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「斎藤くん! あの、話が有るんだけど…」

 屋上には晴天が広がり、爽やかな風が吹いている。
 そんな中、僕の心臓は飛び出してしまいそうな程に緊張していた。

「…なに?」

 きっと氷よりも冷たいであろう、その声音。
 でも、それに負けちゃいけないんだ。

「えと…ちょっと、場所変えたいんだけど…」
「ここで話せ」

 お、鬼だっっ!
 何話そうとしてるか分かってる癖に!
 でも、やっぱり負ける訳にはいかないんだ…。だってこれは、人生一大決心の告白なんだから!

「じゃあ…ここで…」
「早くしろ、時間が勿体無い」
「うぅ…はい」


 ◇


 僕の通う高校は男子校。
 全寮制ではないから、腐的な意味では少し残念らしいけど(腐女子の幼馴染に聞いた)。
 でも実際閉じ込められてなんていなくても、多感な時期に同性しかいない学校生活というのは多少なりとも影響が出るもので。
 学校内でのカップル成立率は案外少なくもなく、寧ろ最近増えつつある。と言うのも、ゲイやバイの子達が敢えてここの学校を選んでいることが大きな要因らしいけど。
 そしてその要因は、自分にも当てはまるのだけど…。

 そんな自分に気付いたのは中学1年の時。
 それもバイではなくゲイ。

 とある女子が気になるのだと思っていたのに、蓋を開けてみれば気になっていたのはその隣の彼氏さん。
 僕が見ていたのは彼女の隣。
 嫉妬が向いていたのは、彼に触れてもらえる彼女に対して。
 そんな有りがちなシュチュエーション。
 気付いた切っ掛けだって、とても些細な事だった気がする。

 理解した瞬間、
 もう人生終わりだと思った。

 でもそこから僕は盛り返した。
 そこは幼馴染の支えがカナリ大きい。

 僕の隣の家の、佐々木真弓。
 同い年で昔から親同士も仲のいい、典型的な幼馴染。
 真弓には昔から隠し事も何もなかったから、自分の性壁に気付いた時も一番に相談した。
 因みにその時、真弓が腐女子であることを知った。

 真弓は見た目こそ可憐な美少女だけど、中身は相当な男前…時々オッサン。僕があんまり大泣きするもんだから、朝まで付きっ切りで慰めてくれたっけ。その上で、腐女子には色んな意味で有名な今の高校を僕に進めてくれたわけだ。
 それが僕とこの高校との出会い。そして入学して少し経ってから、彼の存在を知った。

『斎藤浩一郎』

 ――天使の皮を被った悪魔

 彼の、周りからの評判はこんなだった。
 その時はまだ会ったことが無かったから、どんな恐ろしい奴かと思ってた。
 それから直ぐに知ることになったんだけど…。


 偶然通りかかった校舎裏。不良達の溜まり場の一つだったみたいで、数人たむろしてるのが見えた。
 あ、引き返そう。って思った時、一際大きな声が聞こえて、つい足が止まってしまった。

「斎藤くん! すっ、好きなんです! 僕と付き合ってください!!」

 初めにも言った通り、ウチは男子校。つまり、“斎藤くん”に告白してる相手も当然男子って事になる。ついつい気になって覗いて見ると、初めに“斎藤くん”と呼ばれた彼が目に止まり、一目で噂の彼だと分かった。
 身長は少し小さめの百六十代後半といったところ。殆んど白に近いふんわりした金髪には、いつも色んな色のメッシュが入ってる。今はピンク色のメッシュを入れてるけど、この時は薄い緑色が入ってた。

 若干キツめの印象を与える目元を中心に、全てが神話から抜け出して来た様に整った容姿を見て、天使のような可愛らしい印象よりも、純粋に綺麗だと思った。対する相手は斎藤くんには劣るものの、その辺の女子よりよっぽど可愛い子が真っ赤な顔をして立っていた。
 真っ直ぐに斎藤くん(とその仲間たち二人)の方を見ている。素直に凄いなぁって感心してしまった。でも…

「無理。タイプぢゃないし、好きになれそうな要素もない」

 恐ろしい程にどストレートな言葉が彼を襲った。

「話、それだけならもう行って」

 優しさのカケラも無い一言。“天使の皮を被った悪魔”って、本当だったんだ。予想外にこちらに駆けてきた可哀相な男子は、僕に少し肩をぶつけて走り去って行った。

 泣いてた。
 幾ら本音でも、もう少し言い方があるだろう?って、何故か僕が憤りを感じてしまった時、

「はぁ〜、コウちゃん相変わらずキッツイねぇ。あの子可哀相ぉ〜」

 少し緩い感じの話し方をする、僕の代弁者が現れた。

「は? 優しくしてやれってことか?」

 分かってんじゃない。何様のつもりだよ、人の心が君には無いの? そう思ったのに…

「無理だね、そんな偽善的なこと。その気もないのに優しくして、気を持たせたままとか悪趣味だろ」

 あの断り方は全く褒められたものではないけど、それでも彼は彼なりに相手を思ってたんだ。

「まぁ、優しいコウちゃんなんて気持ち悪いだけだしねぇ〜」
「てか、前に来たガチムチ系もビビったけどよ、アレとコウが付き合うとか百合だろ(笑)」

 緩い話し方をする人と不良っぽい人が斎藤くんに殴られている音を聞きながら、僕はその場をそっと後にした。
 その後、更に彼を見直す出来事にまたもや遭遇することになって、それから彼を色んな場面で見かけるようになった。相変わらずキツイ言葉を吐いている事が多いけど、それでも相手の事を考えての事だと思わせる場面が沢山あった。
 そんな彼を見るたびに、どんどん心が惹かれていくのが分かった。
 とても単純な僕は、容姿に反する男らしさと、マイナスイメージからのギャップに一気に恋に落ちてしまったんだ。

 一年生の間は見るに徹していたのだけど、二年に上がってまたクラスが離れたときに決心した。
 告白しようって。きちんと気持ちを伝えて、悔いを残さずキッパリ振られて来ようって。
 そうして冒頭のセリフに繋がる訳なんだけど…

「えと、初めまして。2−Cの宮田優です。斎藤くんのことがずっと前から好きでした。付き合って貰えませんか?」

 以前目撃した、あの男の子の告白場面と酷似している。今日も齋藤くんは友達に囲まれていた。

「はぁ? お前自分の顔見たことあんのか?」

 最初に口を開いたのは斎藤くん、ではなくその友人A(不良)。うわぁ、痛いところを突いてくる人だな。そう、僕は自分でも痛いほどに自覚を持っているんだ、平凡だって。

「自分が平凡だって分かってます。だけど、自分の顔で相手を好きになるわけじゃないでしょう?」

 そう言うと、友人Bがケラケラと笑いだして、それに煽られたA君は顔を真っ赤にして立ち上がると、僕の胸ぐらを掴んできた。

「テメェ自覚があんなら弁えろよ! こんな可愛いコウが、テメェと釣り合う訳ねぇだろ!! このデカ男!!」
「斎藤くんは可愛いんじゃない! 格好良いんだ!!」
「はぁ!? 訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ平凡!! コウは可愛いだろうが!!」
「訳わかんないのはアンタだ! 斎藤くんは格好良いんだよ!!」
「テメェ冗談は顔だけにっ「おい、お前」」

 訳の分からない僕らの言い合いを途中で遮ったのは、斎藤くんだった。しかも…

「いいよ」
「え?」
「お前と付き合ってやっても、いいよ」
「「っっぇぇぇええええ!?」」

 A君と声を揃えちゃったのは、本当に一生の不覚。





 何ともあっけなくOKを貰えた僕の告白。
 例え悪魔と呼ばれようとも、彼の容姿はとんでもなく美しい。当然学年問わず、種類も問わず凄い人気な訳で(チワワから男前イケメンからガチムチ系まで何でもござれ)、僕達の噂はあっと言う間に広がった。
 そして、バッシングもまた凄かった。

「あんな凡人が何で?」
「何故僕はダメでアレは良いわけ?」
「身の程を弁えろよ」

 言われる言葉は辛辣で、正直挫けそう。だけどその中には、

「どうしてあんな悪魔と? やめておきなよ」
「絶対後悔するって」
「今なら引き返せるよ?」

 なんて僕を気遣う言葉をかけてくれる子達もいたりして、正直驚いた。
 僕の周りの友人達はまさかOK貰ってくるとは思っていなかったみたいで(僕だってそうだったし)、報告したらポカーンとしてたけど、我に返れば心配しつつもおめでとうと言ってくれた。

 これから楽しい楽しい恋人生活が待ってるのかなって思うと、凄くドキドキする。
 彼の好きなものや嫌いなもの、好きなことや嫌いなこと。
 沢山知っていきたいな。

 うん、とっても楽しみだ!


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