新一 19歳 焦凍 16歳 A
「ふんふんふーーん♪」



今日はクリスマスイブ。
冬休みの新ちゃんと焦ちゃんも、お友達とパーティーしないの?って聞いたんだけど、


「え?俺はうちで母さんたちと過ごすつもりだったけど?」
「俺も。お母さんとクリスマスしてぇ。」


って言ってお家にいるみたいだから、今夜は家族だけでパーティー。
って言っても、ちょっとだけいつもより豪華なご飯を作って、ケーキを食べて、ふたりにプレゼントを渡すっていうささやかなパーティーなんだけどね。


「お母さん、手伝う。」

「ありがと、焦ちゃん!じゃあママ、生クリーム作るからボウルに氷だして押さえてもらって良いかな?」

「あぁ。」


生クリームを冷やしながら混ぜるために焦ちゃんにちょいちょい氷を個性で出してもらう。
あまり個性を利用するような事はしたくないんだけどけど・・・


「俺がしてぇからしてんだ。だからお母さんもどんどん言ってくれ。」


って聞かないから。
いつの間にか私もちょっとしたお願いならついついしちゃって。


「母さーん。買い物行ってきたぜ。」

「新ちゃんおかえり!ありがとー!」

「他に何かする事あるか?」

「えと、じゃあお皿並べてもらっても良い?」

「おう。」


飲み物とか、足りない食材とかの買い出しに行ってくれてた新ちゃん。
ほんとにふたりとも、大きくなってもママのお手伝いとか色々気遣ってくれて・・・
ママは嬉しいよ・・・。


「あ、そうだ。新ちゃん焦ちゃん。今日はパパも早めに帰って来れるみたいだから、パパが帰って来てからご飯にしようね。」

「まあ、クリスマスだしな。」
「お母さんが言うなら・・・。」

「・・・もぅ。」


そんな事言って。
プレゼントは零さん買ってくるんだからね!







「なぁ、お母さん。」

「ん?なぁに、焦ちゃん。」

「うちって、他の家みてぇにサプライズのクリスマスって無いよな。」


生クリームも無事に出来て、ケーキに塗り、新ちゃんと焦ちゃんと3人でケーキのデコレーションをしていた時に、ふいに焦ちゃんが尋ねてきた。


「え?」

「どうした、焦凍。」

「いや、不満とかがあるって訳じゃねぇんだ。ただ、お母さんもクソ親父もそういうの好きそうだけど、サンタの格好して突然出てきたりっつぅのねえなって。」

「「・・・・・・。」」


どうやら冬休みに入る前に学校でその手の話題になったみたい。
出久くんのお家でも昔、パパさんがサンタの格好して、引子さんが個性で引き寄せて演出して・・・とかやってたとか。
それで焦ちゃんは、自分の家ではそんな記憶無いぞって思ったんだって。

イチゴを持ったままポツリポツリと溢す焦ちゃんに、思わず新ちゃんと顔を見合わせてしまった。


「「・・・っぷ!」」

「?」


いきなり吹き出した私たちに焦ちゃんは不思議そうな顔をする。


「クスッ、ねぇ焦ちゃん。覚えてないかな?」

「え・・・?」

「ははっ。焦凍お前、大変だったんだぞ?」

「?」








それは新ちゃんが7歳、焦ちゃんが4歳の時。
焦ちゃんも個性が出現した後のクリスマスの話だった。

うちも例に漏れずにそれなりにクリスマスのサプライズはやっていた。
零さんは仕事の都合で毎年サンタになるって訳にはいかなかったけど。
ちなみに新ちゃんは3歳の時にすでに零さんサンタの招待を見破ってた。
流石だよ・・・。

で、その年のサプライズは焦ちゃんの2歳のとき以来の2年ぶりのサプライズ!


「なぁ母さん、今年は父さんサンタの格好するの?」

「しー!そうだよ、今年はやるみたいだね。でも焦ちゃんは一昨年まだちっちゃくてサンタさんよく分かってなかったみたいだからパパの事は内緒だよ?」

「うん!」







そして夜。

チキンも食べて、ケーキに子供たちが舌鼓を打ってる間に零さんがスタンバイ。


「名前、おかしくないか?」

「うん!ちゃんとサンタさんだよ!零さん似合う!」

「はは・・・。髭面が似合うっていうのも複雑だな・・・。」

「お髭くらいで零さんのかっこ良さは霞まないもん。」

「名前っ、」

「はい、という事で零さんはお外出てね。」

「・・・おう。」


サンタさんの服を着て、お髭も付けて白い大きな袋にプレゼントを入れた零さん。
そっとお外に出てもらって、私がふたりのとこに戻ったタイミングで窓から零さんが登場するってわけ!


「じゃあ、私はふたりのとこに戻るね。」

「あぁ。」


ふふっ。
雪も降ってきたし、良い感じ♪


「新ちゃん、焦ちゃん。ケーキ美味しい?」

「母さん美味しいよ。」
「お母さん、美味しい。」

「良かったー!あ、パパね、急にお仕事に呼ばれて少しだけ出かけてくるって。」

「そっか・・・。」

「落ち込むなよ焦凍!兄ちゃんも母さんもいるだろ。」

「うん。」

「さ、ふたりとも!ジュースのおかわりは?」

「母さん!俺欲しい!」
「ボクも。」

「はいどーぞ!」


その時だった。


コンコン


「!?お母さん!何か聞こえる!!」

「そうか?(父さんだな)」
「ほんと?(零さんだ)」


窓を叩く音が聞こえて、焦ちゃんがびっくりしてる。
もちろんその正体が分かってる私と新ちゃんはすっとぼけてるんだけどね。
ちょうど部屋からだとカーテンで外が見えないしね。


コンコン


「ほら!お外から!」

「でもこんな時間だぜ?」

「もう夜だよ。しかもお庭から・・・。なんか恐いね。」

「!!」


コソッ

「ね、新ちゃん。焦ちゃんビックリしてるね。」
「あぁ!成功だな!」


ふたりでコンコン話してると、焦ちゃんは恐る恐る窓へと近付いていった。


コンコン


「わっ、」

「ママ恐い・・・(ふふ、焦ちゃん可愛いなぁ)」

「!!」

「俺も・・・なんか少し恐い(焦凍ビビってるな)」

「!!」

「ねぇ、焦ちゃん。窓開けてみてくれないかな?」
「頼む、焦凍。」

「・・・うん。」


ここで焦ちゃんが窓を開けて、サンタの零さんが出て来て大成功!!・・・の、はずだった。


コンコン


「っ・・・、お母さんとお兄ちゃんは、ボクが守る!!」

「「!?」」


ガラッ!!


え、焦ちゃんなんて!?
何て言った!?


「かくごしろ!ヴィラン!!」

「「!!!」」


ドゴォオ!!


「しょ、焦ちゃん!!」

「焦凍!!」


勢いよく窓を開けた焦ちゃんは、そのまま外へ向けて氷の個性を放つ。
その瞬間、庭にはいつくもの氷の塊が現れた。


「ちょ、れ、零さんは!?」

「あそこだ!!」

「あぁ!!零さん!!」


新ちゃんが指差す方を見てみると、氷漬けになっている零さん・・・。
突然のことすぎて、避けられなかったんだ・・・。
って!!
凍傷になっちゃう!!死んじゃう!!


「うわあ!!!」


ドゴッ!!ドゴッ!!ドゴッ!!

いまだ叫びながら個性を暴発させる焦ちゃん。
ヤバいヤバい!止めなきゃ!!


「焦ちゃん!止めて!」

「焦凍!」

「だって、だって!お母さんもお兄ちゃんも恐がってるから!お父さんもいないからボクが守るんだ!!」


ドゴォオ!!


「焦ちゃん・・・!」

「母さん!感動してる場合じゃないぞ!」

「はっ!!そうだった!」










「って事件があったんだよー。」

「・・・覚えてねぇ。」

「だろうな。あの後なんとかお前をなだめて、急いで反対の方の個性で氷を溶かして親父を救出したんだぜ。でもその後、お前パニックになって3日間寝込んだからな。」

「・・・ほんとか・・・。」

「本当だよ。きっとショックで忘れちゃったんだね。」

「・・・そうだったのか。」


いやぁ・・・、あれは大変だった。
これも焦ちゃん忘れてるみたいだけど、その後数年はサンタさんにビクビクしてたから、サンタサプライズは我が家では止めになったんだよね。


「あれは傑作だったな。」

「こら、新ちゃん。」

「なんか、悪ぃ・・・。」

「もー、焦ちゃんも謝らないの。ちょっとママたちもやり過ぎちゃったしね。」

「・・・おぅ。」

「あ、ほら!そろそろパパも帰ってきちゃう!急いで準備しよ!」

「・・・なぁ、お母さん、」

「ん?」











家から少し離れた街灯の下で、私はひとりで零さんの帰りを待っていた。
もうそろそろここを通るはず。


ザッ


「名前?」

「あ、零さん!お帰りなさい!」

「ど、どうしたんだこんなところで!」

「零さんのお迎えだよ。」

「名前っ、」


ぎゅうっ


「もぉ零さん。お外だよ。」

「可愛いお前が悪い。」

「へへ。ね、帰ろう?」

「ん、そうだな。」


家までの短い距離を、ふたりで手を繋いで歩く。


「あいつらは?」

「ん?パーティーの準備だよ。」

「そうか。楽しみだな。」

「ふふっ、そうだね。」


数分もしないうちに家は見えてきた。


「ん?」

「・・・。」


零さんはすぐに家の異変に気が付いた。


「名前、あれは・・・、」

「お庭、行ってみたら?」

「・・・。」


思わず駆け出す零さん。
その零さんの目に写ったのは、


「これは、」

「ふふっ。」


お庭にそびえ立つ、大きな大きな氷のクリスマスツリー。
細かい葉の部分まで再現されて、掛けられた電飾が透き通った氷に透過してキラキラと光を放っている。


「親父、」

「!焦凍、お前が作ったのか・・・?」

「・・・悪かった。」

「は?」


下を向きながら、でもしっかりと言葉を紡ぐ焦ちゃん。


「昔、クリスマスに親父を氷漬けにしたって、お母さんと兄さんから聞いた・・・。」

「あぁ・・・、あれか。」

「すまねぇ・・・。」

「ははっ。いつもクソ親父って言って、個性ぶっ放してる奴が改まって何言ってんだよ。」

「零さん!!」

「くっ、」

「でも・・・綺麗だな。」

「・・・あぁ。」


コソッ

「母さん、」
「うん、良い雰囲気だね!」


大きな大きな氷のクリスマスツリーの上に、雪が積もっていく。
まるで白くてフワフワのモールのようにも見える。


「ほんと、綺麗だね!焦ちゃんすごい!」

「・・・あぁ。」

「母さん!LEDは俺が付けたんだぜ!」

「そうだったよね!新ちゃんもありがとう!」


いつもは喧嘩ばっかりの親子だけど、


「焦凍、お前の個性は凄いな。こんな、綺麗な物も生み出せる。凄い。」

「・・・。」


これは、焦ちゃんから零さんへのプレゼント。


「これで、チャラにしてくれ。」

「そんな気にしてないぞ。」

「それでも、だ。」




12年越しの、ごめんなさいとありがとうを込めた、クリスマスプレゼント。





「焦凍、ありがとな。」

「・・・おぅ。」





Merry X'mas!!


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