朝霧司

今日は定休日。
いつもは足りない食材、備品の補充をしたり掃除をしたり・・・家の用事を済ますだけで終わってしまう枯れた休日。

でも!
今日はこんなにも天気が良い!!

お弁当作って、公園で少しピクニック気分を味わっても良いなあ。


「あ!確かまだ牛モモのブロック肉が余ってたはず!!」


お店で使った残りのブロック肉。
んふふ。
これで私の大好物作ろっと!

牛モモ肉をフライパンで良い感じに焼き色をつけるように焼いて、それをジップロックに入れてしっかりパッキングしたらお湯でグラグラ煮ちゃう!

ほんとはゆっくりゆっくりやるんだけどね。
今日は私だけだし!
てゆうか、これでも美味しいしね!

火が通ったら薄ぅくスライスして、レタスと玉ねぎと一緒にソースを塗ったパンに挟む。

はい!
ローストビーフサンドの出来上がり!!


可愛くバスケットに詰めて、ポットにお気に入りの紅茶を入れて・・・
ピクニックセットの完成。







ちょっと歩いたところに、それなりに広くてそれなりに緑のある公園がある。


「んあー!気持ち良いなー。」


平日だし、人も疎らでのんびり人目を気にせず過ごせる。
あ、木の影になってるとこにベンチがあるから、あそこで食べよう。


「お店やってるのも楽しいけど、やっぱりたまにはこうしてのんびりするのも良いなあ。」


それにお店に籠りっぱなしだしね。
少しは日の光浴びないと!


「よし、食べよう。いただきまーす。」


ん!
美味しい!!

へへっ。
たまにお店で出すとすぐに売り切れちゃうし、けっこう自信作なんだよね!
耀さんなんて、告知してないのに、狙ったかのようにローストビーフサンド出してる日に来るしね・・・。



タッタッタッタッ!



「ん?」

「ワン!!」

「!!」


何かが遠くから駆けてくる音が聞こえてたと思って、ローストビーフサンドから視線を上げると、大きくて真っ黒なワンちゃんがすごい勢いで駆け寄ってきていた。


「あれ、キミ、どうしたの?」

「ワン!」

「ふふっ、元気なワンちゃんだねぇ。」


決して飛び付いてこないで、私の足元でお行儀よく座って真っ直ぐ見上げてくる。
賢そうなワンちゃん。
尻尾をブンブン振り回して、可愛いなあ。


「クライナー!待ちなさい!」

「?」


ワンちゃんが走ってきた方向から、男の人が焦った様子で何かを叫びながらやってきた。


「キミがクライナーくんかな?」

「ワン!」

「ふふっ、ほんとに賢いねえ。」


凄いなあ。
ちゃんと私の言ってることが分かるんだね。

ナデナデと、クライナーくんの綺麗な毛並みを撫でてると男の人が息を切らして追い付いた。


「はぁ・・・。すみません、うちの犬がご迷惑をおかせしました。」

「いえいえ!大人しくて賢いワンちゃんですね!」

「えぇ。いつもは急に走り出して、知らない方のところに行くなんて無いんですが・・・。」


男の人は困ったように眉根を寄せている。
あ、ちゃんと見るとすごい格好いい!

でも私何かクライナーくんの興味を引くようなもの・・・


「あ!もしかしてこれかな?」

「ワン!ワン!!」

「やっぱり!」


ローストビーフの匂いに釣られて来たんだね。


「ふふっ、食べる?」

「ワフッ!!」

「クライナー!!」

「あ、良いんですよ!ひとりで食べるには作りすぎちゃったので!」

「しかし、」


あ、そうだよね。
見知らぬ女が愛犬に食べ物をあげるのって何だか怪しいよね。


「私、すぐそこでカフェを経営してるんですよ!なので味と安全性は保証します!!」

「そういう事では、」

「ね、飼い主さんも。どうぞ!」

「・・・では。」


少し強引だったかな。
でもせっかくだし!
こんなにクライナーくんも食べたがってるしね。






「はい!クライナーくんはローストビーフだけで我慢してね!パンと野菜はちょっとクライナーくんには味が濃いから私が食べちゃうね。」

「ワン!」


サンドイッチからローストビーフだけを抜き取って、蓋にのせてクライナーくんに差し出す。


「・・・犬を飼ってらっしゃるんですか?」

「え?あ、いえいえ!やっぱり飲食店を一人でやってるのでなかなか飼うことはできないんですけど、動物は好きなので、色々と調べたりしてたんですよー。」

「そうですか。」

「はい!飼い主さんもどうぞ!」

「俺も?」

「味は!保証します!!」

「・・・では、」


訝しげに、飼い主さんはひとつ手にとって口に運ぶ。
でも口に入れた瞬間、飼い主さんの綺麗な目が見開かれた。


「美味しい・・・。」


ふふふふ!
そうだろうそうだろう!


「よかったー!自信作なんですよー。クライナーくんも、美味しい?」

「ワン!!」

「ふふっ、ゆっくりお食べ!」


勢いよくかぶり付いてるけど、それでも散らかす事なく食べてる。
すごいなあ、可愛いなあ。


「これは、ローストビーフから手作りなんですか?」


おっと!
クライナーくんにすっかり見とれてた。


「はい、そうですよ。」

「手が込んでるんですね。」

「いえいえ、ローストビーフって実はすごく簡単なんですよ!お料理はされませんか?」

「カップラーメンが得意です。」

「あはは!美味しいですよね!」





何やかんやと会話も食事も楽しんでしまった。


「すっかりご馳走になってしまい、すみません。」

「いいえ。クライナーくんにも飼い主さんのお口にも合って良かったです。」

「・・・朝霧。」

「え?」

「俺の名前です。朝霧司といいます。」


おぉ・・・!
なんかこう、気難しい猫が心を開いてきたような感動が・・・!
て、失礼か。


「朝霧さんですね!私は名字名前です。」

「名字さん、何かお礼をさせて下さい。」

「え!!??」


お礼!?


「ちょ、そんな私が勝手にした事ですから!気にしないで下さい!」

「それでは俺の気がすみません。」

「えぇ・・・。」


めっちゃ頑固じゃん・・・。
どうしよう・・・。

あ、そうだ!


「じゃあ、今度私のお店に来て下さい!」

「あなたの、お店・・・?」

「はい!先程もお話しましたけど、すぐ近くでカフェを経営してるので、お客様としていらして頂けると嬉しいなあって!」

「・・・。」

「もちろんすごいお金を使え!!って事じゃなくて!!遊びに来て欲しいって事なんですけどね!!ローストビーフサンドの他にも日替わりで、何種類かのフードも出してるのでぜひ。」

「クゥーン・・・」

「あ!もちろんクライナーくんもおいでね!中には入れないんだけど・・・、うちの裏にちょっとしたスペースあるから一緒に遊ぼうねー!」

「ワンワン!!」

「うん!楽しみだねー!」

「あなたは・・・。」

「え?」


朝霧さん、何か言った?


「いえ、是非伺わせて頂きます。」

「はい!朝霧さんとクライナーくんのお越しをお待ちしてますね!」





定休日の昼下がり。

お店にいては無かった素敵な出会い。



数日後、ほんとにいらしてくれた朝霧さんが耀さんの部下だと知って飛び上がるほど驚いたのはまた別のお話。









prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -