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前編


 高校生の時、同じ部に憧れの先輩が居た。

 佐和要(さわかなめ)先輩。

 背が高くて、足も長くスタイルが良くて、顔面偏差値なんてズバ抜けて高く…その上頭まで良くてテニス部ではエース。
 まさに「ンな馬鹿な」である。
 でも、世の中にはそんな何処にも欠点が無いような人間が存在するのだから恐ろしい。そしてまた、その真逆も存在するから悲しくなる。

 残念なことに背が低く、足も長い訳がなく、顔面偏差値なんてマイナス。お陰であだ名は何時もへんてこりんな物ばかり。勉強だって頑張っても中の下。そしてテニス部では居ても居なくても良い様な存在、そんな全てが【残念】で構成された奴。
 それが僕、成美潤(なるみじゅん)だった。

 なのにどうしてか、佐和先輩には良く声を掛けて貰った。

「ナル、飯行くぞ」
「ナル、お前もカラオケ来いよ」
「ナル、一緒に帰ろうぜ」

 ナル、ナル、ナル…

 佐和先輩のお陰で【ナル】が定着して、変なあだ名を付けられずに済んだ高校時代。でも、先輩と密に過ごした時間は殆んど無かった。何故なら。

「お、畏れ多いですっ! お気持ちだけ頂いておきます! 失礼します!!」

 全てこのセリフで逃げて来たからだ。だって、余りに先輩が眩しすぎて…とても一緒になんて居られなかった。

 先輩が卒業する頃には誘いは殆んど無くなっていたけど、周りから妬みの目で見られることが無くなってホッとした方が大きかったのも事実だ。だから、それに気を取られて先輩が居なくなるまで気付かなかった。
 僕の、佐和先輩の事が好きだという気持ちに。

 先輩として、人として、そして…男として。そう気付いた時には既に先輩は遥か彼方の遠い存在。いや、元から遠かったけど…それよりももっと、もっとだ。

 僕は自身の気持ちに気付いたその日から猛勉強を開始した。先輩を追いかける事に決めた僕に嘆いてる暇はない。そうして何もかもを投げ打って勉強に励んだ高校生活で、遂に運命の日を迎えた。


「1801、1801……あった! あった! あったぁあ!!」

 友人にも、両親にも、先生にも止められた有名大学に、そう、あの佐和要先輩が居る有名大学に、僕は見事合格して見せたのである。


 ◇


 大学に入学して、直ぐに佐和先輩の名前を耳にした。そりぁそうだろう、滅多にあんなリアルできすぎ君は見られない。
 そしてやっぱり先輩は大学でもテニスを続けている様で、僕は脇目も振らずテニスサークルに入った。

 漸く先輩に会える!
 もう一度高校の時の様な関係性を築き上げ、いつか僕のこの気持ちを伝えるんだ。例え結果玉砕しても、それまでに費やす努力は惜しむべからずっ!! と、思っていたのだけど…待ちに待った新歓にて悲劇は起こる。

「あっ、あの! 佐和先輩お久しぶりですっ!!」

 予想通り佐和先輩の周りには人集りが出来ていた。でも、僕には同じ高校で、同じ部活で共に過ごして来たと言う繋がりがあるのだ。物怖じせず話しかけるべきだと、そう思った。

「お、覚えてますか? 僕、高校のテニス部でいつも…」
「近寄んな」
「………へ、」
「気安く近寄んじゃねぇよ、この不細工野郎」



 ――な、何事っ!?



 その後はもう…悲惨としか言い様がなかった。男女問わず、学年問わずで僕を蔑みと哀れみを含んだ目で見てくるテニスサークルの輩。
 微かに『自分の顔見てから話し掛けろっつーの』何て嘲笑う声まで聞こえてくる始末で、結局僕は途中退席。

「グスッ…か、悲しくなんて無いんだからね!!」

 帰り道、人知れず密かに涙したのだった。



 ◇
 


「ぃよーーー!! 久しぶりじゃんナルナル〜!! 本当に居るとはね!」

 学食に向かう途中で背中にタックルを受け蹌踉めく…いや、吹っ飛んだ。

「ぃ、いてて…」
「相変わらず貧弱な〜」

 痛む腰を摩りながら振り向けば、そこには懐かしい人が立っていた。

「日置先輩?」
「お! 俺のこともちゃんと覚えてくれてた? 良かった良かった〜」

 腰に手を当てにっこりと笑うその人は、高校時代にテニス部で部長を務めていた日置修二(ひおきしゅうじ)先輩、その人だった。
 彼もまた爽やかなイケメンだったことから、高校では多大なる人気を誇っていた。そしてまた、僕に対して優しくしてくれる人の一人でもあった。

「ひ、日置先輩もこの大学に?」
「あれ〜? お前知らんかったの? なんだよ、てっきりまた俺に扱かれたくて来たのかと思ったのにさ」

 そう言ってイタズラっぽい笑みを見せた懐かしい日置先輩を見て…僕は遂に泣き付いた。

「ひおぎぜんばぁああいいっ!!」
「おわっ、どうしたんだよ」
「びぇぇえええ〜」









「なぁ〜るほどね」
「ず、ずびばぜん……グスッ」

 僕は、大学の裏側にある余り日当たりの良くないテラスにて、日置先輩に先日起きた新歓での悲劇を話したのだった。

「すまんかったなぁ〜。俺あの日どうしても外せない用事があってさ、行けんかったのよ」
「ずびっ、いえ…先輩は何も悪くないれす…ぼ、僕が立場も弁えず佐和ぜんばいに話しかけたのが、悪…悪かっ…ひっ、うえぇ」
「よーしよしよし。泣くなよ、な? ほれ」

 ズビビーー!!
 先輩が差し出してくれたティッシュで豪快に鼻をかんだ。

「それにしても、要を追いかけてここへ来るなんて驚いたな。俺はてっきり、ナルナルはアイツの事が苦手なんだと思ってたから…」
「なっ!? そ、そんな訳無いですよ! 僕はずっと佐和先輩に憧れてましたっ」
「へぇ〜?」

 日置先輩は心底驚いた顔を見せた。

「何だよ、それってもしかして脈アリだったわけ? うわぁ…マジかよ。ねぇナルナル、それって本当に単なる憧れ? もしかしてさ、あ…いや、やっぱ良いや。これは俺が聞くことじゃないしな。しかし要にも困ったもんだなぁ。アイツまだあんなに…」

 隣で日置先輩が何かブツブツ言っているが、僕には何のことだかイマイチ分からない。

「まぁ良いや。ナルナル、取り敢えず今日はサークルに顔出してよ」
「ぇえ!? い"、嫌ですっ!」

 あんな針の筵みたいな空気の中に晒されに行くだなんて、何の修行だろうか。絶対に行きたくない!

「大丈夫だって、俺がずっと一緒に居てあげるから」
「ほ、本当ですか…?」
「もっちろん!」

 多分、参加出来るの今回限りだと思うし。何て言う日置先輩の呟きは、やっぱり訳が分からなった。


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