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後編***


 目が覚めると外はもう明るく、既に店は開店している時間になっていた。
 横には眠りについた時のまま、椅子に座った塁がベッドに伏せている。ずっと側に居てくれたのだろう、そっと頭を撫でてやると眠っていたとはずの塁に腕を掴まれた。

「っ! 塁、起きてたのか」

 ジッと見つめてくる塁の瞳は悲しみを帯びていた。

「ごめんな、心配させちゃって」

 昨日は色んなことにいっぱいいっぱいだったから、満足に塁を安心させてやれなかった。

「慎也」

 僕の胸元に顔を埋めて抱きつく。よしよしと子供をあやす様に頭を撫でてやると、塁は更にはスリスリとすり寄って来る。その仕草は堪らなく可愛く、愛しいと思わせる。

 ――コンコン

 そうして二人でふにゃふにゃとくっついていると、入り口にもたれ掛かった若菜さんが扉を叩く。

「ちょっといーい?」
「あ、若菜さん」
「………」
「塁ぃ〜そんな顔しなぁい。あのね、やりたい事が有るから、今から慎ちゃんは俺とお引っ越しね? 塁は下で悠から話聞いて従って」

 塁は不機嫌そうな顔を隠しはしないものの、若菜さんの言うことに黙って頷いた。
 そしてその翌日には。
 僕の知らない間に事件はサラリと解決していた。


 ◇


 真夜中、カフェの中で動く怪しげな人影。それは何かを必死で探す素振りを見せていた。

「何をお探しかな?」

 突如かけられた声に、飛び上がる程ビックリした影。パッと付けられた光の元に晒されたその姿は。

「もしかして、これかなぁ? ねぇ、三木君」
「ッ、」

 そう、小動物の様にか弱い姿を纏った三木の姿だった。

「てっ、店長!」
「何で、って顔してるね」
「そりゃあお前を待ってたんだ、皆居るぜ」
「!?」

 新たな声に驚いて周りを見回す三木。その目には竜二、アオ、そして塁の姿が映る。

「る、塁せんぱっ…ヒッ!」

 思わず助けを求めようとしたものの、塁の自分を見る目が狂気を孕んでいることに気付き身体が震えだす。
 犯人を誘き出す仕掛けは至って簡単だった。

「最近大分客足が増えて来たろ、少し改装しようと思ってるんだ。明日朝イチで業者と打ち合わせが有るんだけどちょっと遠い所でさ、今日の閉店後から店離れるんだわ。悪いけど明日の鍵開け頼めるか?」

 そう言って首謀者として名前の上がった三木に鍵を渡す、そう、ただそれだけで仕掛けは完了した。
 改装するとなれば、必然的に物を動かしたり普段見ない様な所を掃除することになる。そうなると困るのは異常とも取れる数を仕掛けた盗聴器が発見されることだ。
 犯人は間違いなく盗聴器を回収しにくる。仕掛け人はただ、犯人がやって来るのを待つだけで良かった。

「絶対に来ると思ってたよ、首謀者さん? よくも俺たちの可愛い子を危険な目に晒してくれたね」

 ジリジリと近付く悠也に合わせて三木は後ずさる。

「なっ、何のことですか! 僕は! 僕は何も知らないっ!!」
「じゃあ、一体何しにここへ来たのかな?」
「えっ!? あっ、忘れ物っ、忘れ物をしたから! いッ!?」

 三木の顔面に小さな衝撃が与えられた。

「忘れ物…それでしょ?」

 顔に当たりからりと床に転がったものを見て、三木の血の気は全身から引いて行った。

「あぁ、因みに君の手下ね、簡単に口割ってくれたから」

 目の前にかざされたレコーダー。再生されてひび割れながら流れる聞き覚えのある声。

『頼むっ、助けてくれ!違うんだっ!俺はただ頼まれッヒギィ!!』
『うるせぇなぁ…汚ぇ声出すんじゃねぇよ』
『オラ、誰に頼まれた?あ?ハハッ!オラオラオラァ!』
『ギァアッ、アギャアァア!!みぃっ、ミギィ!ミギハルドォォオ』
『よし、良い子だ』
『ヒッ!? 嫌だっ、嫌だ嫌だ嫌だァァあァあーーッ』

 ――ブツリ

「どうする? まだ言い逃れ、する? 三木晴斗くん?」

 特別な訓練を受けたと言う、拷問にも耐えられる男と契約したはずだ。それが簡単に口を割らされ自分を売った。
 三木は失意の中、足から崩れ落ちた。

「君の地獄はまだまだこれからだから、ね」

 ニヤリと笑った悠也にの顔にも、ギラリとした狂気が浮かんだ。


 ◇


「若菜さん…皆は大丈夫?」

 自分の為を思って動いてくれていることは分かっているが、それで危険な目にはあって欲しくない。無茶したりはしてないだろうか…。

「大丈夫だよ、慎ちゃん」

 優しく微笑む若菜さんの顔に、少しだけホッとする。

「俺がここに居るんだから、向こうはそんなに滅茶苦茶にはならないよ、残念ながらね」
「もう、若菜さんは…」

 少し拗ねた様な若菜さんに、俺は呆れた顔をしつつ頬を撫でてやる。

「ぁっ、」
「慎ちゃん、俺にもご褒美ちょーだい?」
「ご、ご褒美? …ァッ!」

 撫でていた手を掴まれ、そのまま手に口付けを落とされる。

「捕まえた奴はやっちゃったけどさ、今日はカフェに残るの我慢したんだよ? 俺、エライでしょ?」

 その若菜さんの目に、普通の人なら悲鳴を上げて逃げたかもしれない。

「……うん、そうだね。よく我慢したね」

 そう言って掴まれていない方の手でもう一度頬を撫でてやれば。

「わっ!」

 その手も同じ様に若菜さんに捕まり押し倒される。

「我慢する代わりに皆が譲ってくれた。慎ちゃんの一番、俺にちょーだい」

 ジッと自分を見つめる欲情を隠さないその目。

「俺も怖い?」
「……ううん、怖くない」

 求められた行為は例の男が求めたものと同じなはずなのに、心の捉え方は全く違い怖くなかった。

「いいよ、若菜さんにあげる…ッ!!」

 言い切った途端に、唇は噛み付く様に奪われた。





「ぁっ、あっ、んァっ、は…ァッ」
「慎也ッ、慎也!」
「ンぁあっ、わ…なさんっ! ひぁっ、んっ、ンンッ!」

 激しく打ち込まれる若菜さんの熱に、始めに感じた痛みは何処かへ消えた。目に浮かぶ狂気や欲とは裏腹に、若菜さんの自分への扱いは何処までも甘い。

「はふっ、んっ、んっ、」
「ぬちゅ、ん、はぁ、ちゅっ、慎ちゃん、もっと口あけて?」

 言われるがままに口を開けばぬるりと忍び込んで来る若菜さんの舌。
 絡め取られ、甘噛みされ、一度に与えられる刺激が多過ぎてキャパオーバー。

「ぁうっ、んぬっ、はぁ、若菜しゃ、わか…なしゃんぅ」
「あはっ、可愛い〜」
「んっ、あっ、ァんん」

 カプカプと噛まれる首筋や鎖骨。身体全体が性感帯と化した自分自身に頭が追いつかず、涙が溢れた。

「慎ちゃん可愛い、可愛い〜、我慢して良かったぁ。殺しちゃわなくて良かったぁ」

 ニコニコと嬉しそうに笑いながら激しく自分を突き上げる若菜さんに、俺は愛おしさしか湧かなかった。

「ンぁんっ、あっ! あっ! わかなさっ、わかなさっあ、アァアァアッ」



 ◇



「あーぁあ、つまんね。簡単に伸びちまうし…」

 ボロボロの雑巾の様に横たわった三木を足でつつくと、興味を失った様に煙草に火を付ける竜二。

「良いなぁ若菜、今頃慎也のお初、食い散らかしてんだろぉなぁ〜」

 ふぅーと吐く煙には心底羨ましそうな感情が篭っている。

「仕方ないな、彼奴ここに居たら本気で殺しちまうから」

 はぁ、と此方も憂鬱そうに溜め息をつく悠也。チッ、と舌打ちをしたのは塁。唯一特に何も無さそうなのはアオだけだった。

「でも、あの男を捕らえたのは竜二さんと若菜さんですよね。あいつ、大丈夫だったんですか?」

 アオの質問に、そう言えばと皆が竜二を見た。先ほどの録音から、明らかに無事では無さそうだが…。

「殺しちゃいねぇけど…ま、死んだ方がマシだっかたもな、ありゃ」

 はっ、と笑う竜二に、それ以上何も聞けなくなった。

「あいつを殺れなかったからこそ今回がヤバイんだよ、相当フラストレーション溜まってたからな」

 続けた竜二の言葉に、今度こそ全員が溜め息をついた。
 

 若菜が居なくて良かった――――



 それから…



「おいっ! 若菜ぁ!」
「若菜さん!!」


 ―――ドンドンドン!!


「コラァ! 若菜出てこいー!」
「慎也を返せぇ! 慎也が死ぬぅう!」


 ―――ドンドンドンドンドンドン!


「あっ、ぁうっ、も、わきゃなしゃあっ、ァんっ、あっ、もう死んじゃぅう」
「はっ、はっ、くっ!」

 俺が解放されたのは、若菜さんの家に着いてから三日後の事だった……


「死んじゃうよぉおっ!!」







「なぁ、最近三木くん見なくないか?」
「あ、そう言えば…講義にも全然出てないかも」
「彼奴大学辞めたって噂だぜ?」
「ぇえー!? 何で!?」
「何か退学届、代理人が出しに来たとかって聞いたけど」
「何だよそれ、意味わかんねー」
「まぁそんな事よりさ、飯行こめしー!」
「だな! 腹減ったー!」


END


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