のどかな真っ昼間。
「はー…今日の診察も暇だなァ…」
いいことである。ネムがいたらなかなか楽しいのだが、彼女は数年前から十二番隊で副隊長をしているので私の元にはもういない。表情薄めだがナイスバディ美人に成長した彼女はそれはもう強くて、闘える、回復できるとまさしく杜屋ちゃんと私を合わせて複製したような子になった。
今日の出来事は、マユリさんがいつものようにズタボロになって診察に来たので一発回道砲を放ってお帰りいただいた。どうせバイオレンスな教育でもしようとしたのだろうが、倍返しカウンターを学習したネムだ、始解無しでは厳しいと思う。
『キミ達は野蛮なサルなのかネ?ちっとも教育出来やしない』
私達が野蛮と言われる日が来るとは。美人な杜屋ちゃんこそ元とはいえ、私は現に四番隊ぞ?大和撫子ぞ?
…そう。私は今日も、四番隊四席にいる。回道砲のような画期的な開発はもうあれっきりだが、医療器具の改善等、技術の発展にはそこそこ協力しながら今の席に居座り続けている。いや、なんか、昇格しろよとか、別の隊で副隊長にならないかーとか、いろいろ言われたんだけど、私は死に抗う系四番隊隊員だからお断りした。というか、みんな私が罪人の妹だって忘れたんだろうか。拘束経験だってあるのに、そんな奴に身分をつけようなんか大問題だと思う。あ、卯ノ花隊長と更木隊長はノーカンで!
結局、四番隊副隊長は虎徹勇音ちゃんが就任した。回道の腕前はピカイチ、回道砲の適性はなかったけれど、本人がそこそこ戦地に突っ込める戦闘力を持っているから問題ないと思う。戦いに恐怖しても、命を救うために頑張れるいい子だ。なんとか支えになってあげたい。…まあ、
「四席がまた器材を破壊しました!」
「浦原」
「始末書はまた隊長宛でいいですか?」
相変わらず始末書トップランカーなんだけどね!支えるどころか足引っ張ってるよ!やっぱりあの時三席とか副隊長を希望しなくて良かったと思う!
そんなこんなで始末書を書き終え、隊舎の縁側でお茶を飲みながら休憩をとる。今日のお茶菓子はきんつば。美味しいなあ…と味わっていると、虎徹ちゃんが杜屋ちゃんを連れてやってきた。そうか、今日は毎月一回の講義の日だっけか。
「始末書の回収に来ました」
「杜屋ちゃんと一緒に来なくたっていいじゃん…」
はい、と書類の束を虎徹ちゃんに差し出す。私の書類を確認しながら、虎徹ちゃんが口を開いた。
「浦原さん、杜屋さん、聞きましたか?朽木さんの話」
「?」
首をかしげる私と杜屋ちゃんに、虎徹ちゃんが教えてくれる。
「十三番隊の朽木ルキアさんです。現世駐在任務中に行方が知れなくなったそうですよ。捜索しているようですが、気配がぱったりと無くなってしまったそうで」
「…霊圧自体が無くなっちゃったってこと?」
「はい。感知できなくなったそうです」
「………不思議だねェ…十二番隊の追跡も逃れられるような逃亡法がついに開発されちゃった?」
「十二番隊以外に誰が開発するんですかそんなもの…」
お兄ちゃんくらいしか思い付かん。生きてればだけど………。
始末書など書類の確認が終わったらしい。預かりますね、と言って虎徹ちゃんは去っていった。残された私たちは、互いに顔を見合わせる。
「………まさか?」
「まさかねェ」
親しい友は、言葉なくして同じ思考にたどり着いたようだった。
夜、広い自室で一人、兄の残した遺書を眺める。
――――お兄ちゃんが、本当の本当に、生きている…?
昼間の話を聞いて浮かんだ可能性。マユリさん率いる技術開発局を欺けるような技術を開発できる人間なんか現世にいるわけがない。ただ、尸魂界でそんなことをしようものならマユリさんがただではおかないはずだ。今のところ十二番隊が騒がしくないし、マユリさんが大人しい。尸魂界にいる誰かの所業ではないのだ。
そうなると、現世に追放されたお兄ちゃんの可能性が上がってくる。
「………考えてたら頭痛いや」
深呼吸をする。情報が無い上に足りないおつむで考えたってしょうがないのだ、と自分を落ち着ける。
ただ、藍染と、市丸――――彼らに気を配るだけでいい。彼らが動いたとき、きっと全て分かるのだから。
一人そう納得して古い紙を箪笥に仕舞い、いそいそと布団へ潜った。
また明日も仕事だからね!