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 部屋に戻った上代が直ぐに感じたのは、男にとっては憶えのあり過ぎる独特な匂いだった。

(ああ、ヤられたな)

 同室者の身に起きたであろう事実を単純に予測すると、上代は変わらぬ足取りで共有フロアまで進んだ。

「あれぇ…はっやいなぁ」

 テーブルの上には、見せしめのように置かれたネームプレート……だったもの。そこから顔を横に向け、同室者…二階堂紫穂の部屋を見れば、ピクリとも動かない素足が見えた。
 相手が誰かまでは判別できないが、兄弟の誰かの仕業に違いない。きっと確信までは行かずとも、紫穂を抱いた相手として上代が容疑者に上がったのだろう。
 上代は砕かれたネームプレートを手に取ると、再び大して重くもない足取りで紫穂の部屋の入り口に立った。

「これはまた…」

 目に映った光景は上代の予想を上回っていた。
 背中で拘束された腕は、抵抗のしようがない程頑丈に固められている。しかし、それでも尚強く掴まれたのか、肩や二の腕には手跡が幾つも痣になって付いていた。
日に焼けていない首筋は歯型がくっきりと浮かぶ程に血が滲み、後処理などされていない下半身はもっと酷い。
 気を失い力の込められぬ尻の間からは、白濁した物がドロドロと溢れていた。それは下半身だけにとどまらず、肌にはソレと思わしきものが其処彼処に塗りたくられている。当然、部屋中にその匂いが充満していた。

 これも全て、容疑者となった同室者に向けて誇示したものだと上代は受け取る。紫穂を“こう”した奴は、コレは自分のモノだと、そう示したかったのだろう。上代は無意識に口角を上げ、手の中のプラスチックを握りしめた。

 手の中が、乾いた音を立てる。

 そんな微かな音に目を覚ました紫穂が、上代の姿を捉えるなり必死で体を隠そうとする。だがそれも無理だと理解すると、今度は酷く申し訳なさそうに眉を下げて懇願した。

「ごめん、腕…外して」

上代は握りしめていたモノを手放した。

「やっぱ、キミの兄弟狂ってんね」

 少年は自身の状況を理解しているが……でも、理解していない。
 今の自分がどれだけ加護欲を掻き立たせるか、そしてそれ以上に、どれ程の加虐心を擽っているのか。
 少年は理解している反面で、全く理解出来ていなかった。




「ほら。壁に手、ついて」

 お姫様抱っこなんて恥ずかしい形で浴室に連れて行かれた紫穂は、床に降ろされても立ち上がることすら出来ない。殆んど四つん這い状態でタイルの壁に手をつけば、上代の思惑通り尻を突き出す様な形になった。

「すっげ。どんだけ中に出されたの」

 運んでくる間も流れ出していた精液が、突き出された紫穂の後孔から未だに溢れている。それを見た上代が嘲笑気味に指摘すれば、紫穂は羞恥から全身を紅く染めた。

「いっ、言うなよッ」
「だぁってココ、凄いよ? どんどん出てくる。それに真っ赤に腫れちゃってるし」
「ひぁああっ」

 何度も何度も抽送を繰り返されたであろう紫穂の後孔は、突然差し込まれた上代の指3本を難なく呑み込んだ。

「ひっ、あっ、ぅあっ何すっ、」
「何するって洗うんだよ。もう手遅れかもしんないけど、洗わないと酷い事になるよ? お腹ぐちゃぐちゃに壊しちゃっても良いの?」
「あっ! あっ! 嫌だっあっ、ぁっ」
「じゃあ大人しくしてて。俺がちゃんと綺麗にしてあげるから」

 差し込まれた指は、上代が言う通り中のモノを掻き出す為だけに動いた。そこに性的意味合いが無いことにホッとする。
俯き視線を落とした先に見えたのは、シャワーの水に混じって足元を流れていく白濁。それが血を分けた兄弟のモノであり、それを自分の中に出されたのだと思うとどうしようもない感覚に襲われた。

 弟を抱いただけじゃない。俺は弟に……抱かれたんだ。

 自分が受け入れてしまった現実は酷く悍ましく、紫穂の瞳からは自然と涙が溢れた。そんなへたり込んだままの紫穂の体を甲斐甲斐しく綺麗にした上代は、その耳元にそっと囁く。

「もし、兄弟相手じゃないとイけなくなったら、どうする…?」

 紫穂の体は面白いほど跳ねた。そしてやがて、ガタガタと震えだす。

「そ、そんなこと有るわけない!」
「そうかなぁ? だって、男が尻でイけるようになっちゃったら、もう女なんて抱けないよ?」
「尻でなんてイッてない!」
「そんなの直ぐだよ。相手はあのイカレた兄弟だよ? 毎日でもヤリに来るでしょ。そしたらきっと、もう彼奴ら無しじゃいられなくなる」
「何で!? 何でだよ! 俺はそんなことっ…由衣だけでも、俺はっ、俺はッ」

 紫穂は頭をブンブンと一心不乱に降り、嫌だ嫌だ嫌だと狂ったように叫んだ。

「ここ」
「ぁあ"!? なっ、何っ」
「もう兄弟の形になってんじゃない?」
「ンなわけ有るかっ! あっ、バカやろッあ"、ァあッ」

 ぐぢゅんっと激しい音を立たせながら、再び紫穂に指を埋めたかと思うと、埋め込まれた上代の指が途端に暴れだす。洗っていた時とは打って変わり、その指の動きは明らかに情欲を煽るものだった。

「ね、俺ともしよ?」
「上代っ!!」

 壁に手をついたまま振り返り咎めるが、上代の顔は酷く楽しそうだ。

「上書き、して欲しくない?」
「はぁ!?」
「兄弟の感覚、残ったままで良いの?」
「ッ、」

 紫穂は漏れ出る声を呑み込み、唇を噛んだ。
 上代が言う通り、紫穂のカラダはまだ和穂を覚えている。強制的に快楽を引きずり出す動きと、快楽と共に与えられた痛み、屈辱、……悲しみ。それを思い出すと、恐怖に囚われ動けなくなった。
 出来るならどうか……消してしまいたい。

「俺なら助けてあげられると思うけど?」
「お前…に、何のメリット、あんだよっ、」
「だから、ヤらせてよ」
「お前!」
「じゃあ次男くんは、これからも兄弟にヤられまくって良いの? 単なる同性の俺と、同性な上に近親相姦。どっちがマシ?」

 他にも選択肢は有るはずだ。いや、絶対に有る。けど、問題に囲まれた今の紫穂には冷静に考えることなど困難なことだった。

「俺なら優しくしてやれるし、怖い思いもしなくて済むよ? 助けて欲しくない?」

 上代の言葉に紫穂の顔がぐしゃりと崩れた。

「……けてくれ…」
「なぁに? 聞こえないなぁ」
「ッ、…好きにして良いからっ、助けろ!! ンむぅっ!? んっ、ん"っ、んふぅっ…」

 言い切ったが早いか、紫穂は上代に顎を取られ唇を奪われた。そしてそのまま壁に押し付けられたかと思うと、あっという間に上代の熱が紫穂を貫いた。

「ぅああぁあぁあっ!!あっ、…あっ、ン、ぅあ"っ、」
「締め付け、すっご…」

 強引に入り込んで来たものの、上代の動きは緩やかで優しい。痛みなんて全くなくて、でも熱くて、甘くて、そのまま蕩けてしまいそうで…。

「んっ…ぁ、あふっん、」
「何その顔、えっろぉ」
「ンあっ、あ…あぅっ」

 和穂にされた行為とは、同じ様でいてまったく異なった。
 紫穂は上代に与えられるこの快楽に、どうしようもなく縋り付きたくなった。求め始めたカラダは触れられずとも胸の突起をピンと立たせる。目敏くそれに気付いた上代は、逃すことなく手を伸ばした。

「ぅあ"っ!!」
「ッ、…今日から恋人のフリ、してあげるよ」
「あっ! あっ、こいっ…びと?」
「そ、恋人」
「んぁあっん、やっ、胸っ…ぃやだっ、」

 紫穂のカラダに散った沢山の赤い痣は、花弁と呼ぶには禍々しすぎる。噛み跡だって深くて濃い。だが、それもひと月程経てば全て綺麗に消えるだろう。

「いや、違うな。俺のだけ残る」

 和穂が残した痕跡を、上代は宣戦布告として受け取った。
 寮の壁なんて薄いものだ。そのうえ浴室なんて響く場所でこれだけ声を上げれば、隣の部屋どころか上下の階にも紫穂の喘ぎ声は響いているかもしれない。そして明日には、まず間違いなく兄弟達の耳に入るだろう。
 兄弟に容疑をかけられた時点で、上代にはもう逃げ道など無いに等しかった。だったら、とことん楽しんでやらないと。
 腰を揺らす度に甘い声を上げる紫穂を見て、上代はうっそりと笑い舌なめずりをする。

「俺って、負けず嫌いだからさ」



 この時こそが…
 紫穂の世界が歪に回り始めた瞬間だったのかもしれない。

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