小説 | ナノ


▼ 01

「うわ、成宮」
「げ、糸ヶ丘と同じクラスかよ」

2年生に進級して、自分のクラスのみを確認して教室に向かった私は、あまり会いたくない男と顔を合わせてしまう。

「同クラスの野球部レギュラーが成宮だけとか……ガッカリ」
「お前、本っっっ当に失礼だよね」
「あーあ、稲実も飛び級制度あればいいのに」

それかもう一年、私が早く生まれていたらよかったのに。ため息をつきながら、自分の席を探す。うわ、成宮の隣だ。お互い渋い顔をしながら、自分の席につく。

「飛び級って賢い人しかできないんだよ?知ってる?」
「成宮は私の成績知っている?」
「は?糸ヶ丘って頭いいの?」

いくら去年別のクラスだったからって、流石に知っていると思っていた。自分から自慢話を振るのもどうかと思ったが、馬鹿にされてムカついたので普通に告げる。

「雅の彼女なんだから、成績上位に決まっているでしょ」

ふふんと鼻をならして自慢すれば、成宮はまた「うげー」と言いながら顔をしかめてくる。

「今、彼女アピールするタイミングじゃなかったよね」
「雅の彼女じゃなかったら、別に成績なんてそこそこでいいもの」
「うわー、引くの通り越して尊敬する」
「そ? ありがと」

素直に受け止めれば、成宮はより一層顔をしかめた。ぶつぶつと文句を言っているのが聞こえるけど、別に気にしない。

「ったく、雅さんもこんな女のどこがいいんだか」
「私も聞きたい。聞いてきてよ」
「うっせー自分で聞け」
「だって雅、教えてくれないし」

せっかくの新学期だというのに、私と成宮は普段と変わらない会話で落ち着いている。周りの女子は「誰と一緒だ、誰と離れた」なんて騒いでいた。私からすれば、雅とはどうあがいても同じクラスになれないんだから何でもいい。

「つーか告白の返事もらった時に言われなかったわけ?」
「え、」
「だーかーらー!糸ヶ丘のどこが良くてOKしたのか!言われてないの?」
「あー……言われてないっていうか、」

いつも散々雅のいいところを聞いてもらっているが、あんまり惚気話はしたことがない。だって、恥ずかしいし。だから、私はこの勘違いを無表情で正すことができるのか怪しかった。現に今、成宮は怪しんでいる。

「雅さん、もしかしてOKしか言っていないの?男気なーい」
「バッカ、雅は最高にカッコよかったんだから」
「じゃあなんて返事してくれたのか言ってみてよ」
「……返事っていうか、」

私が言い淀んでいることで、成宮がふと何かに気付いた。

「ちょっと待ってよ、もしかして」
「……えへ?」

何となく言いたいことが分かったので、笑って返事をする。お互い何も言っていないけれど、何となく通じている。

「は〜〜!?雅さんから告白したの!?」
「実は……えへ?」
「信じられない!!なんで!?お前がストーカーしていたのに!?」
「……その言い方は止めてくれないかしら」

ストーカーって。別にちょーっと試合によく出没したり、ちょーーっと練習を見ていることが多かっただけだ。いや、過去形じゃないんだけどね。

「えー……雅さん趣味悪……」
「確かに私はまだ雅に相応しい女ではないとは思うけど」
「お前のその性格じゃ一生無理だよ」
「うっさいわね」
「あーあ、なんか別の意味でお前の好きなとこ聞きたくなってきた」
「だから聞いてきてってば」

だらしなく座りながら、成宮が天井を見つつそんなことを言ってくる。だから私は頼んでいるってのに。雅から聞いて、そして私に教えてほしい。

「聞いても糸ヶ丘には言わないけどね」
「は? なんで?」
「だって、絶対お前ウザイ反応するじゃん」
「分かんないよ、雅が何ていうのか分からないし」
「ぷぷっもしかしたら「顔だけ」って言われるかもね〜」
「そうかもね」

あっさり肯定する私に、成宮は驚いた顔をする。

「そんな理由でいいの?」
「だって私は顔いいの自覚しているし」
「それ言うのすごいよね」
「でも、そんな理由でも雅が私と付き合ってくれているならいいの」

雅が私を選んでくれたなら、理由はなんだっていい。私は雅の彼女なんだから、自信持たなくちゃ。


「……糸ヶ丘って、いい性格しているよね」
「あらそう? ありがとう」
「褒めてねーよ」

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