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「優」

 放課後、僕を迎えに来た斎藤くん。でも心なしか表情が硬いと思うのは、気のせいかな。
 もとから言葉数は少ない彼だけど、いつも以上に無言が多い帰り道。今日は、いつも降りる駅を二つ通り過ぎたところで下車する。

「僕らの家、結構近かったんだね」
「まぁな」
「ここから後、どのくらい?」
「十分くらい。コンビニ寄るぞ」
「あ、うん」

 駅を降りて直ぐのコンビニで、飲み物を調達する。斎藤くんは水と紅茶(ストレート)のペットボトルを買っていた。彼の好みを頭の中に叩き込む。
 コンビニを出て暫く歩くと、シンプルな外観のマンションが現れた。そのマンションのエントランスに斎藤くんが吸い込まれていったので、僕も慌てて後を追う。
 見る感じ、あまりファミリー向けではなさそうな大きさのマンション。あれ? と思っていると、一つの部屋の前で止まって鍵を開ける斎藤くん。

「入れば?」

 ドアを開けて促されたので、お邪魔しますと言って中に入った。浮上していた疑惑に、部屋へ入ってすぐ確信を持った。
 見た感じ、1LDKといったところだろうか。一人で住むには十分な広さだけど、家族で住むには明らかに広さが足りていない。

「斎藤くん、もしかして一人暮らし…なの?」

 コンビニで買った飲み物を小さめの冷蔵庫にしまっている彼は、チラリとこちらをみるとすぐに視線を逸らした。
 そうか。斎藤くん、一人暮らしだったんだ。
 何故一人暮らしなのか、確かにそこも気になるんだけど…それよりも今僕は、二人きりという状況に異様に緊張していた。

 小ぶりのグラスに、さっき買ってきた紅茶を注いで出してくれる。ありがとうと言ってグラスを受け取ると、緊張を隠すために紅茶を一気に煽った。キンと冷えたアイスティーは、火照った体に丁度いい。
 空っぽになったグラスをローテーブルに置きながらホッと息をつくと、僕の反対側に腰を下ろした斎藤くんが笑いを零したのが分かった。

「お前、緊張しすぎ」
「だって…」

 だって、好きな人とふたりきりなんだよ?

「まぁ、俺もだけど」
「え?」
「なぁ、お前のクラスも英語の課題出された?」
「あ、出た!そうだ、あれやらないと」
「今からやるか」
「斎藤くん、英語得意?」
「まぁそこそこ」
「わぁ、じゃあ教えて貰おう」

 好きな人と同じ空間で、ふたりきりで、一緒に課題をやる。苦手な英語の課題を出した先生の事だって、今なら神様に感じてしまう。隠しきれない嬉しさが零れ落ちる。

 幸せだと思った。

 斎藤くんは何故だかちょっと驚いた顔をした。だけど直ぐにムスッとした顔になって、黙って課題をやり始めてしまった。何かやらかしちゃったかな…。
 でも、やっぱり一緒にいられるこの時間が嬉しくて。僕はニコニコしっぱなしだった。
 
 気付けばあっという間に夕飯時。来たばかりの時はあんなに緊張していたのに、いつの間にか居心地良く感じて時間が経つのも忘れてしまっていた。さすがにいきなり長居しすぎるのも憚れるので、今日は大人しく帰ることにする。

 駅まで見送ってくれた彼の姿に、さよならするのが寂しい。

 僕の姿が見えなくなるまで、斎藤くんはずっと改札口に居てくれた。


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