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「#エロ」のBL小説を読む
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【SIDE:斎藤】


 ヤバイ
 ヤバイヤバイヤバイ

 何だこれ
 何だこれ
 何だこれ!!!

 離れるのが切ないとか何処の乙女だよっ! 女々しいのは顔だけにしとけって俺っ!!
 駅の改札口まで見送った後、俺は一人パニックに陥った。

 先日自ら“優”こと宮田優に頼み込む形で始まったお試し期間。そんなものを自分から望むこと自体有り得ない事なのに、今日は自宅へ招くというとんでもない行動に出てしまった。
 よく考えた上での行動ではない。衝動的なものだった。

 この数日間、限られた時間を優と共に過ごしてみて分かったこと。それはあいつと過す時間がとても穏やかで心地良いという事だった。
 俺のことを知りたいと言うのに、無理に踏み込むことはしてこない。適度な距離を取りつつも、俺に対しての好意は隠そうとしていない優の言動が擽ったい。
 そんな相手を、自分の絶対的テリトリーに入れてみたらどう感じるか。それが妙に気になり始めて、気付けば誘ってしまっていたのだ。

 優の返事を聞いてからやっと我にかえったが後の祭り。口下手な自分が、逃げ場の無い場所で二人きりになろうとするなど自爆ものだ。
 恥ずかしさから顔に血が上るのを隠したくて、出来る限り平常心を装ったままその場から立ち去った。もうやってしまった事は仕方が無い。取り消すなんて格好悪いことをするくらいなら、と実行することを選択する。

 しかし、矢張りその選択は間違いだったと後悔している。

 優が緊張していることは、あいつの纏う空気でひしひしと伝わってきていた。もちろん、自分も例外なく緊張していたのだが。
 それにしたって、俺が一人暮らしだと分かってからの優の緊張具合は半端じゃなく、そんなあいつの余裕の無さに思わず笑が漏れた。

 こんな、俺より遙かにデカくて何処からどうみても平凡な男を。俺は、可愛いと思ってしまったんだ。

 それを誤魔化す様に突っ込めば、あいつは「だって」と拗ねた顔をする。何となく言いたいことが分かってしまい、余計にこちらが照れる羽目になった。
 そんな空気に呑まれまいと抗って、上手く話を逸らしたと思ったのに。思ったのに…


「斎藤くん、英語得意?」
「まぁそこそこ」
「わぁ、じゃあ教えて貰おう」

 そう言って、あいつが余りに嬉しそうに笑うから。余りに幸せそうに笑うから。俺は…

「ぁぁああ! 何考えてんだよ俺!」

 柔らかく笑うあの瞳に、唇に、触れたいと思うなんて。寂しそうに電車に乗り込むあいつを、抱きしめてやりたいと思うなんて…。
 普段ダラダラと歩くだけの、家までの道のりを全力疾走する。
 辿り着いた自分の部屋の空気を思い切り吸い込めば、まだ、優の香りがする気がした。



【SIDE:塚原】

 コウちゃん達のお試し期間が始まって、そろそろ二週間とちょっと経つ。お試し期間なんてもの自体驚きだけど、何より、このちょっとの期間でコウちゃんはカナリ変わった。
 前までのあの子は、何も信じてないって目で全てを見てた。何に対しても冷めていて、こっちが寂しくなっちゃうくらい。でも、今のコウちゃんと来たら…
 
「ねぇ、なに携帯見てニヤニヤしてんの」
「っ! はぁ!? してねぇし!」
「いや、してたからね。完全に」
「してねぇよ!」
「どうせ、宮ちゃんからのメール見てたんでしょ」
「………」
「………」
「なぁなぁコウ〜、俺ともメールしてくれよぉ!」
「「煩い黙れ」」
 
 コウちゃんが宮ちゃんと過ごさない休日を、こんな風にボクらで過す。そんな前までの過ごし方とは逆転した生活に、少し寂しさも感じつつ、嬉しさが勝る。
 
「明日、宮ちゃんとどこ行くの?」
「映画」
「へぇ、何観るの?」
「……」
 
 無言で見せられた前売りチケット。

「「ぶッッッ!!」」

 中田とボクの気が合うことは、滅多に無いんだけどね…でも、こればっかりは仕方ないよ、ゴメンねコウちゃん。だって、だってこれ。

「「『子パンダうーちゃんのもふもふ日和』!!!」」
 
 完全に動物のドキュメンタリーだよ!? それを! あの冷めたコウちゃんが! 映画館まで観に行っちゃうの!? まぢ笑えるんですけどぉww!!
 
 って声に出てたみたい。おもくそ殴られた。イタタタ…
 
「仕方ねぇだろ!? あいつがコレ観たいっつーんだから! 動物が好きなんだよ! あのアホは!!」
 
 そのアホに付き合って観に行っちゃうのはどこの誰ですか?
 真っ赤な顔して、チケット仕舞ってるコウちゃん。何か大切そうに扱ってるし。全く、なぁ〜にがお試し期間だよ。
 バッカだなぁ、もう完璧に落ちてるじゃないの。
 
 コウちゃんは、まだ涙流して笑ってた中田を蹴り飛ばしてる。そんな彼等は放っておいて、ボクは夜空を見上げる。
 明日が晴れだと良いなって、漆黒の星空を見て思った。



【SIDE:宮田】


「あ、これ観たいな…」

 斎藤くんの家に向かう途中で立ち寄ったコンビニで、ぽつりと呟いた僕の一言。
 レジの後ろには沢山の前売り広告が張り出されていて、その中の一つにパンダのドキュメンタリー映画も含まれていた。
 恥ずかしながら、僕はこの歳で動物番組が大好き。その中でもドキュメンタリーは絶対逃せないと言う程好きなジャンルだった。
 動物好きは恥ずかしいことではないと思う。だけど、やっぱり男子高校生として中々曝け出せない一面でもあって、家族や幼馴染の真弓以外にはひた隠しにしていたのだ。
 それがついつい油断して思わず口から出てしまい、サァっと顔から血の気が引いた。

「あ? どれだよ」
「な、何でもない!気にしな「どれだって聞いてる」」

 こ、怖い…

「パ…」
「ぱ?」
「パンダの…」
「………」
「……も、もう行こう?」
「お前、ああいうの好きなのか」

 バレた…。
 恥ずかし過ぎて顔を真っ赤にして俯くと、斎藤くんが僕の顔を覗き込んで来た。

 やめてやめて見ないでっ! 羞恥プレイだよこれ!! 殆んど半泣き状態になっていると、斎藤くんは携帯でカレンダーを確認して直ぐ店員さんに「その映画の前売り、二枚下さい」と言った。

 えっ!!?
 サッサと支払いを済ませて戻ってきた斎藤くんをビックリして見ていると、

「映画、今週の金曜日からだろ。日曜日に観にいくぞ」

 とサラリと言ってのけて、コンビニから出て行ってしまう。レジの店員さん(若い女性二人)は、何やら異様にキャーキャーと騒いでいて、コンビニから出て行こうとする僕に向かって「二人で楽しんで来てねー!!」と綺麗に声を揃えて叫んだ。


 二度とこのコンビニ、使えない…


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