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「#エロ」のBL小説を読む
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 看板の出ていないBAR。限られた者しか知らぬその店の奥には、一部の者にだけ解放される広々としたフロアが有る。
 いつも昼過ぎからしか来ないユウキが珍しく朝から来てみると、そこには既に見知った姿があった。

「あれ? アタリ、もう来てたの」
「おはようございますユウキさん」
「「おはよーございます!」」」

 アタリとその後をついて回っているヒロ、そしてその他数人が既に共有フロアに揃っていた。

「アタリが居るってことは、リョウも来てるよね?」
「………」

 ユウキから外されたアタリの視線は、フロアの先にあるもう一つの扉へ向く。

「あ、あぁ〜…」


 ◇


 TEAM『Lynx(リュンクス)』

 この界隈でLynxの名は有名だ。
 特に総長、副総長の名を聞けばそれだけでビビッて逃げ出す奴が居る程、畏怖の象徴として恐れられていた。
 総長副総長共に、見目は麗しい。大事なことなので二度言うが、見目“は”麗しい。
 総長であるリョウは、少しキツ目の美形であり、副総長であるユウキはいつもニコニコと笑顔を絶やさない、リョウより少し優しい雰囲気の美形。どちらも中性的美形であった為、敵対するチームの輩の中には、同性でありながら彼らを負かし組み敷きどうこうしたい、と言う酷く厭らしい目を向ける者も少なくなかった。

 しかしながらLynxのメンバーは皆、異常なほどに強い。今のところ挑まれた抗争は全戦全勝。しかも総長と副総長の戦いぶりは鬼畜で、一度でもその姿を見たものは逆らおうと思えなくなる程だった。
 ましてや性の対象として認識出来るような可愛らしい生き物ではないと、現実を叩き付けられていた。
 そしてLynxにはもう一つ、ここ数年で急速に広まった有名なものがあった。

 リョウとユウキに邪まな想いを寄せる者も、大体の者が一度拳を交えてしまえば牽制することが可能であった。しかし、極稀にそれでも近づこうとする屈強な輩がいる。そういったしつこい者の対処として出されるのが“Lynxの番犬”こと、アタリだ。
 常に総長の傍に付き従っているアタリの存在は、直ぐに他所のチームにも話が広まった。リョウとユウキ以外とは殆んど会話を交わすことも無く、命令は総長のものしか聞かないLynxの番犬は、“総長の番犬”と言う方が本来正しいのかもしれなかった。

「先ほど終わったばかりなので、まだ起きるまでに暫くかかると思います」
「そ…か」

 視線をユウキに戻し告げたアタリの言葉に、ユウキはがっくりとした。
 
「今回は、何処の女なの?」

 うんざりしながらアタリに問う。問題なのは、他の敵対するチームの野郎から女を寝取る事が多いということ。女も女だが、絶対に後々揉めると分かっていてあえて手を出すリョウもリョウだ。そしてその問題を、いつも何とか抑えるのがユウキとアタリの仕事でもあった。

「大丈夫です、今回はただの逆ナンからの流れなので」

 アタリは絶対にリョウに逆らうことはない。いつも一番に被害を被り、後始末をさせられているのはアタリのはずなのに、肯定する以外の答えを持とうとしないのだ。

「そっか…ならいいんだけど。アタリ、朝飯は食った?」
「いえ、まだです」
「なら、食いに行こう」
「あ…いや、俺は」
「どーせリョウに遠慮してんでしょ。良いから行くよ? どの道待ってたら昼も食いそびれるかもよ。ヒロ、少しの間頼んだよ」
「あっ、はいっ!!」
「いや、ユウキさん。ヒロ達には少し荷が重いと…」
「ウダウダ言わないっ!」

 そう言ってアタリを無理矢理連れ出す時、テーブルの上に咲くピンク色の花がユウキの目に入った。アタリが出入りするようになってから、この部屋のどこかしらに花が置かれるようになった。
 見た目も中身もクールで、寡黙な男であるアタリにはあまり似合わない趣味だったが、彼が持ち込む花たちはいつも、何故だか心をホッとさせてくれた。
 名前など、分からないものが殆んどだったけど。




 アタリが危惧した通り、案の定部屋に戻ればリョウの機嫌は悪かった。

「おいアタリ、テメェどこ行ってやがった」
「良かった! アタリさんっ」

 心底疲労困憊した、半泣き状態のヒロとその他のメンバーにユウキは苦笑する。リョウがアタリを拾って来た(殆んど拉致に近かった)あの日から、彼の身の回りの世話は全てアタリの役割となっていたし、本人は全く認めないが、彼が側に居ないと直ぐに不機嫌になる。
 リョウの我儘に卒なく世話を焼くその器用さは、チームのメンバー内でも神業と言われるほど完璧だった。アタリは、Lynxにとっても、リョウにとっても無くてはならない存在なのだ。

「リョウさん、腹減ってますか? 駅前のパン屋のサンドウィッチ買ってきました」
「………」
「カモミールのミルクティーも今用意しますね。座って待ってて下さい」

 そしてこの日も、リョウへのその度合いに合わせた機嫌直しは完璧だった。



 ◇



「よう、Lynxのワンコ」

 リョウのお使い中に、アタリが“それ”と出会ったのは偶然だった。

「Quartzの…嵐山…」

 TEAM『Quartz(クォーツ)』
 Lynxと唯一引けを取らぬ強さとデカさを持つTEAMだ。嵐山はそのQuartzの総長で、これまたリョウ達に負けぬ鬼畜ぶりを見せた闘い方をする男だった。

「ヒロ、後ろに下がってろ。……一体何の用でしょうか」

 ゆっくりと近づいて来る相手に警戒心を剥き出しにして睨み付け、サッとヒロを背に隠す。

「はっ! そう警戒すんなよ、本当にお前は“番犬”の名が相応しいな」
 
 馬鹿にしているのかと思ったが、口調が余りに優しかった為アタリは怒るに怒れず困惑した。しかし嵐山とリョウとは犬猿の仲だ。何をする気か分からないので警戒するに越したことはない。

「あぁ、本当に欲しいな。お前、俺のTEAMに入る気は無いか?」
「…は?」

 余りに唐突な勧誘に、ただポカンと、決してしてはならない油断をしたその時。

「アタリさんっ!」

 ヒロの声にハッとしたが遅かった。

「へぇ? 意外と細いのな?」

 恐ろしい速さで背を取られ、アタリの両腕は難なく嵐山の右手で後ろに拘束される。空いた左手で顎を持ち上げられ、後ろにいる嵐山と無理に目を合わせられた。

「ん〜、成る程なぁ。中々可愛い顔してんじゃねーか?」
「…今すぐ手を放せ」
「まぁまぁ、少し付き合えよ。後ろで震えてる子犬ちゃん、大事なんだろ?」
「っ! 貴様ぁ…」
「なぁ〜んてな?」


 ―――は?


 またしても間抜けな顔をしかけた時、拘束されていた腕が解放された。直ぐに身を翻し、嵐山を正面に捉えるが、嵐山の表情に毒気を抜かれてしまう。

「冗談だ冗談。本当に少しお前と話してみたかっただけだ」
 
 そう言って両手を降参型にとり、ニッカリと愛嬌の有る笑みを見せた。
 何なんだこの人は、と掴み所の無い嵐山に振り回されていると、ヒュンッとカマイタチが襲ってきたかの様な音が聞こえた。

「おっと! あっぶねぇな、もうお出ましか?」
「リョウさん!?」
「テメェは…ちょっとした使いも碌に出来ないのか、あ"?」

 嵐山は、その音の根源であったリョウの回し蹴りをヒョイと避けて距離を取った。

「おいテメェ、嵐山。俺のにモノに何してやがった」
「はっ、なぁ〜んにも? お前に邪魔されたからなぁ。ま、またの機会にするかなぁ?」

 にんまりと人を馬鹿にしたような顔をリョウに見せる。

「おいワンコ。さっきの話、まぢだからな?ちゃんと考えておけよ」

じゃあな〜、と嵐山はそのまま踵を返してヒラリと手を振った。


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