小説 | ナノ


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「やっほー多田野、おめでと〜」
「え、糸ヶ丘さんどうしたの」
「どうしたって、年が明けたからに決まっているでしょ」
「いやそうじゃなくて!この紙袋!」
「あー……ちょっとしたお礼」

1月5日、少し早いがお姉ちゃんと住まうマンションに戻ってきた私は、そのままの足で高校にやってきた。今日の目的は鳴先輩と多田野だ。


「多田野が連絡してくれたんでしょ」
「お姉さんに?」
「あと、鳴先輩にも」
「……あ、」

退院してすぐ、多田野にだけ連絡したら鳴先輩が私の部屋まで来た。伝えられるのは、彼しかいないだろう。

「ご、ごめん勝手なことして!」
「勝手なことって?」
「鳴先輩に糸ヶ丘さんが起きたこと伝えたり、あとマンションの部屋番号も……」
「別にいいわよ」
「いやでもあの後って、鳴さんと色々あったんじゃ、」
「うん、色々あったの。だから、」

「だからいーの!」
「ぎゃっ」

私が続けようとしたら、後ろから現れた鳴先輩が被せてきた。


「め、めいせんぱい!おはようございます!」
「おっはよー何しゃがみ込んでんの」
「ビックリしたからですよ……!もうっ突然現れるのやめてください!」
「へへっごめんごめん」

そういって私の手を取り、立ち上がらせてくれた。多田野はきょとんとして、こちらを見ている。


「どしたの多田野」
「見てんじゃねーよ」
「いや、そんなこと言われても……というか、鳴さんって謝ったりするんですね」
「は? 樹は俺が謝罪もできない人間に見えるわけ?」
「そ、そういう話ではなく!」

「糸ヶ丘に対してわがまま言うだけじゃなくなったんだなーって話だろ」

そう言いながら現れたのは神谷先輩。ジャージ姿でバットを持っている。なんか、威圧感あるな。


「なんだ、ヨリ戻したのか」
「別れてねーし!ねっかのえちゃん?」
「そうですよ神谷先輩、勝手に別れさせないでください」
「え、なんでおまえら普通に戻ってんの、会うの終業式以来だろ」
「それはねー、」
「……鳴先輩」

聞かれるがままに口を開こうとする鳴先輩の袖を引っ張って、話を止めてもらう。

「ん?」
「秘密にしておくって話になったじゃないですか」

多分、私たちが一瞬こじれたことも、野球部の一部しかしらないはずだ。せっかく冬休みの間に解決したんだから、『何事もなく仲がいいまま』でいる振りをしたい。

そういう話になったはずだったが、鳴先輩はちょっと不満そうだ。


「でもカルロたちは知っているし、いいんじゃない?」
「そうですけど……他の人たちには言わないでくださいね」
「分かっているって!」

「……糸ヶ丘さん、なんか変わった?」


私と鳴先輩のやり取りをみて、多田野がそう口にする。神谷先輩も、それに続けた。


「確かに。去年は鳴全肯定女だったのにな」
「それ、褒めているんですか?」
「褒められる行動じゃなかったから、今のがいいんじゃねーの」

倒れたことも聞いていたのか。小さくため息をついた。


「かのえちゃんも、わがまま言えるようになったんだよ!ね?」
「あ、そうだ!そうなんです!わがまま言いに来たんです!」


鳴先輩に言われて、一番大切な用事を思い出した。鞄をガサガサ漁る。


「これ、今日だけ持っていてください!」
「……鍵?」
「はい!これで私の部屋入ってきてほしいんです」


首をかしげながらも、私が出した合鍵を受け取ってくれた鳴先輩。夕飯後、私の住まうマンションなら近いしちょっとくらい遊びに行ける。そう言ってもらえたことを思い出しての行動だ。

しかしその様子をみて、なぜか多田野は顔を真っ赤にして慌てだして、神谷先輩は口笛を吹いた。この二人はいつまでいるんだろう。早くどっか行ってほしいな。



「……カルロ、今日は俺帰らないから」
「おいこら、帰ってこい」
「鳴先輩ってば、流石の私もケーキ食べる時間しか一緒に居てほしいなんて言いませんよ」
「えっ!?じゃあこれは!?」
「新婚っぽくて、いいなーって思って」

えへへ。へらりと笑えば、鳴先輩は多田野の背中に項垂れる。えっ駄目だったかな。

「め、めいせんぱい……その、無理ならいいです……」
「っ全然いいよ!約束通りかのえちゃんの手作りケーキ食べて、紳士だから帰るよ!」
「なんだ、食うのはケーキだけかよ」
「そうだよ!俺めっちゃ偉いでしょ!?」

先輩二人の会話を聞いていると、私の手作りケーキが、なんだかぞんざいな扱いを受けている気がする。



「……ねえ多田野、私のケーキ食べるのってそんなに努力が必要なのかしら」
「そっちじゃなくて、ケーキ食べるだけで帰ることが偉いんだと思うよ」
「?」
「糸ヶ丘って意外に純情なんだな。お兄さんが教えてやろう」
「わーっカルロやめろかのえちゃんに近づくな!!!」
「め、鳴先輩!!近い近い近い!!」


神谷先輩に肩を組まれたかと思えば、鳴先輩に腕を引っ張られてそのまま後ろから抱きしめられてしまう。突然の出来事に騒いでいれば、それを見てまた神谷先輩が茶化してきたり。多田野はため息をついて「そろそろ練習ですよ」と言ってきた。

何だかんだで、こういう時間も楽しい、かもしれない。


「……あ、ほんとに時間やべーな」
「カルロのせいだよ!」
「鳴がいちゃついているからだろ」
「いいじゃん!彼女が来たんだから!」
「お二人とも、ほんとにそろそろ行きますよ」

「仕方ないなあ……じゃあかのえちゃん、また後でね!」


そういって、三人は歩き始めた。ふと、大事なことを言っていなかったと思い出した。


「鳴先輩!」

結構距離が空いてしまったので、他の自主練をしている運動部もこっちを見る。でも、1番にこれを言うのは私の特権だ。ほかの人と会ってしまう前に、言いたかった。

私の声を聞いて、鳴先輩が振り向いてくれる。



「お誕生日!おめでとうございます!」


鳴先輩が、笑って大きく手を振ってくれた。私も振り返す。
さて、帰ったら一休みして、そしたら鳴先輩の為にチョコレートケーキを作ろうっと。


―FIN―

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