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 回る回る、俺の世界。
 そうして回る度に世界はどんどん狂ってく。
 腹立たしい程、気色悪く狂って行くのだ。


「なぁ上代。言い値を払うから、今直ぐ俺を抱いてくれないか」

 俺の言葉を理解するのに少々手こずったのか、同室者である派手な容姿の色男、上代は、少し間を空けてからやがてニンマリと笑った。

「可笑しいな、次男くんだけはマトモだと思ってたんだけど?」


 ◇


 俺には兄弟が三人いる。
 十歳上の兄【諒(リョウ)】と、俺【紫穂(シホ)】の双子の弟である【和穂(カズホ)】。
 そして、一つ歳下の弟【由衣(ユイ)】。

 俺以外の三人はタイプは違えど皆美形。
 和穂とは双子であるから多少俺と似ているが、パーツの配置が違うだけでこんなにも残念に仕上がるのか…と言った感じの出来が俺だったりする。

 教師よりもホストの方が似合いそうな諒は、涼しげな王子様タイプの美形である和穂がお気に入りだ。そして和穂も諒が大好きで、良くふたりは恋人の様にイチャついている。
 そんな諒と和穂は何故か俺を目の敵にして嫌うが、俺から言わせれば兄弟でイチャつくお前らの方がよっぽど気色悪くてウザイ。
 かと思えば、何故か末っ子の由衣は俺にベッタリだったりする。

 由衣は家族の中では一番小柄で、そして女の子顔負けの可愛らしい容姿をしている。
 末っ子であり加護欲をそそられる容姿の由衣を両親は酷く溺愛しているが、由衣は俺と同じで諒と和穂とは折り合いが悪く俺にしか懐いていなかった。

 でも、俺はそんな由衣が嫌いだ。

 俺を馬鹿にして蔑ろにする諒と和穂も嫌いだが、それよりも俺は由衣が嫌いだった。
いや、嫌いになった…のだ、数日前から。


 俺たちが通うのは、男しか居ない全寮制の男子校。
そんな閉鎖的な場所では時として男が男を襲い性処理を済まそうとする事件が起きる。

『由衣っ!!』

 由衣の親衛隊だと名乗る少年から助けを求められ駆け付けた先では、シャツを破られ組み敷かれる弟の姿があった。
 瞳に涙をいっぱい溜めた由衣を見た瞬間頭の中で何かが弾け、気付けば俺の手は血に塗れ床には由衣を組み敷いていた男が転がっていた。

『紫穂ちゃんっ、紫穂ちゃんっ』
『大丈夫。もう大丈夫だから安心しろ』

 怖がる由衣の為に、その日は一晩由衣の部屋に泊まる事になった。だが、その夜。

『紫穂ちゃんお願い…またこんな事があったら嫌なの。だから、今のうちに紫穂ちゃんに奪って貰いたいの』

 そう言った由衣に、俺は深い口付けを強要された。抵抗したかったが出来なかった。
 俺は由衣に逆らえない。何故なら、由衣を蔑ろにすれば直ぐにその情報は両親へと届き酷い罰を受けるからだ。
 別に、俺が特別両親に嫌われているだとかそういうことではない。

『抵抗なんかして良いの? 紫穂ちゃんにレイプされたって、父様と母様に言い付けちゃうよ?』

 冗談でも何でもなく、そんな事を告げ口されたらきっと俺の人生は両親によって消されてしまう。その位、両親は由衣に対して盲目過ぎた。
 生徒会の顧問である諒、生徒会の副会長である和穂に続き、由衣もまた生徒会役員であるから部屋は一人部屋。誰も邪魔に入る事はない。
 俺は絶望と嫌悪と諦めの中、黙って弟のオモチャになった。




「へぇ…まさか四男くんが一番乗りとはね。で、弟くんの感覚を上書きしたいってこと?」

 物事に余り興味を示さない上代には珍しく、随分と楽しそうに俺の話を聞いている。と言うか、一番乗りってなんだ。

「悪いけど俺、タチだから尻は貸せないよ」
「分かってる。奪われたものを取り戻す気は無いし、生憎俺は童貞じゃ無かった。それだけでも救いだ」
「へぇ。じゃあ別に俺に頼む必要無くない? 弟くんはネコなんでしょ?」
「……自分を抱かせた後、由衣は俺の全身を舐めしゃぶった。それでアイツ、舌で俺の尻を突きながら言ったんだ」

『ここは、また今度…ね?』

 それを聞いた上代は肩を震わせた。
 多分爆笑したいのだろう。

「危なかったねぇ」
「危うく殴り付けるところだった」

 上代が可笑しそうに喉を鳴らした。

「由衣の言葉を借りるなら、俺は兄弟なんかにヤられる前に他人に奪われておきたい」
「ふーん、可愛い弟くんの方がマシ…とかは思わないんだ」
「当たり前だろう。誰が好き好んで実の弟にヤられたいと思うんだ、気色悪い。初めてを弟に捧げるくらいなら、見ず知らずの野郎に強姦された方がまだマシだ」
「避ける事は出来ない?」
「……うちの事情、お前も知ってるだろ。俺はまだ自分の人生を捨てたくない」

 吐き捨てた俺に上代は苦笑を漏らし、長めの髪を掻き上げた。

「りょーかい。厄介ごとも引っ付いて来そうだけど…まぁ、最近退屈してたし丁度いっか」
「厄介ごと」
「その内分かるよ」

 そう言って上代が口角をニッと上げる。
 そんな仕草ひとつでこの学園のチビ犬どもがどれだけ倒れるだろうか。

「じゃ、早速ヤりますか」

 長く形の良い指が俺の腕を取り、スッと肌を撫でた。


 ◇


「はっ、…はっ、さいっあく、」

 上代に教えられた受け入れ準備は、精神的にも肉体的にも想像以上にキツく、それを体感する度に思い知らされる。
 男のカラダは、そう簡単に男を受け入れたりし無い。だが、弟はどうだったろうか?すんなりと受け入れた気もするし、心なしか体を清めた香りすらした。

「由衣っ、の、クソ野郎…っ、」

 アレはきっと仕組まれていたのだ。
 多分、強姦未遂のあそこから既に。
 つまり由衣は、初めから俺を狙っていたわけだ。実の兄である俺を…
 そう考えただけでとてつもない吐き気が込み上げた。


「次男くん大丈夫? 顔真っ青だけど」

 漸く浴室から戻って来た俺を見て上代が笑う。

「本当にキツイのはここからだよ。何たって次男くん、ノンケなんだからさ」
「……分かってる」

 上代が居るベッドへ乗り込むと、シーツの下でバリバリと乾いた音が立った。触り心地も何だかゴワついている。

「…?」
「ああ、下にビニールシートが敷いてあんの。だから安心して汚して良いよ。合意とは言え、精神的に来ると吐いちゃう場合もあるワケ」

 何となくベッドの周辺を見回すと、それ用だと思われるビニール袋を着けたバケツが用意されていた。あと、ウエットティッシュやミネラルウォーターも。

「お前がモテる理由、何か分かった気がする」

 俺が溜め息混じりに呟けば、やっぱり上代は緩く笑った。








「あっ、はっ、ぃ…あっ、ぅ」
「ん、そろそろ良いかも」

 うつ伏せにさせた俺の後ろを、ジェルローションを使ってじっくりと指で解す上代。その指使いは非常に丁寧で、そして理知的だ。
 孔を解すに至るまでの前戯も巧みで、そのお陰なのかどうなのか、俺は未だ嘔吐する事なく触れられる部分から快楽を拾い始めていた。

「時間かかってごめんね、俺の意外とデカイらしくてさ」

 自慢にも聞こえそうなセリフなのに、その声が余りにも申し訳なさそうで俺は思わず笑ってしまう。

「笑ったらダメだって、力入るから」
「だっ…て、ふぁっ!あっ、」

 つぷん、と抜き取られた指の束。
 何も無くなったそこがヒクヒクと物欲しそうにヒクつくのが自分でも分かり、そんな自分に漸く吐き気が込み上げた。

「大丈夫、大丈夫。コレだけ尻弄れば感じるのは当たり前だから」

 俺の様子に目ざとく気付いた上代は、汗の滲む髪を後ろから優しく混ぜた。かと思った瞬間、孔の入り口に熱いものが当てがわれる。

「力抜いてね…」
「ふっ!」
「こら、逆だって。それじゃ入らないよ」

 そうは言われても力はどんどん入ってしまい、どうやって緩めるのかすらパニックでわからない。俺はベッドシーツにひたすらしがみ付いた。

「ん〜、仕方ないな。慣れるまでは後ろからのが挿れ易いんだけど」

 上代はそう言うと俺の両手をシーツからベリっと剥がし、うつ伏せだった体を仰向けにひっくり返した。

「っ、んぅ…」

 美麗な男の目元が紅く色付いていたのが目に入った途端、俺は唇を優しく奪われた。
 同性に奪われている違和感と嫌悪感が無いと言えば嘘になるが、由衣に奪われた時よりも断然平気だった。
 手練れているからなのか気持ち良くさえある。

 そう油断したその時、唇を解放されて力が抜けた隙を突いて上代が膝を掬い上げ、剛直の先っぽを中へと侵入させた。

「うぁあっ!? あっ、ぃ"っ」
「大丈夫、ゆっくり挿れるから力抜いて」

 上代はゆっくりと腰を揺らし、進んでは少し戻り、また進んでは戻りを繰り返し入って来た。痛みよりも圧迫感が凄くて口をハクハクとさせていれば、目からは生理的な涙が溢れた。

「イカれてるとは思うけど、入れ込む気持ちが分からんでもない…かな」
「な……にっ、?」

 俺の上で上代がふっと笑う。

「可愛い、って言ったんだよ」
「はっ、? あっ、あぁあ…うあっ、」

 残りをズブっと押し込んだ上代が、一旦深く息を吐く。
 俺たちの両手は、何時の間にかシーツの上で恋人繋ぎで絡んでいた。でも、それが妙に安心を生む。

「はっ……馴染んできた。動くよ」
「ん……あっ、あっ! ぁあっ、や、上代! ひぁああっ! あっ、」

 先ほどまでがどれだけ手加減されていたのか思い知らされる、強く、激しい蹂躙。

「ンぁっ! ぁうっ、うっ…ん"っ」
「ん、いいねっ…ウネってる。気持ち良いんだね」
「かみっしろ! 上代っ! あっ!」
「可愛いよ、次男く…じゃないな」

“紫穂”

 呼ばれた瞬間、恥ずかしい程中がウネり上代を締め付けたことが、自分でも分かった。


 ◆


 隣で死んだように眠るのは、探せば何処にでも居そうな平凡な少年。
 彼には三人の兄弟が居て、どれも恐ろしい程の美貌を持っていて、全員が非常識の塊のような奴らだった。

 そんな兄弟を本気で嫌う少年に、上代は少なからず共感を覚えていた。
 この男子校の特色に染まらず嫌悪を丸出しにする所もまた好感を覚えた一つである。
 まぁ、興味な有って無い様な、そんな程度のものではあったが。

 上代は少年の無防備に曝け出された素肌に散る紅い痕に指を滑らせた。
 興味など有って無い様なものだった。そう、今日彼を抱くその時までは。

『初めてを弟に捧げるくらいなら、見ず知らずの野郎に強姦された方がまだマシだ』

 そう言って上代に抱かれた少年もまた、マトモとは言い難い。だが、自身を犠牲にしてまで兄弟から向けられる異常な欲から逃げようとするそれは、ある意味ではマトモなのかもしれなかった。

「危ないのは四男だけじゃないって、いつ気付くかな?」

 一番わかり易い四男にですら、襲われて漸く気付いたくらいなのだ。長男や三男が向けている欲になど、少年は全く気付いて居ないだろう。
 そして、その長男や三男の方が危ないと言うことも。

 そんな危ない兄弟が後ろに控えている彼を抱いてしまった上代は、もう無関係では居られない所へ立っていた。
 それでも、後悔は感じていない。

「キミの世界がどうなるか、この先が楽しみだ」

 汗で張り付いた少年の前髪を掻き上げると、上代はそっと額にキスを落とした。




また一つ厄介な星が回り始めてしまったことを、少年は未だ、知らない。

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