SHEPHERD : 後編
「んっ、んっ、あっ! あっ、う"…」
「凄いね。初めてなのに、もうこんなに馴染んでる」
「あっ! ひやっ、ああっ!!」
散々弄り回された中の膨らみを、悪戯に強く擦られまた絶頂を迎えた。全身が痙攣を起こし、視界もブレる。そんな俺の状況を分かっていながら無視をして、染は更に奥く深くへと突き進んだ。まるで、終わらせる気などさらさら無いとでも言うかのように。
「もっ、無理ッ! やだ、もうイきたくなっ! あ"っあっ! やっ」
「こんなに可愛くて、よく今まで無事でいられたね」
「うぁ"っ、あっ、ヒッ!」
打ち付ける腰の動きは激しいままなのに、男、染の顔は涼やかで憎たらしい。額にうっすら浮かぶ汗さえも、まるで宝石みたいに輝いている。
「っれは…つ…なの…?」
「なに?」
「これ…は、罰…なのか?」
「どうして? 罰を受けるようなことを、何かしたのかな?」
「あッ、ぁ、」
「例えば、親友の彼氏に恋心を持ったり」
「な…」
「そんな彼に愛される親友が、不幸になることを望んだり?」
「なっ!!」
躰にくっついてた染の胸を押しのけた。怖くて、怖くて、この身を暴かれた瞬間よりもずっと怖くて、震えが止まらなくなった。
なんで、アンタが俺の心を知っている…?
「良いね、その期待を裏切らない反応」
「何で…」
「東吾くんの事ならなんでも知ってるよ、ずっと見てたからね」
色素の薄い、癖のない前髪をかきあげる。そんななんてことない仕草さえ様になるこの男は、一体何を考えているのだろう。
どうして俺を、こんなめに合わせるのだろう。
「大丈夫だよ。だって君はいま、自分の身を挺して友達を守っているじゃない。そんな君を誰が責める? こんなに頑張ってる君を責める奴はクズだよ」
目尻から流れ落ちた涙が、染の指で拭われた。
「君は何も罪なんて犯してない。だから安心して、感じていれば良いよ」
「ンぅっ!」
抜けかけていたモノが中に戻される。そうしてまた始まった交わりは次の日の明け方まで続いて、ついに俺は一晩で、染を受け入れただけでイける躰にされてしまった。
◇
「どういうつもりだ」
百獣の王が、俺を睨みつけている。
絡まれた時にはあれ程心強いと思っていたソレは、自分に向けられればなんと恐ろしいものなのか。
「東吾…ほんとなの? 最近ずっと、ゼンって人のところに出入りしてるって…。その人、快地さんと敵対してるチームのリーダーだって…」
知ってる。知ってるよ、そんなこと。だから俺が、あんな目にあったんじゃないか。
「それって何か、俺に関係あんの?」
「なんだと?」
「アンタらが敵対してるからって、俺に何か関係あんの? だって俺、アンタらの仲間じゃないし」
「テメェッ!!」
すっごく固いものが俺の頬にぶつかって、口の中が一瞬で鉄臭くなった。
「うっ…く、」
「こんなことまでしてアイツに取り入ろうなんて…恥を知れ!」
快地さんの手からばら蒔かれた四角い紙が床に散る。それは…あられもない姿で染に組み敷かれる、俺の写真。
「なっ、何でこんなのがッ!!」
「送りつけられて来たんだ、俺宛にな! 悠真の親友だって言うから大目に見てきたっていうのに、なんて汚らわしい。視界に入れるのも不愉快だ、消えろ!!」
「なにこれ………最低だよ東吾っ! 親友だと思ってたのに!」
なんで…? なんで俺が汚らわしいの…? なんでそんな目で俺をみるの…? なんで悠真は、俺を軽蔑した目で見てるの…? 俺は、お前の為に…快地さんの為にあんなことを何度も、何度も…。
大粒の涙が視界を遮って、ついに床に零れ落ちた。
「酷いこと言うよね」
倒れ込んだ冷たいコンクリートにまで責められる俺に、聞き慣れた声が届く。
「染…」
「久しぶりだね、快地」
「なんでお前がここにいる」
「俺のお姫様を迎えに来たんだよ。あぁあ、泣かされちゃって」
いつもと何も変わらない声と表情で俺に近付いてくる染は、また変わらぬ仕草で俺の涙を指で拭う。
「酷い仕打ちだよね。東吾くん、お友達の為にあんなに頑張ったのに」
「…なんのことだ」
快地さんが染を睨みつけるけど、染は全く意に介さないで笑い返した。
「俺がこの子を脅したんだよ。親友を犯されたくなかったら、大人しく俺に抱かれろってね」
染の言葉を聞いて、何故か悠真が頬を赤らめた。
「まさか、お前」
「やめてよ。お前とは昔から何もかも趣味が合わなかっただろ? 人の好みは特別合わない。俺の狙いは始めから東吾くんだよ」
「え…?」
一瞬にして顔色を変えた悠真に、染がにっこり笑いかけた。
「期待させちゃったかな? ごめんね、俺、君には一ミリも興味ないよ」
「染っ!!」
「東吾くんを手に入れるためなら、俺は何だって利用するしどんな手だって使うよ。だって置いておけないでしょ? こんな、誰も東吾くんを守ってくれないようなところ」
染は倒れ込んでる俺を軽々と抱き上げた。
「ねぇ悠真くん。この子を親友だと思っていたなら、どうして写真を見た第一声が『最低』なのかな? どうして最初に俺を責めない? 相手は敵対している俺だよ。脅しで無理矢理、なんて一番簡単に思いつく答えじゃないのかな? どんな非道を尽くしてでも東吾くんを手に入れようとする人間なんて、いないと思ってた?」
「そんな…ちが、」
「そう、ただの嫉妬なんだよね? 快地よりも、俺の方が好みだった。そんな俺に抱かれた東吾くんに嫉妬した。ただそれだけでしょう?」
図星を突かれたのか、カァっと顔を赤く染めた悠真を見て快地さんが愕然とする。
「話はそれだけだよ。じゃあ、俺は東吾くんを貰っていくからね。後のことは、自分たちで処理してね」
これ以上はここにいても意味はない、そう分かる足取りで、俺を連れた染はさっさとその場をあとにする。そんな俺たちの後ろで、快地さんの怒声が響いた。しかしそれは、俺たちに向けられたものではなかった。
ここはこれから、大荒れになるらしい。
俺を抱いて歩く染の後ろに、ひとり見知った顔の男を見つけた。それはいつも、快地さんの溜まり場のソファで、本を読んでいた人だった。
何を聞いたって素っ気ない返事しかしてくれない、あの人だ。
「後ろの人、知り合い?」
「そうだよ。彼の名前はアキラ=B今回一番の功労者かな」
ふっと笑う染に、その意味を感じ取る。
あの人が染の仲間なんだとすると、一体いつから快地さんの懐へ入り込んでいたんだろう? だって、俺たちがあの場所へ招かれた時にはもう、あの人はあそこに居たのだ。
そうしてもう一度アキラと呼ばれた男を盗み見ると、その後ろには更に人が増えていた。その中にまた、見覚えのある男を数名見つける。
あの日、俺と悠真に絡んできたガラの悪い奴らだった。
「染…、アンタ、」
「俺の考えてたこと、やっと分かった? 君を手に入れるためなら、何だってするって言ったでしょう?」
ふわりと崩す表情に偽りは無い。そこにはただただ、俺への想いだけがあった。
「俺、アンタに捕まっちゃったのか」
「気が遠くなるほどの時間をかけて、漸く…ね」
重ねられた唇は、やがて濃厚に交わり…俺の全てを奪い尽くした。
「君には俺以外、必要ないんだよ」
綿密に練られた罠にまんまと堕ちて、抜け出せない場所まで来てしまった。俺も、悠真も、あの人も…。
彼らに向けていたはずの感情は、まるであの日渡されたケーキの箱のように踏み潰されて…気付けばどこかへ消えて失くなっていた。
END
2017/10/29
あとがき
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