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【SIDE:歩】

「松嶋」

(ビクッ)

「私はね、側に居てやれとは言ったが、抱いてやれとは言っていないはずだが?」
「い、いや…その、流石に最後まではしてな…」
「我に返って思い止まった訳か」
「うっ…」
「………」
「……す、素股…まで…」
「松嶋…君は羊の皮を被った野獣だね」

 委員長は大きなため息をついて髪をかき上げた。

「それで、中川君はちゃんと眠れたのかい?」
「…はい」


 何度か欲を解放してやると、泣き疲れた事もあって旬はそのまま眠ってしまった。
 その後風呂に入れ、着替えさせてやったがそれでも目を覚ますことは無く、ぐっすり眠っていた。

 正直…やってしまったな、と後悔している。
 本当の意味で抱いてやることは出来なかったが、際どいことをしてしまった。旬は雨宮先輩が好きなのだ。そんな旬が抵抗を見せなかったところを見れば、それだけあいつが弱っていたことが窺い知れる。
  
 朝目がさめると、隣に旬の姿は無かった。
 あぁ、俺たちの関係も終わりかもしれない。親友の支えになると決めたのに、自らそれを潰してしまったと頭を抱えた。だが…

 ――コンコンッ

「歩、朝ご飯食べるだろ? もう直ぐ出来るから起きて来いよ」

 寝室のドアを開けて覗かせた旬の顔に陰りは無く、いつも通り。

「何だよ、まだ寝ぼけてんのか?」

 そう言って笑って、俺の頭を小突いた。

「ほら、食べるぞ!」




「あいつの顔見るまではちゃんと分かってたんですよ。泣けるだけ泣かせてやろうって思ってたんですよ。けど、寮に戻って来た時の旬の顔見たら……あんな、あんな虚ろな目ぇしてるの初めて見て…」

 ショックだった。
 感情の起伏はそんなに激しく無い奴だったけど、それなりに表情は豊かだった旬が。あんなただの空洞みたいな目をするなんて信じられなかった。
 何をどれだけ抑え込めばそうなるのか…思わず旬をかき抱いてしまいたい欲求に駆られて、そして呑まれてしまった。

「まったく困った子達だ。まぁ、でも良く思い止まった。身体なんて感情に任せて繋げるものじゃないよ。それも必要な時はあるが、今はその時ではない。分かるね?」

 藤村さんの言葉にこくりと頷く。何のために今まで親友に徹してきていたのか、それを忘れてしまいそうだった。

「松嶋、私はこれでも君の事はとても可愛く思っているんだ。まるで妹の様にね」
「そこはせめて弟にして下さい!!」
「だから君にあまり辛い思いはして欲しくない」
「無視ですか!!」

 自分の容姿が中性的である事は良く知っているが、藤村さんに言われるとかなりダメージを受ける。

「この先も君は、親友として、影として徹するつもりなのかい?」
「……そう、したいと思ってます」
「………」

 茶化して抜きあうのとは訳が違う。本気で触れてしまえば迷いが出る。何故自制出来なかったのか、昨日の自分を思い出して頭を抱えたくなった。

「何故自制できなかったか教えてあげようか?」
「え…?」
「覚悟が足りないのさ」

 向けられたことの無い冷たい目が、俺を見ていた。

「戦い方はそれぞれ違うし色々な方法が有るよ、それは私も分かる。過去の君は自身を相手に戦ってきたね。親友としての立場を守り抜くために、あの子の幸せを見守る為に。だが、今の君はどうだい? 何と戦っている? 私にはただ逃げているようにしか見えないが」
「それは…」
「君の固い意志はどこへ行ってしまった? 奪う勇気も無く、影にも徹することも出来ない中途半端な者を私は『男』として認めることは出来ないよ、Girl」

 人の気持ちは日々成長し変わっていく。
 その中で意志を貫き通すことは、とても難しい事なのだ。

「変化する心を責めるつもりは無いよ。だが、逃げる事は感心しない。もう一度自分がどうしたいのかよく考えることだ」

 言われた言葉に何も言い返せず、ただ俺は俯いた。




【SIDE:藤村】
 

 私には好きな言葉が有る。

『結婚することだけが、ソイツを幸せにしてやれる方法とは限らない』

 それは昔見たアニメの中の青年が発した言葉ではあったが、下手な恋愛評論家の言葉よりも私の心を大きく揺さぶり感動を与えてくれたものだった。
 愛する者の幸せを願うが故に己の想いを殺し、命を賭してでも守ろうとした彼の覚悟がひしひしと伝わってきたのだ。

 少し前までの私は、松嶋に彼を重ねていたのかもしれない。だが、私は今の松嶋を見ていて思う。
 愛する者は、自らの手で幸せにしてやりたいと思う事が必然であるのだと。

 そうすることが出来る可能性が少しでもあるのならば、私は戦う勇気を持って欲しいと思うのだ。
 どうか彼には、自らを犠牲にするのではなく共に歩める道を選んで欲しい。辛い思いはして欲しくないが、後悔だけはもっとして欲しくない。

 見守ることしか出来無い私は切に…彼らの幸せを願う。




※『結婚することだけが、ソイツを幸せにしてやれる方法とは限らない』

アニメ『巌窟王』、フランツより。


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