小説 | ナノ


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「そういや、面会って春だけか」

父を呼びに駐車場へ向かう途中、そんなことを聞かれる。

「うん。でもその前に夏集まるかな?」
「夏?」
「お兄ちゃんはのけ者ね」
「なんでだよ」

「甲子園。みんなで観に行くの」

そう言って隣を見れば、ガシガシと頭を掻き始める。照れているのか。照れているんだな。

「……そっか」
「うん」

「かのえも、次こそ出ろよ」
「うん、頑張る」


骨折のせいで、今シーズンは試合に出られない。秋の新人戦には間に合えばいいな。来年になると、兄も遠くへ行くかもしれないし。

「つーか、俺のこと母さんから聞いてなかったのかよ」
「私がお兄ちゃんのこと嫌っていると思って、話題に出さなかったんだって」
「……そーかよ」
「嫌っちゃいないからね?」

念のため伝えれば、ちらりとこちらを見る。やはり照れているな。だんだん面白くなってきた。

「ああでも、私が青道行くって知って、二人とも予想付いていたらしいよ」
「何が」
「仲直りするだろうなーって」

仲直りって言い方でいいのか分からなかったけど、実際兄は怒っていたので正しかった。随分と時間がかかってしまったが、これでようやく家族4人で集まれそうだ。それに、おじいちゃんにも会いに行けるかな。

「あ、ラーメンいつ奢ってくれるの?」
「その手じゃ食えねえだろ」
「ならとりあえずジュースでいいや」
「とりあえずって何だよ」

あーだこーだ言いながらも、駐車場から逸れて歩いてくれる。どこにあるのかと思ったら、どうやら野球部寮の内側にあるらしい。初めて来たから、初めて知った。

「あ、新作出てる」
「この間のシリーズじゃねえか」
「ねえ、不味かったら代わりに「飲まねえからな」

ちぇ、と文句を言うも、兄は無視して百円玉を入れて、勝手にオレンジジュースを押す。落ちてきた缶を開けてから、私に差し出してくれた。片手は折れて、片手は紙袋を持っている。困っていれば右手にあった袋と缶ジュースを交換してくれた。

「ほらよ」
「ありがと」

私ですら覚えていないけど、きっと、小さい頃に飲んでいたかしたんだろうな。そう思いながら、酸味の強いジュースで喉を潤す。



「……でもよ」
「うん?」
「かのえはバレてよかったのか」
「? 私はどっちでも」

私が気にしていたのは、ひとつだけ。高校野球に関心のある周囲が、あることないことを”倉持洋一”に対して話題にすることだけだ。
だから兄が大丈夫というのなら、私は何ら問題ない。

「本当か?」
「そっちこそどうなのさ」
「俺はすぐ卒業するからどうでもいい」

もしかして、”私が気にする”と思って、黙っていようと言ったのかな。お互い同じ考えだったことが分かってしまい、こそばゆくなる。堪えきれない笑みがバレてしまい、ちょっと引かれた。

「……なんだよその顔は」
「ううん。卒業してからも”チーターの妹”って呼ばれるのかなーと」
「お前ヒョウなんだろ」
「チーターの妹がいい」

だから、かっこいいお兄ちゃんでいてよね。

そう伝えれば、当然だと言って、今度は私の頭をガシガシと掻き回した。ああもう、相変わらず力が強いんだから。十年分を取り戻すように、私たちはくだらない会話を積み上げていく。

そして、これからも。


―FIN―

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