小説 | ナノ


▼ 01

「……あんた誰」

家庭教師の先生の家で、突然背後から声をかけられる。

「な、成宮先生の生徒です」
「生徒?」

夏休み終盤、家のクーラーが壊れてしまい、家庭教師の先生に謝罪と断りの連絡を入れて自習のため学校へ向かっていれば、「なら私の家に来なよ」と予想外の返事がきた。

「私の家のクーラー壊れて、そしたら家来ていいよと言ってもらえたので、」
「あー姉ちゃんカテキョやってんだっけ」

途中で買った手土産を抱え訪れた成宮家は随分と大きく、そして綺麗だった。しかし、成宮先生の部屋はどうやら片付けが終わらなかったらしい。「ちょっと待ってて」と言われた私は、おとなしく2階の廊下突き当りで待っていた。

(今日は誰もいないって、成宮先生言っていたのに)

ぼーっと立っていれば、バタバタと階段を駆け上る音。そして、成宮先生と似た男の人がやってきて、今である。

「弟さんですか」
「そ、つーか青道の制服じゃん」
「ええ、まあ」

姉ちゃん、と呼んでいるので聞いてみたら、やはり弟さんらしい。遺伝子ってすごい、そっくりだ。

「何年?」
「2年生です」
「タメじゃん、野球部の応援行った?」
「決勝だけ」
「ふーーーーーん」

なぜ突然野球部の話題になったんだろう。知り合いでもいるのかな。

「知り合いでもいるの?」
「……むしろ、俺のこと知らないの?」
「弟がいるってことしか」
「はー?決勝で何見てたのさ」

何をと言われても、きちんとボールを追って試合を見ていた。ルールが分からないから、友達に聞きながら必死に応援していたので、よそ見する暇なんてない。そこまで考えて、ふと気付いた。

「……あ、ピッチャーの成宮?」
「気付くの遅い」
「えっ成宮先生の弟さんだったの?」
「そういう話しないわけ?」
「彼氏さんの話ならよく聞くけど、」

弟さんがいて、同級生ってことまでは聞いている。だけどまさか、うちの高校と戦った相手だとは思わなかった。

「つーか顔みたら成宮鳴だって気付かない?」
「小柄に見えていたから、こんな大きいと思わなかった……」

思ったままを口にしてしまってから、随分な失言をしてしまったと理解した。

(しまった、怒られるかな)

しかし、どうやらこれは彼の怒りに触れなかったらしい。むしろ何故か得意気な顔をしている。

「ま?俺も鍛えてますし?」
「たしかに、筋肉すごい」
「でしょー?」
「野球部ってこんなにゴツイんだ……」

思わず彼の腕をじぃっと見つめてしまう。別にイヤじゃないのか、左腕のTシャツの袖を巻くって、二の腕も出してくれた。おお、すごい筋肉。

「クラスに野球部いねーの?青道部員多いじゃん」
「いるけど、制服姿しかみないし」
「それもそうか」
「あ、でも御幸くんはガタイいいかも」

ぼんやりと思い出す。ここまでまじまじと筋肉をみたことはないのだけれど、身長は高かったはず。

「一也の同クラ?」
「あんまり喋らないけどね」

カズヤ、なんて名前だったかも定かではないくらいの関係性だが、多分御幸くんのことで合っているはず。

「あいつ人見知りなの? ウケる」
「野球のことばっかり喋っているよ」
「じゃあ野球の話すれば?」
「野球分かんない」
「分かんないー!って聞けば教えてくれるんじゃない?」

「ごめんねー! やっと片付け終わって……鳴ちゃんいたの?」

話は中途半端なタイミングだったけれど、成宮先生の部屋のドアが開いてしまった。「鳴ちゃんいつから?」「何日いるの?」なんて聞いている。そういえば、普段は一緒に暮らしていないって言っていたっけ。

「じゃ、勉強頑張って」
「頑張る、ありがとう」

”鳴ちゃん”に頭を下げて、成宮先生の部屋に入れば、ギリギリで片付けていたとは思えないくらいに綺麗だった。思わずきょろきょろしてしまったり、”弟の鳴ちゃん”の話を聞いていたら、結局今日はあまり勉強はできなかった。

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