×― 西と東U ―
「ビールは入れたしぃ〜、後はツマミ? 東、ツマミなんにするぅ?」
「オイまじかよ! この店どーなってんだよ!」
カゴにビールを入れ終えた西が振り向くと、そこでは何故か東が激怒していた。
「なに、どうしたの」
「無ぇんだよッ!!」
「………ああ、チーかまね」
NOoooOO!!!!!!!!!!と頭を抱えている東は、残念だがまだシラフだ。
そんな残念な東の前には、ビニールに入れられた一袋六本入りのチーズかまぼこが。無い無いと騒いでいるが、チーかまは目の前に沢山ぶら下がっている。
何がそんなに悲しいのか普通では分からない。そんな東の状況も、西にはすんなりと理解することが出来た。
「ピリ辛が無いね」
「どうすんだよ!」
「普通のでいーじゃん」
「良かねーよ! 俺はあのピリッと感がだな」
「ハイハイ行くよぉ〜」
西はまだウダウダと何か言っている東の首を掴み、適当なツマミをカゴに放り込むとさっさと支払いを済ませた。
「はぁ〜、凄いねぇ…満開だよぉ」
辿り着いた公園で西が見上げたのは、空いっぱいに花弁を開いた桜の花だった。
「もっと屋台の方に行く?」
「冗談。あんなとこ行ったらゆっくり桜なんか見れねぇよ」
屋台が広がる方と比べれば少し薄暗いが、花をツマミに酒を飲むには静かなこの公園は持って来いだ。東は担いで来たビニールシートを下ろし、西に片端を持たせて広げようとした。
「え、ちょっと……西くん!?」
「ん?」
呼ばれて振り向いた西の目線の先には、スタイルの良い美女が二人立っていた。その内の片方が驚きの目で西を見ている。
(ああ、西の新しい彼女か)
東は直感で察知すると、直ぐにその美女二人から興味を失う。
「あれ、ユナも来てたんだぁ」
のんびりしたそんな西の一言に、ユナの顔は怒りの表情に歪んだ。
「来てたんだぁ、じゃ無いでしょ!? 私昨日誘ったよね!? 明日お花見行こうって!」
「うん、誘われたね」
「断ったよね!? 行けないって!! 何でここに居るのよ!!」
人の少ない静かな公園にユナの怒声が響いた。ユナの隣で友人が息を呑む。だが、
「何でって、だから東と約束してたからでしょ。用が有るって言ったじゃない」
「断った用事って東くんとの約束なの!?」
「そうだよ? 見たらわかるでしょう」
シレッと答えた西に、ユナの怒りが頂点に達した。
「毎回毎回…誘えば断って、その理由が東くんっ!! 西くんは東くんの方が好きなんじゃないのっ!?」
多分、ユナは期待していたのだ。馬鹿なこと言うなよ、東は友達だ。ユナを愛してるよ…なんて甘い言葉を。
だが、西の口からは想定外の言葉が飛び出した。いや、ある意味想定内の言葉だった。
「そりゃ、選ぶなら東でしょ」
バッチィーーーンッッ!!
花火よりも激しい破裂音がド派手に響いた。
真っ赤な手形を頬に付けた西が振り返る。
そこには、悠々と一人ビールの缶を傾ける東が居た。その顔は非常に楽しそうだ。
「ねぇ、何でもうビール飲んでんのさ」
「あ? そりゃ、ピリッと感が堪らねぇツマミが見つかったからよぉ」
ケケケっと笑う東に向けて、西が大きく息を吸い込んだ。
「俺はお前のツマミじゃ無いんだけど!?」
数年に一度有るか無いかの西の怒声が、夜空に広がる美しい桜の花を揺らした。
END
番外編C
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