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 全くもって予想外の展開だった。

「鈍広…お前、一体何やってるんだ」

 呟きは誰へとも届くことはなく、薄暗い廊下へと消えていった。



【SIDE:蜂川】


 この学校は特殊だ。だが、だからこそ意味もある。
 この学園生活で生徒達がどの様な立ち振る舞いを見せるか。将来この日本と言う国の中で、各部類で上層部に食い込んで来るであろう生徒達のそれを見届ける事が我ら教員の仕事であると認識しているが、数ヶ月前に教員が一名混沌へと落ちた。

 彼は教師として一番重要なポストに着いており、誰よりもしっかりとしていなければならない立場だった。しかし、目立った理由も見えぬまま彼は今、生徒会役員と共に職務を放棄し続けている。

「おや、蜂川先生じゃないですか」

 外からでもバタバタとしているのが分かる風紀室の前。扉を開ける前に呼び止められ振り向けば、切れ長の瞳が俺の内面まで見透かす様に向けられていた。

「宮城」

 風紀委員長の宮城は、俺の手元にチラリと目を向けた。

「生徒会からの書類、ですか」
「あぁ、期限切れの物がここの青い付箋までだ、遅れてすまない。その他は間に合ってるはずだ」
「………」

 宮城は俺の説明に資料へ再び目を向けたもののそれは一瞬で、後はずっと俺を見ていた。

「おい……聞いてるか?」
「ええ、聞いていますよ。ところで、いつから蜂川先生は生徒会に入られたんです?」
「あ? あ、あぁぁ…一週間前、からだな」

 唯でさえ鋭い目が更にスッと細められ、俺の肩は本能的にビクリと震えた。

「えぇっと、あー…宮城?」
「まぁ、今の状態では仕方が無いですね。でも、今度は生徒会だけではなく此方の補助もお願いしますよ」

 くっと片方だけ口角を上げた宮城に、今度は全身がぞくりと戦慄いた。
 そのまま背を向けて風紀室へと入っていく宮城の体の隙間から部屋の中が一瞬見えたが、何と言うか…カオスだった。

「風紀も今、大変だもんなぁ…」

 編入生の起こした事件や事故が余りに多く処理が追いつかず、生徒会ほど人的被害は無いものの風紀は仕事でてんやわんやしている。

「今度手伝いに来るか…」

 宮城から受けた謎の寒気に腕を摩りながらも、同じ被害を被った者同士助け合わなくてはと思い直し生徒会室へと足を向けた。




「何だ、お前帰らなかったのか」

 生徒会室に戻ってみると、もう帰ったと思っていた朱里がまだソファに座っていた。

「和美ちゃんを置いて帰れる訳ないじゃぁん」

 そうしてニコリと笑った朱里は本当に良い男だった。今時の奴らはイケメンっつーのか。
 この学園で生徒会に入るにはカリスマ性が無くては無理だが、朱里はそれをとてもバランス良く持ち合わせていると思う。会計と言う役職の立ち位置はピッタリだ。

「ねぇ和美ちゃん、お茶してから帰ろうよ」
「その為に待ってたのか」
「まぁね〜、珈琲で良い?」
「あ、いや…」
「ん?」

 自分の見た目は十分に理解している。飲み物と言えば直ぐに珈琲を、それもブラックを用意されることが多いのだが、実のところ苦いものはカナリ苦手で…。俺にとって珈琲は単なる苦くて黒い液体でしか無かった。
 だが、先ほども言ったが俺は自分の容姿を良く理解しているが故に、中々珈琲が苦手と言い出し辛いところがあった。

「あれ、もしかして珈琲苦手?」
「まぁ、その…」
「じゃあ紅茶は飲める?」
「好き…だが」
「何だ、聞いてよかった〜。俺も珈琲より紅茶派なんだよね! 美味しい茶葉が有るから入れてあげるよ」

 そう言ってささっと給湯室へと姿を消した朱里を横目に、珈琲が苦手なことを笑われなくて良かったとそっと胸を撫で下ろした。
 まさか朱里が、給湯室で腹を抱えて笑っているとも知らずに…


SIDE END


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