新一 19歳 焦凍 16歳
「母さん、今日帰り遅くなるから夕飯大丈夫だから。」

「あ、そうなんだ。お仕事?」


新ちゃんも無事に高校を卒業して、今年から東都大学に入学。
大学生活の傍ら、自分の事務所を構えて本格的に探偵業も始めました。
最初こそ反対していた零さんだけど、新ちゃんの頑張りと活躍を見て、今では応援しているみたい。


「あぁ。キッドから予告状が来たから、行ってくるよ。」

「え!?そうなの!?」

「園子のとこの美術館がまた狙われたみてぇで。」

「そっか・・・。気を付けてね・・・。」


キッドキラーとして園子ちゃんの叔父様に頼られてるのはすごいけど・・・。
やっぱり母親としては心配になっちゃう。
大丈夫かなぁ・・・。


「名前。俺も今日は現場に行くから安心しろ。」

「零さんも!?」

「なっ、オヤジもかよ!課が違ぇだろ!」


そうだよね・・・。
零さんは捜査一課だし・・・。


「今日は大掛かりな作戦になるって事で、一課からも助っ人が行くことになっているんだ。折角だから新一の勇姿を見物しようと志願したんだ。」

「へぇ!」

「・・・余計な事を。」

「でもママはなんだかふたりが同じ現場で活躍するって嬉しいな!・・・見に行っちゃおうかな。」

「「ダメだ!!!」」


え・・・。
そんな全力で拒否しなくても・・・。
確かに足手まといになるけどさ・・・。


「名前に何かあったらどうする!!頼むから家に居てくれ!!」

「そうだぜ母さん!キッドは必ず俺が捕まえる!だから安心して待っててくれ!」

「・・・うん。」


相変わらず過保護だなぁ・・・。


「お母さん。俺は学校終わったらすぐ帰ってくる。それまで大人しくしててくれ。」

「焦ちゃんまで・・・。」


焦ちゃんも無事に雄英高校に進学。
日々ヒーローになるために励んでいます。


「でもキッドは人殺しはしないし、うちには何も狙われる物なんてないよ?大袈裟だよぉ。」

「「「(名前)(母さん)(お母さん)が狙われるかもしれない!」」」


こんな時だけは、しっかりと声を合わせる3人・・・。


「焦凍!しっかりと名前を守れ。」

「言われなくてもそのつもりだ。」










新ちゃんたちの事も気になってるけど、確かに何かあってからじゃ遅いもんね。
だから昼間は3人に言われた通りに外に出ずに、家の中の掃除やなんかをして過ごした。


「ただいま、お母さん。」

「あ、お帰り焦ちゃん!」

「何も無かったか?」

「大丈夫だよ。ありがとう。」

「お母さんが無事なら、それでいい。」


ん"!!!
ほんとに焦ちゃんはイケメンに育ったなあ!!!
ママは嬉しいよ!!


それからふたりでご飯を食べたり、焦ちゃんは課題を片付けたり・・・
気付けばあっという間に時刻は22時を指していた。


「そろそろ新ちゃんが推理した予告時間だ・・・。」

「兄さんなら大丈夫だ。」

「うん・・・。」


そうだよね・・・。
それに今日は零さんもいるし・・・。


「お母さん。俺は庭で少しトレーニングしてくる。」

「うん。頑張ってね。」

「ありがとう。」


焦ちゃん偉いなぁ。
毎日クタクタで帰ってきても、こうして家でのトレーニングも欠かさずやって。
やっぱり、それくらいやらないとプロにはなれないのかな・・・?
今日の現場もきっと、警察の他にもヒーローたちが沢山いるはず。
そんな人たちの中で活躍してる零さんと新ちゃんは、ほんと凄いよ。

でも・・・
それでも捕まらないキッドって・・・。
すごい個性があるとか?
それとも・・・他に協力者がいる、とか・・・。


〜♪


「!」


ひとりでもんもんと考えていると、私のスマホが着信を知らせてきた。
あれ、零さん・・・?


「もしも「名前!!無事か!?焦凍はいるのか!?」


私の言葉を遮るように勢いよく捲し立てる零さん。
え、なに?


「えっと、何もないよ。焦ちゃんもお庭でトレーニングしてるし、」

「とりあえず焦凍とふたりで家中の戸締まりをして隠れていろ!!」

「え、何で・・・」

「頼む!!早く!!」

「え、あ、うん。分かった。」

「絶対だ!!」


ピッ


そして通話は切られた。
何・・・。
何が、あったの・・・?
でも言われた通りとりあえず焦ちゃんを呼んで・・・



ガタッ


「!?」



なんか・・・、上から物音、した?

違和感に、焦ちゃんを呼ぶのを後回しにして私は2階に上がった。
物音は私たちの寝室の方から。

そっとドアを開けると・・・
そこには揺れるカーテン。
それに・・・ベランダの立つ、白い大きな翼。

違う・・・。あれは、


「怪盗・・・キッド・・・。」


私の声に気付いた彼は、芝居のかかったような動作でこちらを振り向いて恭しく頭を下げる。


「おやおや。どうやら見付かってしまったみたいだ。」

「なんで・・・、」

「怖い怖い警察と、しつこい名探偵に追われ、疲れた羽を休ませていたところです。」

「っ、」


もしかして、零さんの電話って・・・

ビックリして動くことのできない私の元にキッドはつかつかと近付いてくる。
咄嗟に目を瞑るけど、何かされる気配はなくて。
そっと目を開けると、私の足元に跪くキッドの姿。


「突然の訪問、大変失礼致しました。これはほんのお詫びです。」


ポンッ!


「わっ!」


キッドの手から突然白いバラが飛び出し、差し出される。
すごい・・・!
何も持ってなかったのに・・・!


「どこから出したの!?も、もしかしてキッドの個性!?」

「個性?ふふっ。私は奇術師。そんな野暮なモノと一緒にしないで頂きたいですね。」


すごい・・・!ほんとに魔法みたいに・・・!


「どうやらお気に召して頂いたようだ。では、これはどうですか・・・。1,2,3!」

「きゃあっ!!」


キッドのカウントと同時に視界が真っ白になって。
驚いて目を瞑ると、一瞬の浮遊感と頬を撫でる冷たい風を感じた。


「目を開けて、お嬢さん。」

「え、」


恐る恐る目を開けると・・・
そこには大きな満月が。


「綺麗・・・。」

「おっと動かないで。落ちると危険だ。」

「え、っきゃ!」


よく周りを見ると、そこは我が家の屋根の上。


「え、いつの間に!?これもマジックなの!?」

「さぁて。どうでしょう。」


クスクスと笑うキッド。
なんか・・・思ってたよりも怖くない・・・。


「美しいお嬢さんには、美しい月夜がよくお似合いです。」

「っ、もぅ・・・。」


噂には聞いてたけど、ほんとに気障だなあ!
それに、


「私、お嬢さんなんて年齢じゃないよ?」

「え?」

「私、これでも「お母さん!!!!」



ドゴォ!!!



「「!!」」


私とキッドを遮るように突然現れた氷塊。
焦ちゃんの、個性・・・。


「うおっ!アブネェ・・・。」

「おい、こそ泥。お母さんから離れろ。」

「おいおい・・・。これ、お前の個性かよ。怖ぇなぁ・・・。」

「聞こえねぇのか。」


ドン!!


「!!」


キッドの方へボコボコと氷塊が迫る。
あぁ・・・屋根が・・・。
家が壊れちゃう・・・。


「少年、プロヒーロー以外の個性の使用は禁止じゃないのか?」

「証拠が残らなきゃ問題ねぇ。」


そう言って、もう片方の手から炎をちらつかせてキッドを威嚇する焦ちゃん。


「その複数個性・・・。お前、降谷警視のガキか。」

「・・・クソ親父は関係ねぇ。」

「へぇ。」


キッド、零さんの事も・・・焦ちゃんの事も知ってる・・・?


「ん?まて、お母・・・さん・・・!?」


ギギギと、音が聞こえるかのようにゆっくりとこちらを振り向くキッド。


「あ、私、降谷の妻で、そこにいる焦凍の母の名前です。」

「ま、まじかよ!!」

「俺のお母さんだ。」

「見えねぇ・・・。」


ちょっと、嬉しかったり・・・。
不謹慎だけど、ひとりで照れていると・・・


「名前!!」
「母さん!!」

「「「!?」」」


ヒューーーーー、シュタッ!!


「れ、零さん!?新ちゃん!?」


そこに現れたのは零さんと、新ちゃん・・・。
え、え、ま、え!?
ふたりとも、飛んできた!?
私の目にはふたりが向こうから空を飛んできたように見えたんだけど!?
え!?えー!?な、何で!?


「キッドが家の方へ逃げていくのが分かってオールマイトさんに投げてもらったんだ。」

「な、投げて!?」



『おいキッド!!待て!!』

『あっちは家が・・・!くそっ!名前!!』

『HAHAHAHA!降谷くん!それなら私に任せてくれないか!?』

『オールマイトさん!』

『よーし!降谷くん!新一少年!しっかり掴まるんだ!』



「という具合でな!」

「さすがオールマイトだ。」


焦ちゃん・・・。
そこ、目を輝かせるとこなの・・・?


「観念しろ、キッド。お前ぇもここまでだ。」

「中森警部にもこちらに向かってる。逃げられると思うな。」

「お母さんに触れたこと、俺は許さねえ。」

「!?キッド!!お前!名前に触れたのか!!??ますます逃がすことはできない・・・覚悟しろ・・・。」


ふ、不穏すぎる・・・。
そして我が家の屋根は大丈夫なのかな・・・。
屋根抜けない、これ?


「ははっ。流石に降谷家3人をひとりで相手にするのは私でも分が悪い。今宵はこのまま退かせて頂くとしましょう。」

「逃げられると思ってるのか。」

「もちろん。私は天下の大怪盗。不可能はありませんよ。・・・お嬢さん、」

「え、あ、はい!」


シルクハットに手をかけて、こちらを見てニヤリと笑うキッド。
そこには少しも焦りは見えない。


「また、今宵のような美しい月夜に再びお会いしましょう。」

「え、」

「それでは、失礼。」


次の瞬間、あたりは先ほどのように白に包まれて。
かと思ったら立っているのもふらいついてしまうほどの突風も。


「待て!キッド!!」

「逃がすか!焦凍!!」

「おう。」


ドゴォ!!!

零さんが飛び込み、新ちゃんが叫び、焦ちゃんが個性を発動させる。
でももうそこには、誰もいなかった。


「くそ!!」

「・・・中森警部に連絡してくる。焦凍、名前を家の中に。」

「お母さん、」

「う、うん・・・。」


焦ちゃんに支えられて屋根から降りようとした時、私の目に2色のモノが目に入った。


「・・・これ、」


キッドが私にくれて白いバラ。
そして・・・深紅の、翼・・・?

こんな羽、どこから・・・。


「お母さん、」

「あ、ごめんね!今行くよ。」





少し肌寒い夜のこと。
気障な怪盗さんとの、邂逅でした。









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