』
『だったら俺は、大人になんてなりたくないッ!』

 ほんの数時間前。そう叫んだ孝四郎の言葉に、まるで胸を抉られるような痛みを感じた。
 誰かを好きになる。誰かを愛する。それは城戸にとって非常に難しい感情だった。そんなものを覚えるよりも先に、城戸は快楽を擦り込まれていたから。
 初体験は小学六年の夏、自宅の三軒隣に住む女子高生によるレイプだった。プールから帰る途中、冷たいものでも飲んでいけと声をかけらた。
 家に上がり出されたジュースを飲んだあと、気付けば女が幼い城戸に跨り腰を振っていた。
 事件はやがて明るみになって、割りと大ごとになったと記憶している。女子高生の家族はいつの間にか引っ越して、姿を消した。
 周りは城戸を当然被害者として扱ったが、心がなくても、意識すらなくても、人はセックスで快楽を得られるのだと城戸は知ってしまった。アレは確かにレイプだったが、それでも幼い城戸の体はしっかりと快楽を拾っていた。
 あの日に何かが壊れたのかもしれない。
 誰のことも好きになることはなく、しかし中学に上がってからは性別など関係なく体を繋げた。幼い頃から行ってきたドラッグとの治療が、セックスに変わるのも早かった。
 性に奔放な城戸を、誰も縛りつけようとしなかったし、心が欲しいとも言われなかった。ただニコニコと笑みを浮かべているだけで、抱いて欲しいと勝手に相手から寄ってくる。
 それが当たり前だった。
 言葉なんていらない。心なんて必要ない。相性だけが重要で、ただ気持ち良ければそれで良い。誰もがそうなのだと、城戸はずっとそう思っていた。

「瑞樹」
「なに?」

 瑞樹の指先が、曝け出された城戸の素肌を撫でる。先ほどまで肌を重ねていたのに、まだ足りないのだろう。

「お前は俺と、どうにかなりたい?」

 尋ねられた言葉に、瑞樹は少しの間黙り込んだ。やがて小さく笑い声を漏らす。

「僕は今のままで十分だよ」
「……そう」
「なに、どうしたの?」

 肩に触れていた指が段々と下におりて、やがて城戸の中心をするりと撫で上げた。
 肩越しに瑞樹を振り向いた城戸は、本格的にセックスを強請り始めた相手の蕩けた表情に、体の奥が冷えていくのを感じた。
 瑞樹の手を弾く。

「帰るわ」
「えっ!? ちょ、梓!?」

 いつもなら、腹上死するかと思うほどに抱き潰されるというのに、どうして。
 さっさと服を身につけて部屋から出て行こうとする城戸に慌てて駆け寄るが、城戸は振り向くことなく外に出た。

「またね」

 無情にも目の前で閉められる扉から、一瞬だけ見えた城戸の顔は酷く楽しげに笑んでいた。瑞樹は訳もわからず、しかし未だかつて感じたことのない不安を胸に抱く。

 案の定瑞樹の予感は当たる。その日から、城戸からの誘いはパタリと止んだ。



SIDE:END


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2021/01/16





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