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【SIDE:塚原】


「平和だなぁ〜」

 ぐっと伸びをして晴れ渡る空を見上げた。

「あーぁ、見てらんねぇんだけど。どっか別のところ行ってくんねぇかな」
 
 何時ものように屋上に集まるボク等。中田が白い目で見る先には、コウちゃんと宮ちゃんが。ぱっと見ふつうに談笑している様に見えるけど、コウちゃんの手はちゃっかり宮ちゃんの腰に回されている。

「ほんの数ヶ月の間で、こんな劇的な変化があるなんてねぇ」
「ちっ、俺ぁまだ認めた訳ぢゃねぇんだからな!」

 往生際の悪い中田は、何処かの漫画みたいに負け犬の遠吠えをした。

「だぁ〜れが負け犬だぁ!!」
「あいてっっ!!」

 また口に出てたみたい…。

 かつてのコウちゃんを知る人が今の彼を見たら、きっと卒倒するだろう。現に斎藤軍団と呼ばれてたボク等の仲間も、変化について行けず寝込む者が出たほどだ。
 だけど、本来基本的に友好的な奴らばかりの集まりだったし宮ちゃんの性格も合間って、今では中田以外の斎藤軍団はあの子に骨抜きだ。
 
「てゆぅか中田くぅ〜ん、そんな事言っちゃってるけど、ボク知ってるからねぇ?」
「は? 何だよっ」
「『おい平凡、これ教えろよ』『おい平凡、これ旨いぞ食うか?』『おい平凡見てみろ、これ面白いぞ』『おいへい「わぁぁぁあああ!!!」」

 中田は真っ赤になって何処かに走って行った。何だかんだ言いつつ、あいつも宮ちゃんの魅力に惹きつけられてる。純粋な奴らだよ、全く。

 コウちゃん達の気持ちが通じ合ったあの日、コウちゃんは今までの行いに対して頭を下げて謝罪した。じゃあ、ボク等は?
 自分でも、宮ちゃんに酷いことをした自覚がある。中田が宮ちゃんの勇気を叩き潰していたことも、誰も会話に混ぜようとしていなかったことも、全部ボクは気付いていたのに何もしてあげなかった。そのまま放置した。

 自分の気持ちに気付けなかったコウちゃんでも、寂しさや嫉妬に駆られた中田やその他の斎藤軍団でもなく、あの時一番最低だったのは…気付いていたのに、彼をそのまま地獄の中に晒したボクなんだ。

 頭を下げるだけじゃ足りない。殴られても構わない。だけど、それを話したらコウちゃんに止められてしまった。『優はそんなこと望んでない』って。
 だったらボクは、これから何も詫びることが出来ないままなのか。謝罪を口にすれば、きっとそれだけで止まることなど出来ないだろう。だからこそ、何も言えなくて…

「塚原くん」

 一人どんより思い悩んでいると、ふわりと優しい声がかけられる。

「少し話してもいいかな?」

 ボクよりも少し高めの身長。どう見ても男であるのに、コテリと首を傾げる姿が妙に似合ってる。

「うん? どうしたの〜?」

 努めて明るく振る舞ってみたけど、上手く出来ていただろうか。

「あのね、今更だって怒られるかもしれないんだけど…僕等の事、いつも見ててくれてありがとう」


 ――え?


「僕、ずっとお礼が言いたかったんだ。色んな場面で塚原くん、いつも助けてくれるでしょう? それで、僕…」
「待って待って待って!」

 驚き過ぎて、どうしたらいいのか分からない。何を言ってんの? この子。ボクは君に酷いことしかしてないでしょう?

「ボクが一体何をした? 宮ちゃんを晒し者にしただけで、何も出来てない!本当なら、もっと早く動いてれば、あんな騒動にはっ」
「それは違うよ」
「……へ?」
「こんな事、本当は二人で解決しなきゃダメなことだったんだ。もしも塚原くんが前に出てきてしまってたら、きっと僕らは駄目になってた。塚原くんは、本当に優しいね」
「そんな、そんなことっ」
「あるよ。逃げた僕を追いかけて来てくれたじゃない。斎藤くんの代わりに、毎日教室まで来てくれたじゃない。僕らのダメな部分を、いつだって補ってくれたじゃない。それに僕らが付き合うこと…認めてくれるように斎藤軍団の皆に説得してくれたって、知ってるよ?」

 ――だから絶対、謝ったりしないで?

 本当に冷たい人は、そんなことしないよって、宮ちゃんが優しく笑うから。ありがとう、って、本当に嬉しそうに言ってくれるから。

 ボクは、ただボロボロ泣いた。

 涙なんて、家族にだって幼い頃以来見せたことなかったのにな。だけどなんだか、とても気分がよかった。後悔や懺悔が、涙と共に流されて行く。
 後から結果がついて来ただけだけだ。でも、それを宮ちゃんが喜んでくれたのなら。コウちゃんが喜んでくれたのなら。

 前を向いてる二人を、これからもずっと支えて行きたい。だからこそ、もうボクは後ろを振り返ったりしちゃいけない。
 ボロボロと涙の止まらないボクの頭を、宮ちゃんが優しく撫でてくれる。何だか恥ずかしくて照れ臭いんだけど、妙に甘えたくなっちゃって。

「宮ちゃ〜ん!」

 ぎゅっ、と目の前の優しい男に抱きついた。
 優しい彼は少し驚いた声を出したけど、すぐにボクを抱き返し背中をぽんぽんしてくれる。それがあんまり心地良くて、珍しく周りの状況を頭からすっぽりと抜かしていた。

 ほわほわと夢心地のボクが、斎藤軍団&天使の皮を被った悪魔にボコボコにされるまで…


 あと数秒。



END☆




◇おまけ◇

バイト先にて。


「「はぁ…」」
「佐々木さん。溜め息なんてついてどうしたの〜?」
「貴方こそ。何かあったの? 冴えない顔してるわよ」
「うーん…何か弟みたいに思ってた幼馴染が兄離れしちゃって」
「あら奇遇ね、私もよ」
「佐々木さんも?」
「幼い頃から可愛がって来た幼馴染を、男に取られたのよ。確か貴方と同じ高校よ」
「えっ!? 誰? 名前は?」
「あなた口は硬いんでしょうね」
「大丈夫、絶対誰にも言わない。てかウチの学校そんなんばっかだし」
「…ミヤタユウ。知ってる?」
「………嫌ってほど存じ上げております。その子の相手が、ボクの幼馴染だよ」
「ヤダ! 本当!??」
「………」
「………」
「「………………」」
「バイト終わったら、何処かで話さない?」
「いいわね、私も今そう思ってたところよ」

 その後、二人の間に変な絆が生まれたとか、生まれてないとか。


番外編1



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