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化かす化かすが化かされる***



「ねぇ、ちょっと音量下げてくんない!? 煩くて勉強に集中できないんだけど!」

 部屋の入り口を振り向けば、弟がブチ切れた顔して腕を組んで立っていた。

「えー、今いいとこなのに」

 テレビ画面の中では、主人公が今まさにゾンビに襲われ抵抗しているところだった。それを指さして言えば、弟は心底軽蔑した目で俺を見据え吐き捨てる。

「部屋もゴミだらけで汚いし、オッサン臭いし! もう、ほんとイヤ! 信じらんない! 兄弟だと思われたくない!」

 さすがにカチンときて弟をよく見れば、

「あれ…? なにお前、もしかして化粧してんの!?」

 平凡な容姿で、社会に出る前からおっさん化してしまった俺とは大違いの、女の子みたいな小綺麗な容姿の弟。そんな弟の肌が、なんだか粉っぽい。

「な、なんだよ!」
「うわぁ〜、マジか。幹也、お前オカマなの?」

 馬鹿にした訳じゃなく、本気で驚いただけなんだけど。そうは受け取らなかった弟の幹也は酷く憤慨した。

「今時男だってファンデくらいするよ! 汚ったないアンタなんかより、よっぽどマシでしょ!?」

 幹也は足元にあったティッシュの箱を俺に投げつけ、当てつけのように強くドアを閉めて出ていった。

「あ、ティッシュ探してたんだ」

 物で溢れかえった汚い部屋の中、ガチャガチャと音を立てながら大の字になる。

「あーあ、なんか気分悪りぃ〜」

 指先にコツンと当たったスマホを手に取り、通話履歴を開く。履歴の中で一番上にいた奴をタップして呼び出すと、そいつは案外すぐに電話に出てくれた。

「あ、月島? 今夜飲みにいかねぇ?」


 ◇


 飾りっ気のない、ちょっと小汚い見た目の居酒屋。でもこういう店の方が料理が旨かったりするから気に入ってる。そんな店の雰囲気にピッタリの俺と、ちょっと浮いてる…月島。

「先輩、いつものでいいですよね?」
「うん」
「すみません。生中二つに、砂肝と枝豆、揚げ出し豆腐と手羽先お願いします」

 見た目は浮いてるのに、注文に慣れてるあたりが常連客の証か。

「あ、やっべー。俺財布忘れちったかも」
「ハイハイ、俺と飲む時に持ってきたことないじゃないですか。最初から期待してないですから、演技しなくていいですよ」
「えー、そんなことないと思うけどなぁ」
「それより、今日は急にどうしました? 飲みたい気分になるようなことでもありました?」

 クイ、と首をかしげる月島は大学時代の後輩だ。
 本当はもっともっとランクが上の大学に行けただろうこの男は、「家から近かったので」なんて理由で俺の通う大学にやってきた。
 爽やかな見た目と、それを裏切らない中身。優男なのに行動は男前で、女からは学年問わずキャーキャー言われていた月島。そんなだと同性からは嫌われそうなものなのに、男からもなかなかに支持があったから凄い。そんな月島とは、偶然同席した飲み会で出会った。
 周りから「なんでお前が慕われるの?」なんてあけすけな嫉妬を向けられるくらい、何故か月島は俺に一番懐いてくれた。それだけ懐かれりゃ俺だって悪い気はしない。
 大学を出た途端希薄になっていく人間関係のなか、こうして社会に出た後でも飲みに付き合ってくれるのは、月島くらいかもしれない。

「実家、そろそろ出よっかなぁ」

 ビールを飲んで吐く溜め息は、なんだか普通のよりずっと重い気がする。

「どうして? 炊事洗濯が面倒だし、家賃が勿体無いってずっと出なかったじゃないですか」
「いや、そうなんだけどさ。最近弟がマジでウザくて」
「そういえば、弟さんいたんでしたっけ」
「昔はまだ小さくて可愛かったけど、最近クソウザくってさぁ。今日もテレビの音がうるさいとか、部屋が汚いとか女みたいに喚いて」
「歳、おいくつでしたっけ?」
「いま大学二年。つーかさ、今時の男って化粧するもんなの? 幹也が顔になんか塗ってたんだけど! もしかしてお前もしてる!?」
「いや、俺はしたことないですけど」

 否定した月島をジッと見る。確かになにもしてなさそうな、自然な顔をしている。そして見れば見るほどこの男がとんでもない色男なんだと再認識させられた。

「弟さん、化粧するんですね」
「まぁなんか昔からナヨナヨした奴だったからな。オカマかも」
「可愛いんですか?」
「んー、美少年とはよく言われてたな」
「へぇ?」

 月島の目がキラリと光る。

「会ってみたいなぁ、弟さんに」
「あ…あっ! おま、もしかして!」

 そうして漸く俺は、コイツの変わった一面を思い出した。月島は、男も女もどっちもイケる両刀だ。

「俺の弟食うつもりか!」
「食う≠ネんて人聞きの悪い。ちょっと会ってみたいだけですよ。でもまぁ、流れがあればありがたく頂きますけど」

 にっこりと笑うその顔は、万人を虜にする程綺麗だけど。

「俺にそれは効かねぇぞ! つーか、え〜…幹也ぁ?」
「これでどうです?」

 月島が、テーブルに諭吉を四人並べて見せた。

「紹介料。先輩は、ただ俺を家に招いてくれるだけでいいです。後は自分でなんとかしますから」
「……それだけで、これ?」
「もちろん、無理強いして襲ったりしません。安全保障つき」

 暫くの間、笑みを浮かべる月島と睨み合うように見つめ合い…やがて。

「…乗った」
「最初から乗る気だったくせに」

 俺は両手を上げて降参した。

「親がいない時、連絡する」

 こうして俺は、後輩に生意気な弟を売り飛ばすことに決めた。


 ◇


 月島を家に招く機会は、案外直ぐに訪れた。両親が、父方の実家へ泊まりで出かけることになったのだ。
 俺が人を呼ぶと言った途端、キーキーと猿みたいに喚き散らす幹也。本当にウザイ。言っとくけど今からお前は男に食われるかもしんねーんだからな! 教えてやらんけどな。
 ひとりほくそ笑み、それを見た幹也がキモイと更に騒ぎ出した頃。待ち望んでいたインターホンが部屋に鳴り響いた。

「おお、よく来たな」
「こんにちは、お邪魔します」

 玄関で爽やかさを撒き散らす月島。それを見て、今までヒステリックに騒ぎ立てていた幹也がピタリと大人しくなった。頬がほんのり色付いている。

「君が幹也くん? 今日はお邪魔しちゃってごめんね」
「いっ、いいえ! とんでもない! どれだけでも寛いで行ってください!」
「あ、ほんと? ありがとう」

 もう一度微笑んだ月島に、幹也の顔が噴火するかと思うほど赤くなった。

「幹也、飲み物」
「はっ、はい! すぐに!」

 いつもなら絶対「はぁ? テメェで取れよ」とか言ってキレまくる幹也が、パタパタと素直に動く。その姿に爆笑しそうになって、必死で我慢する。このぶんだと、今日はめちゃくちゃ楽しめそうだ。
 だがそうして俺がニヤニヤしていられたのは、ほんの数分の間だけだった…。


「えー! そうなんですか!? そんなの僕初めて聞きました〜」
「そう? 結構有名かと思ってた」
「やだぁ、絶対嘘だぁ〜」

 あはは、うふふ、キャハハ、わはは。なんだオメェら、青春漫画みたいにキラキラ語りあいやがって。
 飲み物を持ってきた幹也は、頼みもしないのに当たり前のように月島と俺と共にリビングに残り、月島に質問攻めを始めた。
 それに対して月島が嫌な顔もせず紳士に答えるもんだから、幹也の瞳はハートマークを飛ばしまくっている。
 そもそもが、月島に弟を会わせる口実で家に遊びに来たわけだから、こうして二人が急接近することは手っ取り早くて良かったんだけど。良かったんだけど!!
 こんなに俺のこと、完ムシする必要ある!?

「あ、月島これって」
「月島さん、お肉好きですか? この前大学の近くで凄く美味しいお店見つけてぇ」
「へぇ、俺は肉食だからガッツリ食うよ」
「えー! 見えなぁ〜い! かっこいい〜!」

 何それ。何その会話。え、アホなのコイツら。えー。てか月島まで今俺のことシカトしたろ! 俺は月島に差し出していたバイク雑誌を手元に戻し、流石にムッと唇を突き出した。
 今まで、誰と話してたって俺のことシカトしたことなかったのに。やっぱアレか、適当に付き合ってる俺と、これからヤるかもしれない相手ってのは、こうも対応が違ってくるもんなのか。
 そりゃそーか。大体いま俺がここに残ってるのだって、月島にしたら「早く席外せよ」って思ってんのかもしれねぇ。
 なんだかすっごくガッカリした気分で「俺部屋行くわ」と立ち上がってみる。でも結局ふたりは俺なんか見ることもなく、

「ちょっと勉強見てもらいたいところがあるんですけどぉ…」
「ああ、いいよ」
「ホントですかぁ〜!? じゃあ、僕の部屋行きましょう」

 って、ふたりの世界を繰り広げていた。


 ◇

 いつもは相手してくれる月島に放っておかれて面白くない俺は、昼間からビールに手を出した。
 ひとりで黙々と飲んでいると、隣の部屋から時折楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

「なんだよ、月島のやつ! 幹也なんかに鼻の下伸ばしちゃってさー! もう今度から一緒に飲みに行ってやんねぇからな!」

 一度も金を払ったことがないくせに、なんだか悔しくって恨み言ばかり口から漏れる。そうこうする間にビールの缶は一本二本とどんどん空いていく。
 そうして俺は、バタリと気を失うように酔いつぶれてしまった。




 くちゅ…

 ん…なんか、ふわふわする…

 にちゅ…くちゅ…ゆさっ、ゆさ

 ふわふわ…ゆさ、……ゆさ?

 ふわふわとした意識の中で、なんだか一部分だけ違和感がある。でも眠くて、どうしても起きたくない。だけどなんだか変な感じがするからと、漸く深いところにあった意識を持ち上げた。

「あれ…やっぱり起きちゃいました?」
「ん…?」

 薄らと開いた視界に、月島が映る。頬と目元を、ほんのりと朱に染めた月島はなんだか妙に色っぽくて。

「あれ…おま…なん…?」

 眠気まなこでぼんやりとする俺を見て、月島がクスッと笑った。

「先輩、寝起き可愛いですね」

 ゆさっ、

「ンう"!?」

 月島が動いたら、何故か俺の腹の中にズシンと響いた。

「えっ、えっ、なっ!?」
「もうだいぶ慣れたでしょう? 寝てる間もヨダレ垂らして喘いでましたからね」

 訳のわからんことを言いながら月島がまた腰を揺する。その度に脳天に突き抜けるような快感が襲って…そこでやっと、自分の尻にとんでもないものが突き刺さっていることに気付いた。

「なっ、な!? なにしてっ、月島! あっ、ンあっ、あっ!」

 抗議したいのに、腰を動かされる度に信じられないくらい気持ち良くなって、文句が喘ぎに消されてしまう。

「ひえっ、なっ! 幹也っ、幹也は!」

 なんで俺がこうなってんの!? こうなる予定は幹也だろ!?

「ああ、幹也くん? お酒飲ませたからぐっすり寝てますよ。でも、先輩声大きいから起きちゃったかもしれないですね」
「ぬえっ!? ちがっ、おま!」
「ああ、紹介の話? あんなの嘘ですよ」
「ン"あっ!!」

 月島が、容赦なく穿つ。

「初めて会った時から、アンタを食ってみたくて仕方なかったんだ」
「月島!?」
「寝込み襲おうにも、スボラなくせに警戒心強いから、こんなに時間かかっちゃった」

 そう言って笑う月島は、俺の知らない男になっていた。

「でもまぁ今まで散々たかられてきたし、このくらい良いでしょ? プラスで四万も渡したし。ねぇ?」
「よっ、よっ、よくねぇええええええっ!」

 叫びながら俺は、月島の手で思いっきりイかされた。



 夕日を浴びて、月島が髪をかきあげる。

「先輩の躰、思った以上に相性良かったなぁ。今まで結構高くついたし、もうちょっと付き合って貰いますからね、幸太郎せぇ〜んぱい?」

 いつもみたいに、にっこりと笑ってみせる月島。それを見て、俺は漸く気付いた。
 どうやら俺は、月島に慕われていたわけじゃ…ないらしい。



END


※今は微妙に愛なし。でもこの後から月島が執着し始めて…?
ヤンデレではないけど、歪んでるのでこっちに。


2018/05/20


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