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きみがため 前編



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前川靖友 → ヤス
直江彰仁 → アキ
長野朋也 → トモ
甘田光希 → ミツ
原 裕二 → ユウジ


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 いつからだっただろうか。
 気の置けない仲から、手に汗握るような関係に変わってしまったのは。

「あぁぁあっ、またユウジに負けたぁぁ! ってヤベ! もう21時過ぎてんじゃん! トモっ、なんで言ってくんねぇの!?」
「俺ちゃんと言ったよ!? なのにミツが……」
「ほら〜、ぐだぐだ言ってないで片付けよ〜」
「ユウジが卑怯な手ぇ使うから、俺は」
「ミツ! さっさと手ぇ動かしてよ!」
「ぅへーい」

 ゲーム機を囲む騒がしい三人の背中を見ながらも、俺の全神経は隣の男に向かっている。
 床に置いた手に、別の手が重ねられ……指が絡まる。

「大体さ、アキが泊めてくれればいい話なんだよな」

 急に振り返ったミツに、俺は慌てて手を引っこ抜いた。

「俺は恋人しか泊めない主義なんだよ」
「はいはい、ほらヤス! ボケっとしてないでお前ももう帰るぞ! 最近先生達の見回りが厳しいんだよな〜」
「あ、ああ……」

 側にあったリュックを慌てて手に取ると、三人の背中を追って玄関に向かう。

「じゃあアキ、また明日な」
「おやすみアキ」
「セーブデータ消さないでね〜」

 俺も何か言おうとして、しかし口を閉じる。俺はまだ、この男にさよならを言えないから。



「あっ、あっ、まっ……やめっ! あっ!」
「ヤス……」

 耳元で囁かれる、その声を拾うだけで躰が発火しそうなほど熱くなる。

「やだっ、もっ、やだっ!」
「違うだろ、ヤス。ちゃんと本当のことを言いな?」

 イヤイヤと首を横に振って、必死に与えられる快楽から逃げ出そうとする。だが、シーツにしがみつけばつくほど、相手の匂いに包まれ気が狂いそうになって。そんな俺を見て、その躰を犯している男がふっと笑う。
 まるで雌犬のように腰だけを高く上げ、逃げたいと足掻くのに、気付けば揺れてしまう腰を嘲笑っているのだろうか。

「あぁっ! あっ、だっ……め、ンぁあッ」
「ヤァス?」
「っも、ち!」
「んー?」
「きも、ち! きもちいぃ!」
「誰と気持ちよくなってる?」
「あっ、アキぃ」
「違うだろ?」
「あき、ひとっ! あきひとぉ!」
「そうだよヤス、いい子だな」
「ンあぁ、あぁあっ!」

 女のそれとはまるで違うであろう、俺の固い腰の肉に彰仁の指が食い込んだ。
 タンタンタン、とリズムよく奥深くに叩き込まれる異物を、俺の尻は喜んで受け入れていた。昂ぶった彰仁のソレを逃すまいと、喰いつくように中が蠢いているのが自分でも分かり、羞恥に涙が滲む。
 どうしてこうなってしまったのか……俺自身、よく分かっていなかった。

「ンああぁっ!」
「んっ、く……」

 ひと際強く叩きつけられ、腰の奥が痺れて目の前に火花が散る。全身が痙攣を起こしたそのすぐ後で、胎の中にじんわりとした熱を感じた。

「んっ……は、はぁ……ぁっ」

 イったばかりで敏感になっている躰の中から、先ほどまで俺を蹂躙していた太いものがズルリと抜けていく。その合間にも、俺の背中には沢山のキスが降り注いだ。

「あっ、アキ……痕、つけんなって前にもっ、」

 ぢゅ、と強く吸われ思わず背後を振り返ると、腰のあたりに唇を落す、俺よりもよっぽど獣のような目をしている男と目が合った。
 少し前髪が長い、艶のあるショートヘア。前髪の奥に潜む長いまつ毛に縁どられた瞳は切れ長で、その瞳に見つめられると、仕留められる寸前の獲物にでもなったように動けなくなるのだ。
 薄く形の良い唇が、ゆっくりと弧を描いた。

「ヤスが唇にキスさせてくれるなら止めるけど」
「それは……」
「向き合ってセックスさせてくれるなら、二度と痕を付けないって約束するし」

 今度こそ黙り込んだ俺に、彰仁がまた笑った。

「嘘だよ、ヤス」
「アキ……んっ!」

 うつ伏せのままの俺の上にいる彰仁が、尻と太ももの境い目を吸い上げる。

「あと、ここで最後」
「うわっ」

 羽が舞い降りるように、俺のソバカスにキスを落とし、ふっと笑う。その表情だけで思わずまた、下半身に熱が溜まりそうになった。


 アキこと直江彰仁と出逢ったのは、高校1年の初秋のことだ。親の離婚で引っ越すことになり、人生初の転校を経験することになった。
 平均より高い身長に、ツンツンと立つ短く切った硬い髪。威嚇するように吊り上がった眉に、目元は奥二重の三白眼と来ると、その印象は最悪だ。
 可愛らしい見た目の母との唯一の共通点であるソバカスは、なにもカバーしてはくれなかった。
 この容姿のせいで、目つきが生意気だと不良に絡まれ、髪を伸ばし目を隠しても陰気でウザイと絡まれ……いい思いをしたことがない。それどころか口下手なことも相まって、今まで友達すらまともに作れたことがなかった。
 だから、転校先でもまた人から距離を置かれて過ごすのだろうと思っていた。

 転校初日、想像通りほとんど誰とも話すことなく一日が終わった。分かってはいたものの内心では落ち込み、項垂れ帰路につこうと廊下に出たその時だ、突然腕を引かれたのは。

『きみ、名前は?』

 振り向いた先には、長身の俺よりも更に頭ひとつ背の高い、驚くほど整った容姿の男が俺を見ていた。
 綺麗なのに、全く女性らしさはなく、むしろ雄っぽさが滲んでいる。
 高校生なんて、まだまだ少年の域を出ないガキなはずなのに……そいつは思わず息を呑むほど大人びている。こんな格好いい男がいるものなのかと、話しかけられたことも忘れて見惚れていた。

『可愛いね』

 ―――は?

 俺が目を見開くと、目の前の綺麗な男がふっと笑う。

『俺は1-Aの直江彰仁。きみは?』
『あ……1-Bの、前川靖友』
『名前も可愛い』
『へ?』

 再び聞こえてきた妙な言葉に、何かの悪い冗談かと眉を歪めると、その変な男……直江彰仁の後ろから元気な声が飛んできた。

『あっ! アキってばこんなとこにいたー!』
『こらこらトモ〜、走ると怒られるよ』
『あれ、アキが転校生くんナンパしてる〜』

 中学生と言っても通りそうなほど幼く可愛らしい、小柄な少年と、太陽の下が似合う活発そうな風貌の少年。その後ろから、ちょっと気怠い感じで歩く、派手なタイプの少年がやってきた。

『俺は甘田光希でーす。ミツって呼んでね!』
『俺は原裕二、ユウジでいいよ〜』
『……あ、俺は』
『ヤスだよ』

 全員が、彰仁を見る。

『なんでお前が答えるんだよ』

 光希がじっとりと彰仁を睨む。が、彰仁は緩く微笑むばかりだ。

『トモ〜、自己紹介は?』

 裕二が彰仁の腕にしがみ付く小柄な少年に首を傾けるが、少年はムスッとしたまま俺を見ない。

『隣のクラスでしょ? 関係ないじゃん』
『え〜? そういうこと言う〜?』
『はいはい、このチビっこいのは長野朋也。トモって呼んでね! 俺たちみんなA組だよ』

 トモと呼ばれた少年の頭を、ポンポンと叩いた光希の手は、思いのほか強く振り払われた。

『やめろよ! ねえ、アキ! もう帰ろう、早くアキん家行きたい!』

 朋也は俺の存在を無視すると、彰仁の腕をぐいぐいと引っ張り去ろうとする。だが今度は、その手が彰仁によって押し退けられた。

『今日からは、ヤスも一緒』
『え!?』

 朋也の大きな瞳が吊り上がる。

『なんでだよ!?』
『俺がヤスを誘いたいから』

 にっこりと笑んだその顔が怖い。

『はいはい! 俺も行くー!』
『俺も〜!』
『ヤス、この後用事はある?』
『あ……いや、ない……けど』
『じゃあ、俺の家に遊びにおいで?』

 自然な流れで彰仁は俺の腰に手を回し、歩き出す。後ろから朋也が何やらワーワーと騒いでいたが、誰も気にすることはなかった。
 こうして転校初日から、ほとんど強制的に俺は隣のクラスのこいつら四人とつるむことになった。そうして気づけば、もうすぐ出会って1年が経とうとしていた。


中編



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