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「は!? イギリスぅ!?」

 転勤族の父に、遂に海外への転勤が言い渡された。

「まぢかよ、ちょーすげーじゃんまぢやべーじゃん! え、俺帰国子女とかになっちゃうわけ? うっわーかっけー」

 英語ペラペラのナイスガイ!

「え、やだ俊成。あんた一緒に行くつもり!? なんだぁ、嫌がると思ってヨシくんにあんたの事お願いしちゃったじゃない、連絡しないとぉ」

 え、ヨシくん!?

「母ちゃん俺、友達が寂しがるから行けねぇわ…」


 ◇


「今日からお世話になります俊成です! よろしくお願いしまーす!!」

 友達思いの俺は親について行くことを選択せず、かあちゃんの弟である美樹叔父さんの家に居候させて貰うことになった。

「トシくんってば、そんなに改まらなくていいんだよ?」

 ふふふ、と笑う美丈夫。
 俺は物心付いた時からヨシくんをリスペクトしている。肌は白くて黒髪は艶やかで、濡れた様に潤んだ漆黒の瞳。あぁ、何て綺麗なんだヨシくん! でも身長は意外と高いし女っぽくは無いから、同じ男としても憧れる。
 その上勉強も出来るしスポーツも出来るし、かあちゃんの話によれば今では仕事も出世コースらしい。

 チビの頃から俺の事もカナリ可愛がってくれてるし、こんな完璧な人そうそう身近にはいやしない。ヨシくんと住めるなんてマジでさいこー! イギリスでナイスガイになるよりよっぽど魅惑的な生活!!

「自分の家だと思ってね?これからどうぞよろしく」

 にっこりと微笑むヨシくんの顔に赤面しつつ、俺は頭を激しくコクコクと上下させた。





「トシくん、お弁当持った?」
「はいっ! バッチリです!!」
「そう、じゃあ気を付けてね?」
「行って来ます!」

 最高の朝だ。朝に弱い俺が一発で起きちゃうくらい優しい声で起こされて、ヨシくん特製の美味しい朝食を腹いっぱい頂き…その上お弁当まで持たせて貰った!

「ヤバイっ、俺幸せ過ぎて死ねるかもっ」

 独り言にしてはややデカイ声で呟くと、俺は学校まで猛ダッシュでチャリを漕いだ。



「トシ、おはよう」
「りっくんおはー!」

 幼馴染兼、大親友のりっくん。

「どうよ、憧れの美樹さんとの同居生活は」

 りっくんとはチビの頃からの付き合いだから、ヨシくんの事も知っている。一緒に遊んで貰ったことだってある。

「もう夢心地ッス〜」

 全身からお花が飛び出てそうな顔を向ければ、りっくんは「気持ち悪い」と言って俺を殴る。

「横暴っ!!」
「うるせぇ、シャキッとしろ馬鹿」

 りっくんは口は悪いけど本当は凄く優しい子だ。

「生ぬるい目で俺を見るんじゃねぇよ!」
「いひゃいっ!」


 ………多分。



 ◇



「どーしよー…」

 家に帰るとテーブルの上に『夕飯は冷蔵庫の中だよ。少し遅くなるので先に食べてね』と書き置きがあった。そう言えば、居候させて貰うのに何も役割分担してないなと気付く。

 昨日の夜出した洗濯物は、と洗濯機を覗きに行けば中は空っぽ。
 天気が不安定だった今日、ベランダを見ても洗濯物は干されておらず、与えられた自室に向かえばドアの前に畳んで置いてあった。

「うわぁ…いつやったんだろ」

 頭の悪い俺でも、社会人に時間が無い事くらい分かる。今までは母ちゃんに任せ切りだったからスッカリ頭から抜け落ちていた家事の存在。
 一日目にして迷惑しかかけて無かったことに猛反省すると共に、夢心地は一気に吹っ飛んだ。

 何となくヨシくんには言い出せないまま翌朝を迎え、今日も美味しいお弁当を手に握らされて昨日と同じ様に送り出される。

「俺に出来ることって…何だろ」

 今日も大きな独り言を呟きながらチャリを猛烈に漕いだ。


「そりゃー晩飯の準備が無難でしょ。あと洗濯な」

 りっくんに相談すれば矢張り無難な答えが返って来た。

「いや、それは俺も思ったんだよ! でも洗濯機は何とかなるにしても、料理がなぁ…」

 と、言いつつチラリとりっくんを見る。りっくんはこう見えて意外と料理上手だ。りっくんの家は両親が共働きだから、自ずとやる機会が増えたと言っていた。

「うぜぇ、ヤメろその目」
「ねぇりっくんお願い! 俺に料理教えて!?」

 床に座り込んで、椅子に座ってるりっくんの足に縋り付く。

「トシ! 足撫でんな!」
「興奮して勃っtぐぇぇ」
「お前殺されてぇの?」
「ジョークですジョーク! さぁーせんしたっ!! ねぇお願いりっくぅん! 何でもするからぁ〜」

 結局折れたりっくんは、一週間だけ料理を教えてくれることになった。





「お前どんだけ不器用なんだよ…」

 早速りっくんを家にお招きして料理指導を受ける。今日はもう晩御飯の準備がされてしまっているから、食後のデザートを作ろうと混ぜるだけっぽいプリンの素を買って来たのだが。

「どうしたらこんなのが出来るんだよ…」

 頭を抱えたりっくんが持つボールの中には、とろりとするはずの素が固形物と化していた。

「え、えへへ」

 先が思いやられる、と嘆いたりっくん。
 でも意外にもヨシくんはそんな謎の物体でも「美味しいよ」と言って平らげてくれた。俺はそれが嬉しくって、何とか早く“混ぜるだけ”から抜け出そうと奮闘するのだけど…
残念ながら俺の料理特訓は案外直ぐに終わりを告げる。
 それはりっくんのお料理指導、四日目の事だった。


 ◇


「何してるの?」

 俺がりっくんに怒られながら、未だ食後のデザートからランクアップ出来ないまま特訓していると、何時もはもっと帰りが遅いはずのヨシくんがリビングに立っていた。

「あれっ!? ヨシくん!」
「……お久しぶりです、お邪魔してます」

 ヨシくんはりっくんの挨拶に「どうも」と笑って返事した。けど、それは何時もの笑顔なんかじゃなくて。俺は何だか寒気を覚えた。

「ところで、二人でなにしてるの?」

 挨拶なんか良いから説明しろって事だろうか、ヨシくんが何か怖い。

「あっ、最近作ってた食後のデザートね、りっくんに教わって作ってたんだ!」
「……夜に出してくれてたやつ?」
「そうそう、それ!」

 りっくん曰く、クソまずいプリンとか、クソまずいゼリーとか。兎に角美味くは無かったはずだけどヨシくんは全部食べてくれた。

「ゆくゆくは晩飯も習って作ろうと思っててぇ〜」

 へへへ、と笑ってヨシくんを見たら。

「っ、」

 笑ってない。何だろ、無表情だ。

「あの、ヨシくん…?」
「ごめんねトシくん。僕、自分の家に他人を入れるの、余り好きじゃ無いんだ」

 その言葉に俺は血の気が引いた。勿論、全身から。

「立ち入ったことをしてすみませんでした、俺、帰ります」
「あっ、りっくん!っ、」

 素早く帰ってしまうりっくんを追いかけようとするが、ヨシくんに腕を掴まれ阻まれてしまう。
 凄く細身に見えるヨシくん。でも意外に力は強く腕が外れない。
 俺はりっくんの背中を見送ることしか出来ず、結局その日からキッチンに立つことも禁じられてしまった。
 そして何故か、りっくんの家で特訓することも…。


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