竜二編***
「慎也」
「ぁっ、塁…」
今日は悠也と若菜が買い出しで出掛けるため、慎也は久しぶりに塁の家へと泊りに来ていた。
事件が起きたあの日から何処か遠慮気味だった塁が、今日は積極的に攻めてくる。慎也は風呂から上がって早々にベッドへと押し倒され、明らかに欲情した目で見つめられながら欲を纏った手に身体を暴かれていた。
余裕の無い手つきに妙な安堵感を抱きながら、求められるがままに塁へ自身を差し出す。
「んっ、んふっ…んん、ン」
しかし深いキスを重ねる内に、早急さの現れていた手つきに余裕が見え隠れし始めた。何処か手慣れたそれに気付いた慎也は、気付いた時には思い切りその手を振り払っていた。
「ッ、慎也?」
「塁……お前、僕とのセックスが初めてじゃ…無いだろ」
「え?」
肯定を含んだ様な驚いた表情に、異常なほど怒りが込み上げた。
「僕を好きだと言いながら、お前は今まで誰を抱いてたんだ!!」
「慎也!?」
「触るなっ! 塁の嘘つき!!」
伸ばされた手を再び叩き落すと、ベッドの下に落ちていたシャツを拾い上げ素早く身に付ける。
「慎也!」
「帰る」
「待って、慎也っ!!」
縋る様に追いかけてくる塁に安堵しながらも、苛つく胸中は抑えられない。
「お前の事なんてもう、信用出来無い!!」
慎也の言葉にショックを受け、目を見開いたまま立ちすくむ塁の目の前で扉は固く閉ざされた。
◇
「そこで待ってろ、直ぐ行く」
通話を切ると直ぐにバイクのキーを手に取る。
「え、ちょっと竜二」
「何だよどっか行くの!?」
まさに今から飲み明かそうとテーブルに散らかされたつまみや酒。
突然立ち上がった竜二に驚いた、高校からの連れで有る榎本と越野は慌てて竜二を呼び止めた。
「今日はそれ持ってもう帰れ」
それだけ言って部屋から出て行ってしまった男に呆然とし、互いに顔を見合わせて呟いた。
「「“慎也”だ」」
◇
「好きに寛ぎな」
竜二はバイクのキーをテーブルに放ると、慎也の飲み物を用意する為に冷蔵庫を開けた。
自分では絶対に飲まない様なジュースのパックが二、三種類入っている。それを買った覚えが竜二には無い。
「榎本達か」
悠也や若菜達程では無いが、榎本と越野も中々に長い付き合いだ。竜二の特別が何か、よく知っている。
「ミルクティーとココア、オレンジジュース。どれ飲む?」
冷蔵庫を開けたまま慎也を振り向くと、「オレンジジュース…」と直ぐに答えたがその表情は迎えに行った時よりも暗い。
酒以外は滅多と注がれることの無いグラスに、良く冷えたジュースを入れてやり慎也の前に置いてやる。グラスを握り締めて俯く慎也の隣の椅子を引き、竜二は慎也の顔を覗き込む様にして座った。
「で、どうした? 塁と喧嘩でもしたのか?」
聞けば素直に頷く慎也。
「お前らが喧嘩なんて珍しいな」
「うん…急にごめんね、竜二さん」
構わねえよ、と言って髪をくしゃりと混ぜてやるが、慎也の顔は益々曇って行く。これは自分にに対しても何か持ってるな、と竜二は感づくが、今は敢えて触れずにおくことにした。
「喧嘩の内容、聞かせてくれるか?」
優しく問えば、慎也は少し躊躇った後にゆっくりと頷いた。
慎也の前で、竜二は腹を抱えて笑っていた。
「慎也、そりゃ塁が可哀想だ」
「どうして!?」
「彼奴も男だってことだよ」
竜二の言う意味がイマイチ分からない慎也は、眉間にシワを増やして首を傾げた。
「塁も抱きたくて抱いてた訳じゃないさ」
「何だよそれっ、だったら!」
「必要だったんだよ。塁にとって今までの相手は、単なる練習台だ。言い方は悪いがな」
「練習台…?」
「そ、全てはお前に格好付けるため」
竜二はにんまりと笑ってみせた。
「好きな奴抱くのに、経験も無しで余裕無しじゃ格好付かないだろ?」
「そんなの…」
「そうだな、勝手な話だ」
好きな相手に格好付けたい気持ちは分かる。でも、それは慎也には許されていない。慎也が彼ら以外の誰かに触れることは、絶対に許されないことなのだ。
「分かってんだ、お前にだけ理不尽を押し付けてるってことは。けど、どうしようもない」
竜二は慎也の頬を撫で、顎を掴み持ち上げる。
「塁の想いなんて可愛いもんだ。俺の場合は、もっと違う」
獰猛な獣が慎也を見ている。まるで漆黒の闇の様な瞳が、慎也だけを映していた。
「あっ!」
仰け反らされた喉に、獣が牙を立てる。噛んでは嘗めて宥め、そしてまた噛む。お前は俺の獲物なのだと、逃げられはしないのだと刷り込まれている様だった。
「みんな…嘘つきだ。僕だけだって言いながら、僕の知らない所で、知らない誰かを抱いてる」
ひっ、と情けない音が喉から漏れた。知らず、慎也の瞳から涙が零れる。
「お前に初めてを捧げられる様な、そんな綺麗な気持ちだったなら…俺はお前を悲しませなくて済んだのにな」
意思の強い瞳がぐらりと揺れた。
「死ぬ程愛してんだ、慎也。お前がまだこんな小さな赤ん坊の頃から、気が狂いそうな程に」
そっと頬に触れた指は、わすがに震えていた。
「俺の想いは狂暴過ぎて、小さなお前を壊してしまうから…だから俺は…」
「ごめんなさいっ」
慎也は目の前で震える獣を抱きしめた。
「我が儘言ってごめんなさいっ。ちゃんと分かってる。みんなが僕だけを見てくれてること、ちゃんと分かってるんだよ…」
本当は、分かっている。
若菜も、悠也も、そして竜二も。慎也が初めての相手では無いことには気付いていたし、そんなはずが無いとも思っていた。
彼らはそれこそ慎也たちよりもずっと大人の男だ。最近までそうした性的行為を求めて来なかった事も、慎也を思っての事だと頭では理解している。
同じ男なのだから、どうしたって欲求は溜まるものだと言うことも分かっている。しかし塁だけは、と思っていたのだ。
幼い頃から幼馴染として隣に並び、大学こそ別になったが高校まではずっと一緒だった。
塁からの好意には気付いていたし、彼女が居たような様子は無かったから安心していた。けれどあの様子では、抱いた数は一人や二人では無いのだろう。
塁だって男なのだ、悠也達と何も変わらない。だが、あの時はそれがどうしても許せなかった。
まだ自分が知らぬ塁の体温を、既に誰かが知っていることが許せなかった。それはまた、今目の前に居る竜二に対しても同じ気持ちだった。この男の体温を知っている誰かが…憎い。
両手で竜二の頬を包んで、コツンと額をくっ付ける。
「ねぇ、竜二さん。もう僕は大きいし、二十歳過ぎたもん、大人でしょ?」
「あぁ、そうだな」
「壊れたりしないから、だから…もう僕以外を抱かないで?」
たくさん、たくさん抱いて良いから。何時だって、何処でだって、誰の前でだって抱かれてみせるから…。
「分かってたって、どうしようもないんだ…今だって竜二さんの過去に、僕、嫉妬でくるっ、んむッ!」
狂いそう、と言い切れぬままに唇を奪われた。
「んっ、ンふんッ、はっ、んっ! んん!」
激しい口付けに頭がクラクラする。口端からは飲み下せない唾液が溢れ、慎也の喉元を濡らした。
勢いを失わないまま抱き上げられ、口付けにを受けながらテーブルの上に乗せられる。その際にグラスが倒れ、オレンジジュースがテーブルに広がった。
「んはっ、」
「はっ、はっ、はっ、」
漸く離れた互いの唇からは荒々しい呼吸が漏れていた。再び喰い付こうとする獣を制して、慎也は問う。
「どうしてジュースがあったの? 誰のための物だったの? 僕以外をこの部屋に入れてるの?」
「はっ、はっ、慎也っ」
「許さないから。この先僕以外を見たら、絶対許さないからっ」
「くそっ、死ぬ程可愛いっ」
今度こそ竜二は喰い付くさんとばかりに慎也の唇に噛みついた。
◇
「あっ…やぁっ、痛ぁッあっ、あぁ」
噛み付いては嘗めるのは首元だけでは収まらず、捲りあげられ露わになった素肌全てに余すことなく施していく。
片手で紅く色付く突起を押し潰し、もう片方を口に含み舌で転がす。ちゅっ、ちゅ、と吸っていたかと思うとガリッと噛まれ、慎也の腰は飛び跳ねた。
「もっ、あぁっ! りゅ…さっ、ぁんっ」
気持ち良いのに痛くて、痛いのに気持ち良い。そんな絶妙な波に思考は簡単に攫われて、慎也はもう何が何だか分からなくなっていた。
「はっ、慎也…ここ、しっかり反応してる」
「んぁあっ! やぁっ、もっ無理ぃ」
反応している中心をするりと撫でて、もう一度紅く膨らんだ粒を噛んでやれば、慎也の中心は簡単に欲を吐き出した。
下着どころかチャコールグレーのズボンにまでジワリとシミが広がり、慎也は羞恥に顔を紅く染めた。竜二はそんな慎也を見つつ、無言でズボンのジッパーを口で下ろす。
「ぁっ…あぁ…」
竜二の息がかかるだけで敏感な場所は反応を示し、達したばかりのそこは既に硬く熱を持っていた。堪らず慎也は竜二の髪を掴む。
思い切り下着をズラせば、糸を引きながら色の薄い陰茎がぷるりと飛び出した。
「えっろ…」
トロトロと透明の蜜を流す物は確かに大人の男のソレであるのに、余りに綺麗な桃色だったが故に、幼子に悪戯している様な妙な背徳感を生まれさせた。
「堪んねぇ…」
少しだけ収まっていたはずの獰猛な本性が、竜二の瞳の中に再燃する。
「んやぁああぁあっ!!」
竜二は一息に口の中へ含む。じゅっ、じゅぷ、ずずっ、じゅじゅっ、と耳を塞ぎたくなる様な卑猥な音を響かせ口淫され、慎也はオレンジジュースの零れたテーブルの上で濡れるのも厭わず身悶えた。
慎也自身から溢れた蜜と竜二の唾液は下へ下へと重力に従順に降りて、やがて隠れた蕾に辿り着く。
愛された事を忘れない其処は自ら蜜を吸い取るかの様に呼吸を始め、竜二を更に誘い込んだ。
――ぐぷッ
「ンふっ!??」
与えられた蕾への刺激は、二本の指によるものだった。
いきなり二本とは強行だったが、信じられない事に慎也の蕾は嬉々として竜二の男らしい指を呑み込んでいた。
「ぁはぁっ、ァあっ、あッ」
両膝が胸につくまで折られれば、慎也自身にも竜二の指を咥えるそこが容易く見えた。指は二本から三本へ、遂には四本まで呑み込んだ。
「んっ、ひんやの…んまぃ」
昂ぶるそれを咥えたまま話す竜二。指は相変わらず無情にもバラバラに中で遊んでおり、慎也は耐えきれず腰を揺らした。
「あうっ、んっ、ぁ…ほしっ、も…ほしっいぃッ、」
欲しくて欲しくて。
絶対的なあの熱が欲しくて、指では足りなくて…慎也の瞳からは涙が溢れ出て止まらない。涙を流して強請る慎也に竜二は舌舐めずりして、腹に着くほど反り上がった自身を取り出した。
「ぇ…えっ、そんなっ」
慎也が目にしたソレは、余りに凶悪で…
「ゃ…あ、おっき…」
――ダンッ!!
「ひっ」
思わず呟いたその時、慎也の顔の直ぐ横に竜二の拳が振り落とされた。
「比べるな、慎也…それこそ俺が」
――嫉妬で狂いそうになるっ!
「ぅああぁああアぁあっ!!!」
「ひぁあっ、あっあンンッあんっ、あっ、んぐ、ひっ、いっっ」
凶器としか言い様の無いそれは慎也の中を限界まで押し広げ、激しく激しく出入りしていた。
どろどろに溶かされた中は一気に差し込まれた杭を難なく呑み込み、離すまいと竜二に喰いついている。慎也の中心は挿れられた衝撃だけで所謂ところてんをしたまま、それからはほぼイキっぱなしだ。
ぐっぷぐっぷ、ぢゅっぷと厭らしい音が立っているのに、それは激しい挿入によってぶつかり合う互いの身体の音で掻き消され、慎也の耳には届いていない。
「あっ、竜二…さ、せな…か、いたっあ、あっ」
余りの激しさについに慎也の背中が根を上げた。
騒音とも呼べそうな音の中で器用に慎也の言葉を聞き取った竜二は、自身を突き刺し慎也を貫いたまま抱き上げる。
「ぅああっ!! あふっ、あうっ、ぁうッ」
深くなった上に歩いた時の上下運動で奥の奥まで届き、もはや失神寸前だ。
「んはぁっ」
「まだだ」
ベッドへ降ろされホッと息を吐いたのも束の間に、慎也をくるりとうつ伏せに寝かすと空かさず頭を押さえつけ、上から覆いかぶさり首元に喰いついた。
「ぃああっ!!」
かぶり付いたまま腰を振る様は正しく雌を服従させ交尾する獣そのもの。
噛み付くそこから香る甘酸っぱさは、オレンジジュースのものか慎也のものか分からないが竜二を更に煽り立てた。
うつ伏せになったことで慎也の中の“良い所”に竜二の凶器は尚あたり易くなり、慎也は悲鳴の様な喘ぎ声を永遠漏らした。
「ふっ、ふっ、くっ、」
「ぁはっ! あっ、あっ、いひゃっ、ンふっ、いひゃいぃっ、うぁン! ぁあ、竜二っさぁっあはぁあっ!!」
ゆさゆさと揺さぶられ、噛み付かれては嘗められる闇の中、慎也の目の前にチカチカと星空が広がった。
そうしてそのまま、慎也の意識は見事にブラックアウトした。
だが、それでも獣の動きは止まらない。
息の根を止めてしまう勢いで、反応の無くなってしまった身体を何時までも何時までも。
結合部分から大量の液体を溢れさせながら揺さぶっていた……。
◇
「何やってんだよ、俺はぁ…」
ぐちゃぐちゃに荒らされた寝具の上で、竜二は頭を抱えていた。
そんな竜二の目の前に横たわる慎也の身体は、爽やかな朝陽に照らされ凄まじい惨劇を露わにしていた。
首から下に隙間なく散らばる噛み跡と鬱血痕。スラリと伸びた足の付け根から、未だ白濁した厭らしい液体が溢れ出て太ももを濡らしていた。
「何が余裕だよ、アホか俺は…」
途中までは、確かに余裕を持っていたはずだったのだ。
それが、そう…慎也がまさかの嫉妬心を見せたことで、慎也を傷付けない為に他人に向けて発散して来た狂暴な想いが溢れ出てしまった。
それでもまだ…まだマシだと思う。発散して来た分、今回これで済んだのだ。もしも今まで純潔を保ち我慢して来ていたとしたら……間違いなく慎也を抱き殺していたに違いない。
自分自身の狂暴さにもう一度深く溜め息をつくと、竜二は意識の戻らない慎也を抱き上げ風呂場へ向かった。
「ん……竜二、さ?」
喘ぎ過ぎて枯れてしまった声もまた、痛々しい。
「大丈夫か?」
「ん、へ…き」
真っ白な光の中で、真っ白なシーツに包まれてふわりと笑う慎也は、正に天使だ。
「朝飯買ってくるから、ちょっと待ってな」
出て行こうとする竜二が振り返り、困ったように笑った。
「そんな顔するな、直ぐに戻るから」
ベッドサイドへ戻り、寂しそうな顔をする慎也の髪を撫でる。
「早く帰ってきてね」
「あぁ、良い子にしてな」
ちゅっ、と触れるだけの優しいキスをしてから、竜二は部屋を出た。
慎也は一人寝室で考えていた。
竜二が慎也に嫉妬を見せたことで気付いたことは、若菜や竜二、悠也、そして塁にとっての初めてが自分で無いのと同じように、慎也の初めては若菜以外居ないのだ。
はち切れそうな嫉妬の嵐を押し込めて、竜二たちは望んできたものを若菜に譲り自ら手放した。それは勿論、慎也の為にだ。
誰とも知らない者と関係を持ったことは悔しく思うが、慎也が思う以上に竜二たちは苦しんでいたのかもしれない。そう思うと、塁にとんでもなく可哀想なことをしてしまったと深く後悔した。
竜二のせいで全身が痛むが、それは彼自身の心の痛みの現れなのだと思うと痛みすら愛おしいと思った。
昨日から電源を落としていた携帯を手に取り、電源を入れる。途端に鳴り出した着信音。
画面に表示された名前に慎也はくすりと微笑んだ。
「もしもし? うん、ごめん。ごめんね? 今日会いにいくから、必ず行くから、待ってて」
――大好きだよ
END.
↓↓おまけ↓↓
塁との通話を切った後まもなくして、部屋の中にインターフォンが鳴り響いた。
「あれ、竜二さん鍵でも忘れたのかな?」
早く帰るとは言っていたが思った以上に早い帰宅に、慎也は側に落ちていたシャツを羽織り玄関の扉を開けに走った。
「おかえりなさい! 早かっ…た……え!?」
「「えっ!!!」」
慌てて開けた扉の前には、竜二と同じ歳の頃の男が二人立っている。そう認識した瞬間に、慎也は思い切りドアを閉めた。
「ごめんなさいっ!! 竜二さんかと思って!」
自分の格好を見て、慎也は火が出る程赤面した。
『いやいやいやっ!! こっちこそ、ホントごめん!!』
扉の向こうで非を詫びながら、男二人は互いに目を合わせ身悶えた。
「見たか!?」
「やべぇなオイっ!!」
「「かっ、彼シャツ!!!!」」
その後玄関前でもだもだ悶えている二人の男は竜二によって捕まり、ただ忘れ物を取りに来ただけだったと言うのに、慎也のエロい姿を見てしまったことで死ぬ思いをさせられたとか…。
END
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