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※陵辱表現アリ


【SIDE:陸】

 あの日見たあいつの目を、今でも覚えてる。
 見たこともない程に真っ直ぐに前を向いたその目を僕は、怖いと思った…。

「生徒会補佐に任命されました、1−Aの中川旬です。よろしくお願いします」



 昼間でもあまり人気の無い校舎裏の物置。
 生徒など居るはずの無い時間帯に、暗闇の中で卑猥な音が鳴り響く。

「んっ、ぐっ、ンン、ぅんんッ」
「はぁっ、くっ、すげぇ〜超良い具合っ」
「あんまり慣らさなくても即行で入ったもんな」
「そこら中の男垂らし込んでヤッてんだぜ、そりゃ入るだろ」

 口の中に詰められた布よりも、自分の身体の中で暴れる物よりも。
 ゲラゲラと笑う声の方が不快で耳を塞ぎたかったが、腕は後ろで纏められそれも叶わない。

「うっ、うぐ…うぅっ、」
「はは! シッカリ反応してやがるっ」
「陸ちゃんへんたーい! 犯されて感じちゃってんのぉ?」
「おーおー、ここもドロッドロじゃん、えっろ〜」

(前立腺触りゃ誰でも勃つっつーのッ)

 自分よりも一回り以上体格の良い男、三人がかりで襲われれば成すすべはなかった。まだ一人目かと思うと気が遠くなる。

 ここの所、風紀の見回りの目を縫っては問題を起こす者が増えていることには気付いていた。生徒会役員と言う本来なら生徒たちのトップに立ち統制と取らなければならない自分達が、率先して職務を放棄しているのだ。
 当然生徒会を支持して来た生徒達の不満は募る。

 自分を押さえ付けている男達にも見覚えがあり、確か三人とも副会長の親衛隊だったはずだ。
 秩序も何も無くなった今、暴行事件は日常茶飯事。
 風紀委員たちの厳しい取り締まりによって、学園の崩壊は何とか食い止めているものの限度がある。無法地帯へとなるのも時間の問題だった。

 生徒会の中でも、僕と副会長は男達のセックスシンボルと呼ばれていたから、いつかこんな事が起きるだろうとは思っていた。

 早く終われ
 早く終われ
 早く終われ

 無力な僕が出来ることは、ただ早く時間が過ぎることを願うだけだった。


「何してやがるっ!!」

 一人目が中と外に欲望を吐き出し、二人目へと交代しようとしたその時、閉ざされていたはずの扉が開かれた。飛び込むようにして入ってきたそいつは、あっと言う間に男三人を伸してしまう。
 一瞬のことに驚いて起き上がろうとするが、めちゃくちゃに遊ばれていた身体は思った以上にダメージが大きく、思うように動かなかった。

「んっ…げほっ、げほっ」
「先輩、立てますか」

 口の中に詰められていた布は取り除かれ、縛られていた腕を解放される。
 見られたくなかった、こんな無様な姿を。身に纏っているのは、辛うじて足に引っかかっていた下着のみ。晒された素肌にべっとりと付いた白く濁った液体も隠し様がなく、何をどこまでされたかバレバレだろう。

「浅尾先輩、これ羽織って下さい」

 肩から僕を包むようにして掛けたのは、中川が着ていたはずの真っ白なワイシャツ。

「こんなの脱いで、お前はどうするんだよ…」

 夜になってもまだ蒸し暑いこの時期に、ブレザーなど羽織っている生徒は居ない。つまり、ワイシャツを脱いだ中川は上半身裸だ。

 「女じゃ無いですから、下さえ履いてれば大丈夫です」

 それに夜ですし、とはどんだけ大雑把な答えだと罵りたくなったが、そのシャツを借りなければ自分が着るものは何もない。側に落ちている自身のシャツは無残に破かれているし、脱がされたスラックスには男の欲望がぶち撒けられている。
 チッ、と舌打ちを漏らしながらシャツを羽織れば、ムカつくことにシャツだけで太ももまですっぽりと隠れた。

「俺に掴まってください」

 言ったかと思うと突然抱き上げられる。

「なっ!!」

 暫くバタバタと暴れたが、抵抗は全く効いていない様だったので直ぐに諦めた。
 何時の間に連絡したのか、地面に伸びていたはずの男たちは風紀委員数名によって連行され消えていた。

 中川が僕を何処かへ運んで行く。
 ゆらゆらと連れて行かれる間中、黙ったまま中川の身体を見ていた。それは以前、小さくも可愛くも無いと罵ってやったものだ。
 皮肉なことに僕は今、その引き締まった男らしい身体に守られている。

 憧れたことも無いその身体を見て、僕もこんな身体をしていたらあの暴漢達に太刀打ち出来たのだろうか、と…意味の無い事をぼんやり考えた。


 連れて行かれたのは生徒会室だった。
 思わず身体を固くすると、それに目ざとく気付いた中川は「誰も居ません」と短く呟いた。
 抱えられたまま入った部屋の中には言われた通り誰もおらず、ほっと息を吐く。てっきりそのままソファに下ろされるとばかり思っていた僕は、思わず取り乱すこととなった。

「おっ、お前何考えてんだよ!」
「このままで良い訳が無いでしょう」
「だからって、ちょっ、おい!!」

 僕が下ろされたのは、仮眠室の中にあるシャワールームだった。
 マットレスの上に僕を下ろしたかと思うと、中川はおもむろにスラックスを脱ぎ捨てて僕の身体を洗い始めた。

「ばっ、自分で出来る!」

 中川からスポンジを奪い取り、身体を洗おうと膝立ちしたその時。後孔からどろりとした生ぬるい液体が漏れて太ももを伝う。

「うぇえぇええぇっ」

 肌の上を流れ落ちるその感覚に思わず吐き気が込み上げた。

「うぅっえっ、うぇぇっう、うっ」

 まるで中に入った汚物を拒絶するかのように、身体は痙攣を繰り返すが上手く吐けない。

「先輩」
「いいっ、うぇ、触るな!」

 背をさすろうとする中川の手を拒む。これ以上情けをかけられたくない、みっともない、そう思った瞬間。

「馬鹿野郎! 変に強がってる場合か!!」

 言ったと同時に中川は僕の肩を抱き寄せ、綺麗に日に焼けた長い指を僕の口の中に押し込んだ。あの中川に怒鳴られたという衝撃と、指を入れられた気持ち悪さに意識がグルグル廻る。
 そうして僕は激しいえずきと痙攣が収まるまで、永遠と中川の指に促されて吐き続け、やがて意識を手放した。


 ◇


 気付いた時には仮眠室に寝かされていて、ベタベタと気持ちの悪かった身体も綺麗にされ清潔な寝巻きを纏っていた。

「気分はどうですか」
「……最悪」

 差し出されたペットボトルの水を受け取り、半分以上を一気に飲み込む。

「お前…何で助けた」

 正直僕は、嫌われる様なことをした覚えはあっても助けて貰えるようなことをした覚えはない。その上中川にとって僕は、最大の恋敵のはずだ。
 不貞ばかり働いて自滅するような馬鹿な僕の事なんて、放って置けば良いのに。

「あの場で、助けない人が居ますか?」
「………」
「まぁ、身から出た錆だとは思ってます」
「っ、てめぇ…」
「だからって、襲われて良い人なんていない。それに…」

 中川には珍しく、真っ直ぐな瞳を俯けてしまう。

「それに俺にとっては…浅尾先輩だって大事な生徒会の仲間です。俺のこと、生徒会のメンバーだって認めてくれてないのは知ってます。それでも俺は…」

 言葉を失ったのと同時に、中川は強く拳を握りしめた。

「先輩、何故抵抗しなかったんですか」
「…は?」
「縛られてた手首以外、身体に傷が有りませんでした。抵抗…しませんでしたね?」
「……保身だよ」

 抵抗は命取り。昔から小柄で女みたいな容姿の僕が身を守るには、叫ぶことでも、逃げることでも、まして暴れることでも無く。相手の好きな様にさせておくことが一番の護身方法だと気づいたのだ。

「それだけじゃ無いでしょう。……雨宮先輩の為、ですね」
「ッ、」
「痕が残れば先輩にバレる。あの人が哀しむから、抵抗せず耐えて来たんですね」

 ――今までずっと

 ボロリと涙が零れた。
 何でお前がそれに気付くんだ。何でお前が…

「貴方の努力で、今回も身体に痕は付いてない。……俺、雨宮先輩を呼んで来ます」
「馬鹿言うなっ、呼ばなくて良い!! こんな事僕はっ」
「“慣れてる”なんて言わせませんよ!? こんな時くらい素直になれ!!」

 そのまま中川は飛び出していく。

 何でお前が怒るんだよ。何でお前が泣きそうな顔するんだよ。本当は今すぐにでも尚に抱きしめて欲しいって…どうして分かるんだよ。
 
 やがて仮眠室の入口には尚が現れて、その顔は涙でぐちゃぐちゃで。僕の顔を見るなりとびかかる様にして抱きしめてきた。
 シャツの上から伝わってくる、愛しい人の温もり。抱きしめられた途端に震えだす僕の身体。中川が見抜いた様に、僕の精神はもうすでに限界を達していた様だった。

「ごめんっ、ごめんね陸ちゃん! 俺がちゃんと守ってれば、こんなっ」

 離れて行ったのは僕なのに、こんなことになっても可笑しくない行動をとっていたのは僕なのに。
 何でみんな、僕を責めないのだろう。放っておかないのだろう。

 僕以上に泣きじゃくる尚の背中に腕を回す。
 ぎゅっとシャツを握りしめれば、更に強く抱きしめられた。

 ふと入口に目をやれば扉はもう閉まる寸前で、中川の姿はもう見えなかった。
 敵に塩を送るような馬鹿な奴。
 弱った僕が恋人に望むことなんて、分かりきっているだろうに…。

 シャワールームの入口に落ちているワイシャツ。
 穢れを知らなかった真っ白なそのシャツは、僕のせいで汚れてくしゃくしゃになっている。
 それはまるで中川自身のように思えて、僕は無性に泣きたくなった。

「尚…んっ、」

 望んだものは口に出さなくても直ぐに与えられた。

 彼奴はどんな思いでここへ尚を呼んだのだろうか。
 彼奴はどんな思いでこの部屋を去ったのだろうか。
 彼奴にはちゃんと、泣ける場所があるのだろうか…

 らしくもなくそんな事を考えた僕は、何処か可笑しくなったのかもしれない。




【SIDE:旬】

 寮に戻ると、鬼の形相で歩が待っていた。

「歩…?」
「この馬鹿っ、こっち来い!!」

 手を引かれて連れて行かれたのは歩の部屋。
 部屋に入るなり俺はソファに突き飛ばされ、小柄な彼からは想像もつかない程の強い力で押し倒された。歩は眉間に深く皺を寄せて俺を見てる。凄く怖い顔をしているのに、どこかその瞳は頼りなさげで…。

「泣け」
「ぁ…」
「泣けっ!!」

 涙腺は歩の声に操られるようにして簡単に崩壊した。
 意志とは関係なく、決壊したダムの様にボロボロと涙が零れ自分でもどうしたら良いか分からない。

「うぇ、ひっく、うえぇ、うっ、」
「ほんとバカ。お前って、ほんっとバカ」

 言われた通りだと思うと情けなくて、顔を手で隠す。けど歩はその手をそっとどけると、辛辣なセリフとは真逆の手つきで俺の目元を拭った。

「もう何も考えんな。お前はただ感じて…啼いてろ」
「ぁ、あゆっ…んッ!」

 頭を抱き込まれ、唇を奪われる。互いに欲を抜きあうことはあっても、キスをしたことは一度も無かった。

「ん…ん、はっ、んン…ぁゆ…んっ」

 強引に奪われたはずなのに、与えられる熱は優しくて余計に涙が止まらなくなる。
 どちらの物か分からない唾液に濡れた唇は、銀糸を切って首筋をたどり、鎖骨をやんわりと噛む。それだけの刺激で俺の腰は激しく跳ねた。
 歩が何をするつもりか何となく分かったけど、俺はそれを止めようとは思わなかった。ただ無性に、今は歩の体温を感じていたかった。

 俺は何も言ったりしないのに、歩はいつも誰より早く俺の気持ちに気付く。ズルい奴だと言われてもいいから、一人になりたくない。余計な事を考えてしまうから、一人になりたくなかった。

「旬…」
「ぁ…歩っ、あゆむ…あッ」

 歩が与えてくれる全てが優しかった。
 言われた通りひたすらに歩を感じて、ただ泣いて、啼き続けた。
 そうして甘えてばかりの俺は、薄く膜の張った世界の中に逃げ込んで見逃した。

 辛そうで、哀しそうで、切ない顔をしていた歩に俺は…気付くことができなかったんだ。


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