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『あっ、ダメっ、ダメだよヨシくんっ!』
『そんな事言って…気持ち良いんでしょ?』
『ひゃっ!?』
『ほら、ここはこんなに素直だ』
『あっ! ぁあっ!』

「わぁあぁああぁッ!! …ぁ…あ?」

 とんでもない状況に驚いて飛び起きれば、それは単なる夢で…

「な、なんちゅー夢だよオイ…オイ?」

 夢だと安心したその時気付いた嫌な感触。そろりと覗いた布団の中は。

「…………」

 まさに絶句。俺の大事な部分は、恥ずかしい液体で洪水になっていた。



 また今日もだよ…。
 こうして最低な夢を見て夢精すること早一週間。ヨシくんからキッチン使用禁止令が出されて直ぐ後くらいから始まったこれは、まさに悪夢としか言いようがなく。
 あの日からヨシくんとの間に出来た妙な気まずさは簡単に払拭出来ず、この異常な体調の相談など出来るわけも無いので悩みは増える一方だ。

 しかし、若いからって幾ら何でも一週間毎日夢精するっておかしくないか? 何処か身体がおかしいのでは…。そんな事が頭を過るともう怖くて怖くて、完全に夢の事など棚上げ状態だ。

「トシくん?」

 びっくーーー!! コソコソと風呂場でパンツを洗っていれば、起きて来たヨシくんが覗きに来た。

「こんな早くからどうしたの?」

 俺は慌ててパンツを隠す。

「えっ! いや…あのっ、ちょっと汗かいたから足洗ってた!」
「足?」
「あ! ヨシくん、今日は朝ご飯パンがいーな!」

 話を無理矢理そらせばヨシくんは不思議そうな顔をしたけど、でも次の瞬間にはふわりと笑って「分かったよ」とその場を離れた。

「はぁ〜…心臓に悪い」

 いくら親戚だと、男同士だと言ってもカピカピのパンツを見られる訳にはいかない。しかもその理由がヨシくんとのヤラシイ夢だなんて絶対知られちゃいけない。
 けれどこうも続く夢精に恐怖を感じ、どうしたら良いのか分からず俺は半泣き状態。

「トシくーん、ご飯出来るよー!」

 ヨシくんの呼び声に「はーい!」と元気良く返事をすると、俺は濡れたパンツを洗濯機に叩き込んだ。



 ◇


 ―――ブッ!!!

「ちょ、りっくん汚いっ!」

 ヨシくんには話せない悩みを、では誰に相談するかと言うとそりゃりっくんで。でも一応ヨシくんとのヤラシイ夢の事は伏せておいた。

「もぉ〜、シャツ濡れたじゃーん」
「……悪い」

 りっくんは俺に吹きかけたフルーツオレを拭う。

「ねぇ、ホント冗談じゃなく悩んでんだってぇ〜俺変な病気かなぁ!?」
「……単純に溜まってるだけじゃ無いのか」

 ちょっと顔を赤らめながら言うりっくんは可愛いかもしれない。その思考は何故かダダ漏れで、俺はりっくんに思い切り殴られる羽目になった。

「取り敢えず毎晩風呂で抜いてから寝てみろ」

 そのりっくんのアドバイスに、俺は藁にもすがる思いで首を縦に振った。






「もぉホントどうしよぉ…」

 りっくんのアドバイスを実行してから三日目。無情にも俺の夢精は続いている。
 毎朝パンツをコソコソと洗う惨めさったら無いし、そんな自分の姿に朝からリアルに泣けてくる。やっぱり変な病気かもしれない。

 ヨシくんは何も言ってこないけど、あの人だって大人の男なのだ。
 夜と朝に二度も出されるパンツの洗濯物があれば、幾ら洗うところを隠したってバレてるに違いない。
 抜いて寝てもダメなことをりっくんに話せないまま、俺は今日も憂鬱な気分で家へと足を運んでいた。


 異変は自宅の数十メートル手前で気付いた。

「誰だ?」

 玄関の前に立つスーツ姿の男。不審に思いながらも近づいて行けば分かる、男の容姿。
 歳はヨシくんと同じ位だろうか、背も高くカナリの男前だ。玄関の前に立たれては声をかけない訳にはいかない。

「あのぉ、ウチに何か用でしょうか?」

 疑う顔を隠さず声をかければ、その意志の強そうな目がすかさず俺を突き刺した。

「キミ、だれ?」

 ――は?

 それはこっちのセリフだっつーの。

「あんたこそ誰だよ」

 ムッとして言い返すと暫し俺を上から下まで舐めるように見てから、その男は「あぁ、」と手をポンと叩いた。

「もしかして、キミが“トシくん”?」

 間違っちゃいないが何故俺の名前を知っているのか。ますます怪しい。

「怪しまなくて良いよ。俺はねぇ、美樹の友人の柏木麻人。よろしくねぇ〜」

 見た目は真面目そうでかっちりしてるのに、話すと何かチャラい。

「美樹と全然連絡付かなくてさ、悪いけど中で待たせてくれない?」

 何だかかなりヨシくんと親しそうなので、俺は怪しく思いながらも家の中へ上げてしまった。





 話してみれば柏木さんは意外と話しやすく良い人で、時間はあっという間に過ぎていた。

「あ、柏木さん。ヨシくんからメールなんですけど、今日も23時過ぎるみたいです」
「本当? じゃあ今日はもう帰るよ」

 そう言って飲みかけのお茶を全部飲み干すと、柏木さんはさっさと帰り支度を始めた。

「あ、そうそうさっきも言ったけど、俺が来たことは内緒ね? 驚かせたいし」

 家に上げた時からしきりとそう言う柏木さん。

「分かりました」

 あまり深く受け取らず流す。

「じゃ、また来るね〜」

 ヒラリと手を振る後ろ姿を見送って扉を閉じた。


 ◇


 それから数日間、柏木さんは毎日現れた。けど未だにヨシくんと会えておらず、結果俺と友達みたいになってしまっている。
 仲良くなるにつれて、柏木さんは太腿を撫でてきたり、腰を撫でてきたりとだんだんスキンシップが増えてきたが、まぁそんな人なのだと特に気にしていない。
 寧ろそんなノリの人なので…。

「ね、ねぇ柏木さん。変な事聞いて良い…?」
「どうしたぁ?」
「か、柏木さんて高校生ン時さ…む、む…」
「む?」
「む……夢精って結構した?」

 意を決してした発言に、柏木さんもりっくんと同じ様に俺にお茶を吹きかけた。

「ねぇ、した!? 俺、俺さ…毎日してんのここ二週間以上! もう直ぐ一ヶ月経っちゃうよっ」
「え、そんな毎日!?」

 やっぱおかしいんだぁ! そう思ったら泣けて来て、俺は思わず柏木さんの目の前でポロポロ泣いた。

「変な病気だったらどうしよ〜」

 えーん! と柏木さんに泣きつけば、何故か柏木さんがゴクリと喉を鳴らす。

「……溜まってんの?」
「そんなはず無いんだよぉ! りっくんにも相談したらそう言われたからさぁ、今は毎晩風呂で抜いてから寝てんのよ俺ぇ」

友 達に相談したんだ、と言う柏木さんの呟きはスルーする。

「じゃあ…じゃあさ、単純に刺激が足りないだけじゃ無いか?」
「刺激…?」
「そう、自分のだけじゃ足りないとか」

 一瞬、柏木さんの目がギラリと光った気がした。

「え、わっ!」

 突然腰を柏木さん引き寄せられ、否応にも密着してしまう。互いの唇が触れてしまいそうな距離。

「俺が、抜いてあげようか?」

 無駄なエロボイスが耳を擽り、俺の腰に甘い痺れが走った時だった。

「僕が居ない間に…なぁにしてるのかなぁ?」

 ズゴゴゴゴ、と言う正に地響きの様な音が聞こえた。地響きの元を辿ればそこには見たことも無いほど恐ろしい形相をしたヨシくんが。

「美樹!」

 貰ったメールには今日も遅くなるとあった。帰って来るにはまだ三時間程あったはずだ。

「柏木。お前…こんなとこで何してんの?」
「えっ、いやその…」

 ははは、と苦笑している柏木さんが哀れで、俺は思わずフォローする。

「ヨシくんヨシくん! 柏木さん、ここ数日ずっとヨシくんの帰りを待ってたんだよ。驚かそうと思ってさ!」

 ヨシくんに用事があって来てたんだ、と。決して今見られた変なことの為では無い、とフォローしたつもりだったのだが。

「へぇ? 同じ会社に居るのに、わざわざ自宅に来る用事って何だろうねぇ?」

 ん? 同じ会社?

「部署まで同じなんだ、忙しくて帰りが遅いことも知ってるよねぇ。それをさっさと自分だけ先に帰って…一体何をしに来てたのかなぁ。ねぇ、柏木?」

 語尾のハテナが全く疑問符になってないところが恐ろしい。

「あ、いや! ははは……じゃっ!!」
「え!? ちょ、柏木さん!」

 物凄い勢いで玄関へと逃げて行く柏木さん。一体何だったのか、全くわから無い。

「………」
「………」

 唯でさえキッチン事件から気まずいのに、更に重い空気がのしかかる。悪いことをしたつもりは無いのだが、何故か全部ヨシくんを怒らせる事に繋がってしまい正直ヘコむ。
 ヨシくんは「はぁ」と軽く溜め息をつくと、しゅんと下を向く俺の横に腰掛けた。

「それで、トシくんは柏木と何してたの?」

 さっきのヨシくんの形相にスッカリ飛んでしまっていたが、そう言えばまだ柏木さんに相談している途中だったのだ。

「いや、あの…」

 知られたくなかった事なだけに口ごもるが、ヨシくんの雰囲気はどんどん黒くなっていく。

「僕には話せないこと、してたの?」

 夢精云々がバレるのは恥ずかしいが、ヨシくんに見離される事だけは絶対に避けたかった。

「ち、違くて…ちょっと相談してたんだ」
「相談?」
「お、俺ね…ここ二週間くらいずっと、その…毎朝夢精してて」

 モゴモゴとそこまで言って、血が集まってると自分でも分かる程に顔が熱くなる。

「それでその、変な病気かと思って」
「柏木に相談したの?」

 責める様なその言葉に俺は半泣きになった。

「だって! ヨシくんにバレるの恥ずかしかったんだもん! でも俺怖くてっ」

 うぇぇ、とソファに突っ伏すと、ヨシくんが俺の頭を撫でる。

「身内だからこそ恥ずかしいことも有るよね」

 怖い雰囲気から一転、優しくなったヨシくんの声に俺は堪らず抱き付いた。

「ヨシくん俺どーしよー! 変な病気だったらどーしよーーぉ」

 わぁわぁと泣く俺に、ヨシくんが囁く。




「柏木がやろうとしてた事、僕がしてあげる」


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