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となりのクラスのおひめさま:榛原爽志 *



 もしもそれが色鮮やかな宝石であったとして、だけどそんなものが、自分の周りにゴロゴロと転がっていたとして。
 その全てを美しい≠ニ思う者も居れば、そんなものに何の価値も見い出せない者も居る。そして俺はそんな後者に当てはまる人間だった。ただ、それだけのこと。

 零二が俊平ちゃんを気に入るのは、何となく予測していた。
 アイツは俺によく似てる。だから一緒に居られたし、色んなものを共有してきた。いつの間にか俺の手から零士の手へとソレが移っていても、特別何かを感じたことはない。人にも、物にも、執着心など持ったこともなかった。
 でも、今回だけは何かが違う。

 誰もが美しいと認めるものは、確かに美しいのかもしれない。だけどそこに、新鮮味はない。
 懐く陽希に何を感じたこともなく、放っておいた結果が今だった。だからと言って遠ざけなかったのは、いつか何か面白いことが起きるかもしれないと期待していたからなのか、単に面倒だっただけなのか。
 自分でもよく分からないが、それでも確かな獲物が引っかかった。

 ―――巻波俊平

 今まで誰も向けることのなかった目を、陽希に、零二に、俺に向ける。
 突き刺さるようなそれは、確かな嫌悪=B

「爽志、どうかした?」

 腰に陽希を巻きつけた零二が、俺を振り返る。

「…いや、別に」

 もう一度見上げたその先、陽希の教室であるその場所の窓には、先ほどまであった人影はもう、なくなっていた。


 ◇


「なぁなぁ、俊平ちゃん。俊平ちゃーん」

 放課後の誰もいない教室で、俊平ちゃんの前の席を陣取って、スマホゲームに勤しむ彼の顔を覗き込む。少し長めの前髪を指で退けてやると、敵意バシバシの目が俺を睨みつけた。

「何なんだよ、鬱陶しいな」
「やっとふたりきりになったんだぜ? イチャつきたいんだよ」
「はぁ? なにアホなこと言ってんだ。俺は忙しい、触んな」

 前髪をくるくると触り続けてたい指が振り払われた。その手を見て思わず笑みが溢れてしまう。
 コレだよ、コレコレ。
 今までの奴らだったら、俺に触られるどころか、目があっただけで顔を赤らめたりするってのに、俊平ちゃんだけはそれがない。寧ろ汚い物でも見る目で俺を見る。それが堪らなく面白い。
 手を振り払ったきり、また黙ってゲームを始めちゃうところも気に入っている。

「何だよ酷いなぁ、キスまでした仲なのに」

 予想通り、俊平ちゃんは勢いよく顔を上げた。だけど予想通りじゃなかったのは、その顔が少し赤らんでいて、照れたようにその瞳を潤ませていたことだ。
 そう、今までの奴らと同じように…。

「あ、あんなのノーカンに決まってんだろ」

 いつもと全く違う、弱い声。目は泳いで、俺と全く視線が絡まない。

「おい、俊平ちゃん」
「アレだって、アンタ達の遊びの一環なんだろ? 俺は忘れようとしてんだから、話題に出すなよな」

 ついにプイと顔を背けてしまう。オイオイ、待てよ、マジかよ。もしかして俊平ちゃん、

「なぁ、もしかして俺のこと意識してくれてんの?」
「はぁ!? あっ、あんなのどうやったら意識せずにいられんだよ!」
「まじかよ」
「……なんだよ! どうせ俺は経験皆無の童貞不細工だよ!」
「おっと!」

 照れ隠しなのか、俊平ちゃんは手に持っていたスマホを俺に投げつけた。おいおい、割れたらどうすんだよ。とか言いながらしっかり落とさないように受け取って、ニヤつく顔を抑えきれぬままスマホを丁寧に机に戻した。
 俊平ちゃんの前の席に座りなおす。スマホを手放した彼の両手を、しっかりと握り締めた。

「あー…。お前、マジで覚悟決めとけよ」
「…は?」
「使う言葉、見せる表情、悪いけど全部俺の下半身にクんだよな」

 ほんの数秒の間を置いて、俊平ちゃんが顔を青ざめさせ勢いよく立ち上がろうとした。当然、俺はそれを阻止する。
 零二はいま、数学の女教師に呼び出されている。随分と零士にご執心のようだから、まだ暫くは離してもらえないだろう。時間は、たっぷりある。

「俺を焚きつけといて、今更逃げられるとか思ってんのか?」
「おっ、俺がいつ焚きつけ…ッ!!」

 掴んだ手を加減なく引っ張り、その勢いのまま唇を奪う。勢いが良すぎてぶつかったそれは、痛みと鉄臭さを少しだけ連れてきた。けど、それも直ぐに忘れざるを得ないような、濃厚なキスを与える。

「ひぁっう、んぅ! んっ! ぅうっ」

 前回は入れることが叶わなかった舌を、無遠慮に突っ込んで口内を蹂躙する。
 最早体に力が入らなくなった俊平ちゃんは、ぐったりと自分の席に座り込む。俺は俊平ちゃんの机に乗り上げて、覆いかぶさるように息を奪い続けた。

 堪らなかった。
 俺を睨みつけるその目つきも、照れて潤ませるその瞳も、染め上げた頬の紅さも、なにもかも。
 俺がコイツの躰を翻弄するその間に、コイツは俺の心を翻弄する。全身が熱くなった。まるで性に飢えた初なガキみたいに、ただ貪りたい欲が溢れた。

 俺がコイツを気に入ってるのは、他の奴と全く違うからだと思ってた。今までとは全く別の表情や言葉の反応が返ってくるのが、ただ面白かった。
 俊平ちゃんには、常に斬新さと新鮮味があるから、俺はコイツを手に入れたいんだと、取られたくないんだと思ってた。
 でも、そんなの全然関係ねぇじゃねぇかよ。

 俺はコイツが何を見せても、何を言っても可愛いと思った。それだけじゃない。正直全部、感情が下半身に直結するんだよ。
 多分俺は、俺が思っていた以上に俊平ちゃんにハマってる。それも、この先二度と抜けられそうにない深い深い、とてつもなく深い沼に。


「アッ! はぁ、はぁ…はっ、あ」

 漸く離された口から、荒い呼吸と透明な唾液を零すコイツを、今すぐめちゃくちゃに抱き潰したくなった。

「俺に見つかった自分を恨めよ」
「はっ、ぁ…は……は?」

 酸欠気味だったのか、目を虚ろにさせた俊平ちゃんが首を傾げる。

「おい、俺を萌え殺す気か」

 笑って、脱力したままの躰を担ぎ上げた。

「もう、零二とかかまってらんねぇ。お前のことだけは我慢できねぇわ」

 危険を察知したのか、肩の上で暴れ始めた俊平ちゃん。でも、周りに注目されても良いのかよ? って一言いってやれば直ぐに静かになった。
 可愛いやつだな。もう十分注目されすぎてんだから、静かになったって意味ねぇのにさ。

 昇降口で靴を履かせ、引きずるように俊平ちゃんの腕を引く。俺たちを遠くから盗み見る奴らの視線を蹴散らし、学校を後にした。

「どこ行くんだよ…?」
「零二が絶対に来ないとこ」

 今はお前を、食い尽くすことしか考えてねぇからな。
 


 絶対零二は怒るだろうなぁ。けど、悪いな。やっぱコイツは、俺のなんだよ。



END


2017/10/16


菊川零士編



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